Easterlies

Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。


21世紀の新しい社会変革モデル:すべては「つくり手」側に回ることから

21世紀の新しい社会変革モデル:すべては「つくり手」側に回ることから
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今年、私たちの職場にはどんな変化が起きるでしょうか。

昨年12月末、米国Gartner社は「9 Future of Work Trends for 2023」と題し、2023年の職場に見られるであろう「9つの変化」を紹介しました。(※1)

  • さらなるリモート・ハイブリッドワークの拡大
  • ギグワーカー(単発の仕事を受ける働き方をする人材)の雇用の増加

などが、代表的なものとして挙げられています。

いつ、誰と、どこで働くか。

職場の日常にも、様々な変化が生まれていくことが予想できます。

今月は、「変化する時代に求められるリーダーのあり方」をテーマにお届けします。

職場の「変化」について、どう感じているか?

マッキンゼー・アンド・カンパニーは、2021年、「組織変革に取り組む企業 60社(※変革に取り組んで2年以上経過している)」を調査し、 変革に成功する組織に共通する、いくつかの特徴を明らかにした。

その1つとして印象的なのは、個々の社員が、職場に起きつつある「変化」についてどう考え、感じているのか、なぜそのような反応をしているのか、という根底にある価値観や信念、マインドセットを明らかにするサポートが、変革の成功に寄与していたことである。(※2)

APAが米国の1500人を対象に行った「仕事と幸福に関する調査」によると、「最近または今、職場での変化を経験している」と答える従業員は、そうでない従業員と比較して、「慢性的な仕事のストレス」を報告する可能性が2倍以上高く、その数字は50%を超えている。(※3)

社員ひとりひとりが「変化」をどのようにとらえているか、そして、どのように「とらえ直していくか」。

このことが、組織変革の成功の鍵となることは明らかである。

ベルリンの壁を破壊した、「社会を変える二つの方法」

かつて、ドイツ人の政治経済学者のアルバート・O・ハーシュマン(1915-2012)は、ベルリンの壁が崩壊するまでのプロセスを研究し、個人が社会を変える方法には、2種類あると結論付けた。

「①イグジット(Exit:退出)」と「②ボイス (Voice:発言) 」である。(※4)

何か社会で賛同しがたい現実が起きているとき、個人が取れる行動として、そのシステムから「①退出する(組織から抜ける、商品を買わないなど)」、または「②発言する(反対意見を表明する、デモに参加するなど)」ことが、社会的な変革に繋がる、という意味である。

しかし、現代の社会を見てみるとどうだろうか。

今、多くの組織の中では「①イグジット」も「②ボイス」も発動されず、「③イグノア (Ignore: 無視)」と「④コンプレイン (Complain: 愚痴)」が横行している。(※5)

そう語るのは、慶應義塾大学で社会システム理論を教える井庭崇教授である。

昨年、米国のSNSを中心に話題となった「静かな退職(Quiet Quitting)」に目を向ければ、確かにこの傾向が強く表れていることが分かる。

これらは社会を変えないどころか、望ましくない状態が続くことを容認・支持することと等しい。

21世紀の新しい社会変革モデル:変化の「つくり手」になること

これからの時代に求められるのは、「⑤リフレーム (Reframe: 捉え直し) 」と「⑥ジェネレート (Generate: 生成)」ができる、創造的リーダーシップの能力である、と井庭氏は語る。(※6)

「ハーシュマンのモデルも、結局のところ、最後に状況を変えるのは「他の誰か」であり、「人任せ」である以上、現実を変えていく力が弱いことを、彼は指摘したのである。

目の前に起きている現実が正しいという「前提」を疑い、その場に自ら、新しい考え方やルールを「生成」しようと働きかけることでこそ、確実に新しい現実を生み出していくことができる。

このモデルは、私たちにこんな問いを投げかける。

あなたは今、組織に起きる変化の「観察者 (observer)」であるのか、あるいは、自分も一緒に変化を共につくる「つくり手 (Creator)」であるのか。

まずは、職場に蔓延る「③イグノア (Ignore: 無視)」と「④コンプレイン (Complain: 愚痴)」を、より生成的なコミュニケーションに変えていく。

その過程で、変化の「つくり手」を増やしていけるならば、組織にどんな未来が待っているだろうか。

  • 今、あなたは変化の「つくり手」ですか?それとも「観察者」ですか?
  • 今、あなたが職場で「見ないふり」をしていることは何ですか?
  • 今、あなたが職場で「不満に思っている」ことは何ですか?
  • それをフィードバックやリクエストに変えるなら、誰に何を伝えるべきでしょうか?

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【参考文献】
※1 ”9 Future of Work Trends For 2023”, Gartner, December 22nd, 2022
※2 Laura London, Stephanie Madner and Dominic Skerritt "How many people are really needed in a transformation?", McKinsey & Company, September 23rd, 2021
※3 "Change at Work Linked to Employee Stress, Distrust and Intent to Quit, New Survey Finds", American Psychological Association, May 24th, 2017
※4 Albert O.Hirschman, "Exit, Voice, and Loyalty: Responses to Decline in Firms, Organizations, and States", Harvard University Press, 1970
※5 井庭崇『クリエイティブ・ラーニング 創造社会の学びと教育』、慶應義塾大学出版、2019
※6 同上

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