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プレッシャーをいかに扱うか

【原文】Under Pressure
プレッシャーをいかに扱うか
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あなたのクライアントが自分のプライベートな挑戦、あるいは仕事上のチャレンジを「プレッシャー」だとすることは、コーチングセッション中どれくらい頻繁にあるだろうか?同じように、あなたが自分の生活や仕事で、プレッシャーを感じる頻度はどれくらいだろうか?

時にはいい方向に働くストレスとは異なり、プレッシャーは決して役に立たない。プレッシャーは判断力、意思決定、注意や記憶などの、成功のためのツールに悪影響を及ぼす。例えば、時間的プレッシャー下にある救急処置室の看護師は、病歴の記録に重大な記載もれをおこしてしまう。学生は良い点を取ろうとするプレッシャーが大きいと、数学や英語のテストで悪い点をとり、チェスやブリッジの選手などは練習よりもトーナメント戦で失敗することが多い。

プレッシャーはまたチームのパフォーマンスにも影響する。ハーバード・ビジネススクールのハイジ・K・ガードナー経営学助教授は、いわゆるプレッシャー・パフォーマンス・パラドックスなるものを論証した。それは、チームがパフォーマンスに対する大きなプレッシャーに直面すると、革新的なことを避け、安全で絶対確かな解決策を求めがちであること。また、地位は低くても課題に関するノウハウを持つチームメンバーよりも、地位の高いメンバーに従ってしまうという説である。

プレッシャーは人と人とのコミュニケーションを脱線させ、口ごもらせたり、重大な事実を忘れたり、あるいは怒りに満ちた話し方をしてしまう原因になる。プレッシャーは、個人の倫理感を試すことさえある。例えば、成績トップの学生が学年末試験にカンニングしたり、管理職が年度末の評価において、自分のチームの成績をごまかすことなどが思い当たるだろう。

クライアントにプレッシャーがかかっている状況を認識して、前向きな対応をサポートすること、それが、成功を目指して苦悩するクライアントをサポートする上で、コーチにとっての重要なステップであると言えるだろう。

ピンチに強いという神話

プレッシャーのもとで冷静に振舞う才能に恵まれた人が存在するというのは、広く知られた概念である。試合終了間際にスリーポイントシュートを決めたり、あるいはチームに過去最大の利益をもたらすセールストークができたり、このような人たちは常に難局を切り抜けるのだ。彼らは、おそらく鋼鉄の神経を持ち、プレッシャーによって成長するのだろう。

実際には、大きなプレッシャーがかかる場面で「(自ら進んで)難局を切り抜ける」人などはいない。プレッシャーに負けないスキルが高い人たちが存在するだけだ。これは、プロスポーツの世界に多くみられる。元メジャーリーグ選手のデレク・ジーター遊撃手は、「ピンチの救世主」と言われていた。しかし、ジーターの生涯打率、3割1分は、彼自身のプレイオフ打率と同じなのだ。ジーターは、プレイオフ戦で「(自ら進んで)難局を切り抜け」て彼自身の平均以上の実力を発揮したわけではない。彼の強みは、プレッシャーの下でも平均以下の成績を残さなかったことである。

ピンチに強いという神話は危険だ。なぜなら、それは到達不可能な理想を意味する。そして、理想に到達できなかった時、個人の自尊心に打撃を与えてしまう。クライアントに対して、ピンチに強いという神話は神話にすぎない、つまり、経験に裏付けられた根拠のない、昔から言い伝えられてきた物語に過ぎないと理解させること。、そのことによって、この広く認知された有害な偽りの比較論に影響を受けずに、彼らが自分の目標を追求する力を与えることが可能だ。

プレッシャーを避けるのは自然な反応

あなたのクライアントが、目標に到達する過程でプレッシャーに直面することは避けられないし、それを回避したがるのは当然だ。生来、人間は苦悩を回避したがるものである。なぜプレッシャーが本質的に恐怖なのかということは、人類初期の「プレッシャー状況」においては、失敗行動が致命的となったことを考えると容易に理解できる。つまり、一方の山の岩壁からもう一方へと飛び移らなければ、絶体絶命だったのだ。「生きるか死ぬか」の観念は、極端なものではない。

今日の世界において、「プレッシャー状況」の大半は、生死にかかわることはない。さらに、我々の先祖が生き延びる助けとなった感情的な反応(例えば恐怖や不安)は、クライアントが効果的に力を発揮して目標を達成するのを実際に阻止しかねないのだ。

プレッシャーを恐れる人が、目標に向かってすぐれた進歩を遂げても、「商品を配達する」瞬間、そして大きな変化をもたらす手前でとどまってしまうことはよくある。大きな変化とは、例えばチームメイトとの対立、退職、新しいビジネスの定款の提出などである。この障害は、プレッシャーに真正面からぶつかるよりも、回避する試みを意味する。クライアントが行動を、チャンスまたはチャレンジととらえるようコーチとしてサポートすることで、、クライアントは前進し目標を達成させられるのだ。

プレッシャー状況を理解する

プレッシャー状況とは、問題となっていることが自分のパフォーマンスにかかっていると、認識する状況である。プレッシャー状況には、概して3つの特性がある。これらの特性を認識し、理解することで、あなたとあなたのクライアントがプレッシャー状況を理解し、それに対応することができる。

プレッシャー状況とは、あなたのクライアントが非常に重要だと認知する状況に関係している。そして、認知している重要度が高いほど、クライアントはプレッシャーを大きく感じやすい。あなたとのコーチングセッション中に、クライアントが特定の状況を話題にあげる頻度が高いほど、またはより緊急にその話題をあげるほど、本人がその重要性を高く認識している可能性が高い。

