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エグゼクティブには、なぜプレゼンスが大切なのか?
2018年03月16日
コーチを職業とする者にとって、クライアント候補や、組織で決定権をもつ人物と出会ってすぐに信頼関係を築けるかどうかは非常に重要である。とても短い時間の中で、相手と意気投合したり、コーチとクライアントとしての関係を築かなければならない。もし、わずかな時間で関係を築くことができれば、あなたはコーチとしての仕事に困ることはないどころか、仕事を成功させることができるだろう。
エグゼクティブ・プレゼンスを磨くことには、コーチにとってどんな意味があるのだろうか?
リーダーたちと仕事をする場合、私たちは、自分たちが何者で、どういう立場にあるかを、言葉ややりとりを通じて彼らに理解してもらう必要がある。優れたプレゼンスは、彼らからの信頼や信用を得やすくし、ひいてはビジネスの成功につながる。心理学から、マネジメントやリーダーシップ、コミュニケーション、社会学理論、哲学や倫理といった分野において確立された理論や文献における研究は、科学的根拠に基づいた質の高いリーダーシップのモデルを示してくれる。それは、エグゼクティブ・プレゼンスと定義することができるものだ。人と関わるときに、このモデルを試し、その質を高めることにより、契約を勝ち取り、強力な関係を築き、ビジネスの継続が可能となることがわかっている。
エグゼクティブ・プレゼンス・モデル
下記はエグゼクティブ・プレゼンスを、人格、要素、スタイルの3つの側面で分けたモデルであり、アセスメントツールである。このモデルでは、3つの側面をさらに5つの要素に分けた。この15の要素は、よいリーダーがより優れたリーダーになるための資質であり、こうしたリーダーに信頼され、影響を与えるような仕事をする者にとっても身につけるべき要素である。このモデルでは、エグゼクティブプレゼンスを、人と関わったり、寄り添ったりして影響し、人を行動に向かって促していく資質だと定義している。こうした資質がコーチとしても備えているべき資質であることは明白である。
エグゼクティブ・プレゼンス・モデル
人格 | 要素 | スタイル |
---|---|---|
信頼性 | 経験値 | 見た目 |
自信 | 自信 | 意志 |
気遣い | 冷静さ | 包括性 |
自制 | 共感 | 双方向性 |
謙虚さ | ビジョン | アサーティブネス |
© Bates Communications 2018
誰にでも、強みだけでなく、開発を必要とする領域がある。コーチとしてのあなたは、その場その場で適切な判断を下す「実践知」の専門家であると認識されているかもしれない。たとえば、あなたは、ずばっと要点を言ったり、刺すような質問をしながら、議題を検討し議論の場を作る。しかし、あなたが無意識のうちに行っている習慣やあり方によって、あなたの知的な行動に対するクライアントの満足度が低くなっているかもしれない。
「共感」と「気遣い」
「共感」や「気遣い」といった社会・情緒的資質は、コーチとしての信頼を得るためにクライアントに示すべきである。この考え方があってこそ、クライアントはリーダーをめざして、成長していく努力をするのかもしれない。
前述の「共感」と「気遣い」という2つの資質がよいコーチングのためにいかに重要となるか、さらに深く考察していきたい。「気遣い」は上記の表の人格軸に属する資質である。それは、クライアントの考えや気持ちにに寄り添えるという能力であり、「クライアントにとっての問題はコーチにとっても問題」であると伝えることである。これは、事務的ではなく、とても誠実な姿勢である。クライアントの仕事上のゴールや個人的なゴールといったさまざまな側面を時間をかけて知るということで、示すことができる。
「共感」とは上記の表の要素の一つであり、相手に感情を聞いてもらったり、理解してもらったりするときに表現されるものである。それは単純に言葉を聴くことや、言外の行動の意味を理解すること以上の行為であり、我々コーチの反応を通して、「印象に残り、影響を与えている」ということを相手に伝えることである。
「冷静さ」と「自制」
このような資質を理解し、リーダーに対してかたちとして表すことも、関係性の中で、信頼と価値を築くひとつの方法である。たとえば、あなたが「冷静さ」と「自制」に苦しんでいるリーダーをクライアントにもっているとする。このリーダーはアクション・バイアス(何かを成し遂げるために、行動がすべてであると考える傾向)をもっている。彼は、自分が答えをもっていることについてとても自信があるが、恐らく周囲からは、謙虚さに欠ける人物だと周りにみられているだろう。このようなタイプというのは、衝動的な行動をとる傾向があり、物事を感情的に対処する傾向がある。そういうリーダーは、問題に過剰に反応してしまったり、人の話を聞く前に話したり、他の人が議論に加わる前に決断してしまう傾向があるかもしれない。
このようなリーダーに対して、あなたはどのように接するだろうか? よりポジティブな行動を示すことによって、また、そのリーダーのポジティブな行動が周りからどう見えるかを理解してもらうことによって、手助けすることができるかもしれない。自制心をもっているコーチは、節度と理性的な態度を示す。感情を示さないということではないが、コーチは、自分の気持ちや考えを抑える能力をを示すことができる。質問をした後、リーダーからの返答をきいて、一息合間をとる。聞いたことをじっくり考えるのだ。リーダーが答えたことをを繰り返し、質問をして、すこし合間をとる。それはあなたが憶測で話しているわけではないことを示している。
