Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。
「若手が育つ組織」とは?
2023年04月30日
新年度を迎え、真新しいスーツを纏って颯爽と歩く人たちを街で見かけます。
職場に新入社員を迎え、新しい風が吹くのを感じている方も多いのではないでしょうか。
新しく入社した若い社員の成長をどう支援するのか。
彼らに、どう活躍してもらうのか。
少子高齢化の進む日本にとって、若者の力を最大化していくことは社会全体の命題です。
そんな中、企業はどんな役割を果たせるのでしょうか。
今月は「若手が育つ組織」をテーマにお届けします。
若手社員が「働きやすい職場」を離れる理由
近年日本では、大手企業の新入社員の早期離職率が上昇傾向にある。
厚生労働省の調べによると、従業員が1,000人以上の大手企業のうち、 新入社員の3年以内の離職率は、 2009年卒の20.5% から2019年卒の26.5%へと 10年間で6%増えた。(※1)
リクルートワークス研究所の古屋氏は、 若手の離職の要因を「職場のゆるさ」だと指摘する。(※2)
- ここにいて、自分は本当に成長できるのだろうか
- 同世代と比べて、活躍できるのだろうか
調査に参加した新入社員のほぼ半数である48.9%が、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」という「不安」を持っていたのだという。
「もっと成長できる組織」を求めて
仕事に金銭的な見返りだけでなく、「成長の機会」をより一層求める傾向は、日本国内や新入社員に留まらない。
Gallup社のレポートによると、ミレニアル世代の87%、それ以上の世代は69%、仕事を探す際に「職業上またはキャリア上の成長・発展の機会」を重視していると回答した。(※3)
米国LinkedIn社の調べによると、職場における「学習と成長の機会」は、従来から、優れた職場文化の要素として重視されてきたが、2019年の9位から、2022年の1位へと、その重みが急速に増していることが明らかになった。(※4)
人生100年時代を迎え、リスキリングやリカレント教育という言葉が注目されるように、社員ひとりひとりが自らのキャリア形成や成長を求める傾向は、今後も一層強くなっていくだろう。
学習と成長のある職場とは?
ではどうすれば、企業や組織はもっと、社員の学習や成長機会を提供できるのか。
経営学習論で著名な立教大学の中原教授は、日本企業に勤める若手社員(28~25歳) 2,304名を対象に、「職場におけるどのような支援が、能力向上に役立ったか」を調査した。(※5)
その結果、業務に関する直接的な助言や指導をもらう「業務支援」以上に、仕事での体験を振り返ることをサポートする「内省支援」の方が結果として、業務能力向上においてのインパクトが大きかったという。(※6)
また、その関係性が、上司、上位者(先輩)、同僚のいずれの場合であってもその支援を受けたときに正の効果が見られたそうだ。(※7)
変化の激しい時代において、新しい知識やスキルを習得することも重要である。
しかし、これからの職場学習(workplace learning)の鍵を握るのは、「誰と・何の体験を振り返るか」。
このシンプルな「内省」にこそ、大きな成長が隠れているのかもしれない。
今、目の前で起きている体験から学べることの可能性に、私たちはもっと目を向けてみてもいいのではないだろうか。
- あなたは、自分の仕事について、誰と何を振り返っていますか?
- あなたは職場で、自分の体験を共有したい相手が何人いますか?
- あなたは誰の体験していることに興味関心をもって聞いていますか?
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【参考文献】
※1 ”厚生労働省,「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況」, (2023年4月13日閲覧)22nd, 2022
※2 古屋星斗『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』,中央公論新社 , 2022
※3 Amy Adkins and Brandon Rigoni,"Millennials Want Jobs to Be Development Opportunities", 2016, Gallup, Inc.
※4 "2022 Workplace Learning Report 2022", 2022, LinkedIn Learning
※5 中原淳『経営学習論 増補新装版』, 東京大学出版会 , 2021
※6,7 同上
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