プレッシャー状況とはまた、希望する結果の達成に不確定要素が存在する状況と関係している。

最後に、プレッシャー状況はまた、結果の責任はすべて自分ひとりにかかっているとクライアントが感じる状況と関係している。たとえそれが実際には真実であろうとなかろうとである。これらのプレッシャー状況の共通点を認識し、それをクライアントに教育することで、強力で新しい洞察につなぐことができる。それは、なぜ、そしてどのようにクライアントがその独自のやり方でプレッシャーを感じるのか、そしてその感じ方と前向きに取り組む手段についての洞察である。

不安の調整弁が必要

前述した内容に、デレク・ジーター遊撃手を例に挙げ、生涯打率とプレイオフ戦における打率を用いて、彼がプレッシャーに直面した時の一貫性を証明した。しかし、ジーターのケースは例外であり、誰もができることではない。現実では、多くの人はプレッシャー下では実際に緊張し、平均以下の能力しか発揮できない。この理由のひとつは、「不安認知」の増大、あるいは限りなく自意識に拍車をかける思考である。例えば「私の出来栄えはどうか?上司はどう思っているか?彼が私と同意見でなければ、どうなるのか?」というものである。このような考えはばらばらに脇道に逸れて、仕事のメモリー空間を占領し、重大な情報を忘れたり、または思考回路を失う原因となりうる。さらに、不安、失敗への恐怖、ストレスや困惑など、プレッシャーから生まれる苦悩の感情は、パフォーマンスのあらゆる側面を乱すのだ。

あなたのクライアントがこのような苦悩の感情を最小化し、気が散るような不安認知を取り除くことができれば、プレッシャー状況に限らず、毎日でも集中力を保ち、そして成功のチャンスを増やす可能性は高くなるであろう。

プレッシャー状況に紐づく苦悩の感情を軽減し、集中を保ちながら自らの行動を好結果に導く助けとなるような、根拠に基づいた手段というのは数多く存在する。

シカゴ大学心理学部のサイアン・ベイロック教授は、切迫したプレッシャー状況の前夜に不安や恐怖事項のリストを作成すると、よりよいパフォーマンスをもたらすことを証明した。この「構造化された不安」を扱うエクササイズは、事前にクライアントが自身のシステムから不安を追い出すことにより、プレッシャー状況下でその不安が表面化する可能性を低くする助けとなる。

クライアントはまた、プレッシャー状況におけるパフォーマンスを高めるために全体論的な単語/イメージを、合図として使うことも可能だ。香港大学ウィング・カイ・ラム研究員によると、若いバスケットボール選手が、クッキーをクッキーの瓶に入れるイメージでフリースローを投げるよう指導されたほうが、フリースローの仕組みについて説明を受けた選手に比べて、フリースロー対決での成績が良いことが分かった。あなたのクライアントも、本人がプレッシャー状況で表現したい一語、例えば「格好いい」「リラックス」「楽しい」に焦点を当てることで、同様の成果を得ることができる。

プレッシャー状況に屈するのではなく、成功するために利用できる技や戦略を探すべく、創造的なブレインストーミングに取り組むようクライアントに勧めるべきだ。

アーマーコート(よろい)を身にまとう

今日では、自信(Confidence)、楽観(Optimism)、粘り強さ(Tenacity)そして熱意(Enthusiasm)(COTE)が精神的な財産としてとらえられている。しかし、ポジティブ心理学が登場するはるか以前より、これらCOTEの特性は人類が日常の脅威に直面した時に、能力を発揮するために生まれた、適応するための精神であった。

進化論的観点から、これらの特性は、プレッシャーからの有害な影響と戦うために、生まれ持った道具なのだ。自信に満ちた人は、プレッシャー状況を脅威と思わない。彼らはそれをチャレンジやチャンスと見なす。熱意の高い人は、新たな決定を不安に感じるよりも、それを取り入れようとする。非常に粘り強い人は、たとえ後退しても前進する可能性が高く、また非常に楽観的な人は、たとえ大きな障害に直面しても目標は達成可能と信じる。これらの特性をすべて兼ね備える者は、よろい(COTE of Armor)をまとって成功を手に入れる用意ができているといえよう。

プレッシャーを脅威と見なして、プレッシャー状況では息が詰まると言うクライアントは、COTEの度合いが低い場合も多い。従って、クライアントにこれらの特性を養うサポートをすることは、彼らのプレッシャーに対する反応を高めるという二次的な効果もあるのだ。

大半のプレッシャー状況は、クライアントに生死にかかわる影響を与えるわけではないが、クライアントもそのように感じるとは限らない。しかし、プレッシャーがどのように見えるか、またその作用に関してあなた自身の認識を高め、同じことを実行するようクライアントを力づけ、プレッシャーに前向きに対処するための戦略を発展させることで、プレッシャー状況に対して前向きで効果的な対応をとるサポートができるのだ。

筆者について

ヘンドリー・ウェイシンガー博士(Hendrie Weisinger, Ph.D.)は、臨床心理学、カウンセリング心理学、組織心理学の教育を受けおり、プレッシャー・マネジメントの概念を生み出した人物。数多くのFortune500の企業や政府機関に対し、コンサルテーションの実施やプログラム開発をしてきている。ウォートン・スクール、UCLA、ニューヨーク大学、MITなどのエグゼクティブ教育、エグゼクティブMBAの学科で教鞭をふるっている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Under Pressure
(2015年4月17日にICFのCOACHING WORLD に掲載された記事の翻訳。ICF
の許可を得て翻訳・掲載しています。)


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