Easterliesは、日本語で『偏東風(へんとうふう)』。「風」は、外を歩けばおのずと吹いているものですが、私たちが自ら動き出したときにも、その場に「新しい風」を起こすことができます。私たちはこのタイトルに、「東から風を起こす」という想いを込め、経営やリーダーシップ、マネジメントに関する海外の文献を引用し、3分程度で読めるインサイトをお届けします。
「多様性、公平性、包摂性」を求めて
2023年05月28日
昨今、企業が社会に価値を提供する上でも外せない要素として「多様性、公平性、包摂性(Diversity, Equity, and Inclusion; DEI)」が求められています。
そのため多くの企業は、組織としてのDEIレベルを高めるために目標を設定し、その実現のために、様々な施策やルールを設けています。
しかし、そもそも組織が「多様で、公平で、包摂的」であることは、なぜ重要なのでしょうか。
今回は組織における「多様性、公平性、包摂性」について紐解きます。
DEIと経営指標の関係
DEIと経営指標の関係性に関する調査は、枚挙にいとまがない。
例えば、マッキンゼーの調査によると、役員チームのジェンダー多様性を比較した際に、上位の4分の1の企業は、下位4分の1の企業よりも収益性が高い可能性が21%高いことがわかった。(※1)
同リサーチでは、リーダーシップチームにおいて民族的・文化的な多様性がある企業は、競合他社よりも良好な業績を示す傾向があることも明らかになっている。
また、ハーバード・ビジネス・レビューによると、DEI(Diversity, Equity, and Inclusion)スコアが高い組織は、そうでない組織と比べて「変化適応力」が高いことも判明している。(※2)
業績へのインパクト、そして、組織の変化適応力。
そう考えると、どの企業にとっても、今の時代を生き抜く上で、組織のDEIが大事な要素であることは明らかだ。
トークニズムの危険性
しかし一方で、DEIへの取り組みが「トークニズム」に陥っている可能性も指摘される。
「トークニズム」とは、公正な取り扱いをしているように見せるため、あるいは、批判を回避するためだけに何かを行うことを示す。
デロイトによる調査(Deloitte 2023 Global Human Capital Trends survey)では、DEIの活動そのものに過度な重点が置かれ、公正な結果には十分な重点が置かれていないことを指摘している。(※3)
調査結果によると、対象となった組織の23%が、多様性の取り組みの進捗を、「コンプライアンスの遵守」という基準に照らし合わせて測定しており、それでは、成果よりも活動自体に焦点が当たる可能性があると指摘する。
DEIに取り組むことは重要だが、活動のみに焦点が当たると、そもそもの目的を見失うリスクが高くなる。
なぜDEIに取り組むのか
時代の要請に伴い、多くの組織はDEI推進のための仕組みや制度を設け、KPIを設定して取り組んできた。
しかし、このように活動自体が目的になっては本末転倒である。
ボストン・コンサルティング・グループがミュンヘン工科大学と実施した、「多様性とイノベーション・パフォーマンスの関係性」についての共同研究がある。
この研究では、組織の多様性の施策が本当に機能するためには、そもそも多様性を受け入れる「文化」が培われていることが条件であり、その一歩先にある、「組織の多様化によって生み出されたアイデアが自由に競争できる状態」が組織に大きな価値をもたらすことを主張した。(※4)
そもそも何のためにDEIに取り組むのか。
そこに向けて、どのように人々の意識や行動を変えていく必要があるのか。
社会からの要請に応えるための「守りのDEI」から、組織に価値を創造するための「攻めのDEI」へ。
今、私たちには何ができるのだろうか。
- あなたの組織ではどのようなDEIの取り組みがありますか?
- それは何を実現するための取り組みでしょうか?
- あなたは、その実現に向けて誰とどのように関わっていますか?
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【参考文献】
※1 Sundiatu Dixon-Fyle, Kevin Dolan, Dame Vivian Hunt, Sara Prince, “Diversity wins: How inclusion matters”, Mckinsey Insights, May 19, 2020
※2 David Michaels, Kevin Murphy, Karthik Venkataraman, “How Investing in DEI Helps Companies Become More Adaptable”, Harvard Business Review, May 05, 2023
※3 Joanne Stephane, Christina Brodzik, “Taking bold action for equitable outcomes”, Deloitte Insights, January 09, 2023
※4 Rocio Lorenzo, Martin Reeves, “How and Where Diversity Drives Financial Performance”, Harvard Business Review, January 30, 2018
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