同じように、コーチであるあなたは、感情を鎮めて議論に集中することで、「冷静さ」のお手本を示すことができる。「冷静さ」というのは、成熟したリーダーが身につけている資質である。多くの困難な状況を乗り越え、危機的状況の中で安定した状態を維持してきた結果、彼らが身につけたものなのである。「冷静さ」は、不確かなことがあるときでも落ち着いて見え、問題に対して視点を与えることで、他の社員の考えがはっきりするように促すような資質である。あなたも、新しいクライアントの最初のセッションから、このリーダーシップのモデルになることができるだろう。
「アサーティブネス」が意味すること
エグゼクティブ・プレゼンスの資質というのは、理想的な行動だけではなく、健全で生産性の高い会話を促したり、クライアントとの中身の濃い会話をもつことにも貢献する。恐らく、あなたのクライアントは「アサーティブすぎる」とか「周りの人を黙らせるようなスタイルをとっている」というようなフィードバックを受けているかもしれない。クライアントがそのことによる影響を理解し、行動を変える試みを後押しするためにに、あなたはどのような策をとれるだろうか。「アサーティブネス」というのは、往々にして、攻撃的とか不躾に遠慮なく発言することと混同されてしまうことがある。しかし、これは、「アサーティブネス」が意味することではない。アサーティブなリーダーは間髪いれずに問題を検討して、社員がそれぞれの違いを建設的に乗り越えていくことを促すのである。
あなたは、コーチとしての手本になるだけではなく、これまでリーダーたちがその資質をどのように示してきたのか、という具体的な体験談をクライアントに話すことができる。あなたのクライアントで、同じようなチャレンジをしていたリーダーについてありのままに話そう。彼らの体験を話すことで、あなた自身の「自信」や「信頼性」「共感」できる態度を示せるのだ。そのリーダーが、どのようにあなたのクライアントのスタイルを取り入れるだろうか、ということををいっしょに描くことで、あなたの「意志」が伝わる。そのことによって、クライアントとの会話がより意味をもち、記憶に残るものになる。
エグゼクティブ・プレゼンスが表現する「見た目」とは
多くの人は、エグゼクティブ・プレゼンスという言葉を聞くと、前述の表のスタイル軸のことを思い浮かべる。前述の表はプレゼンスに関する重要な資質の一つを無視しているわけではない。「見た目」も15の資質の中のひとつである。「見た目」には、服装や身づくろいだけではなく、エネルギーやバイタリティーも含まれる。リーダーと信頼関係を築き、早期によい関係を作る方法の一つには、優れた人に見える、そんな雰囲気をもっていることも含まれるのである。フォーマルであっても、ビジネスカジュアルであっても、あなたが選ぶ服は、クオリティが高く、プロフェッショナルである必要がある。それは、「誠実さ」「共感」「実践知」も示すような、敬意の証しである。あなたの「見た目」は、クライアントの環境を認識、理解し、またクライアントとコーチ自身への敬意を示すものである。
人と会うときに健康的で、良く気づく感じに見えたり、そういう気持ちでいると、あなたが人と関わるときに、相手に対して活力と関わりたくなるような感じを与える。あなたが内向的でも外交的でも、人と関わるときに、あなたの姿勢やマナー、声のトーンやイントネーションに一定の信頼感を築く必要がある。このことは、エネルギッシュで実行力の高いリーダーを相手にするときには、より重要となる。クライアントは バーバル(言語)あるいはノンバーバル(非言語)の手掛かりをとおして、あなたの能力、適性を見極めていると同時に、自分達に見合ったレベルで彼らと一緒に働く準備があるかどうか、また継続的に、長期間、価値のある関係性をもつ準備があるかどうかを読み取っている。
あなたのエグゼクティブ・プレゼンスを洗練させ、磨いていくことは、あなたがコーチとして成長していくために必須なことである。この科学的な根拠に基づいたリーダーシップ・モデルはエグゼクティブ・プレゼンスの微妙なニュアンスを表している。前述した資質を高め、発展させていくと、あなたはクライアントのパートナーとして、そしてコーチとして信頼されるようになる。これらの資質は、あなたがコーチとして成功するために、クライアントとの関係を築いていく基礎となるものである。
筆者について
スーザン・ベイツ氏(Suzanne Bates)は、2000年に設立されたベイツ社のCEOで、同社はリーダーが世の中に影響力を発揮していく支援をしている。著書に"Speak Like a CEO: Secrets for Commanding Attention and Getting Results" (McGraw-Hill Education), 2005 がある。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Why Executive Presence Matters
(2016年5月7日にICFのCOACHING WORLD に掲載された記事の翻訳。筆者の許可を得て翻訳・掲載しています。)
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