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なぜリーダーはよいライターである必要があるのか?
2022年03月29日
有能なマネージャーになるには、書く能力をはじめとした高いコミュニケーションスキルが必要だ。リーダーが陥りがちな失敗を回避し、能力を高めるためのヒントを、いくつか紹介する。
今こそ、リーダーの書く言葉が重要視されている
2022年の抱負や目標は、もう決まっているだろうか。ここで「ライティングスキルを向上させる」という提案を追加させてほしい。これは誰もが常に目指している目標のひとつなのかもしれない。しかし、今こそ、ライティングスキルはリーダーシップに必要な能力なのだ。全社的なメール、メモ、ツイートなど、リーダーからのコミュニケーションのほとんどは、まず文書で始まり、そのことを理解することは、強い文化を築く手助けになる。しかし、ハイブリッドなワークスタイルが長期化する中で、文化を築くことはより難しい課題となっている。
だからこそ、リーダーはこれまでよりも頻度高く、より良いコミュニケーションをとることで、全員がチームの一員であるという意識を創出していかなければならない。テキサス州に本社を置く小売チェーン、「コンテナ・ストア」の共同設立者で元CEOのキップ・ティンデル氏が、数年前のインタビューで語った言葉を思い出す。「私たちの基本原則のひとつは、リーダーシップとコミュニケーションは同じものであるということです。コミュニケーションとは、リーダーシップと同義なのです。」
最近では、ビデオ通話によるプレゼンテーションや話すスキルが注目されがちだが、昔ながらのコミュニケーションである「書くこと」が軽視される傾向がある。ウェブサイトの「会社概要」ページから、社員に送るメール、顧客やクライアントとのコミュニケーションにいたるまで、文章は企業文化やブランドイメージを伝えるうえで大きな役割を担っている。
より良いライターになるための大切なヒントをふたつ紹介するが、その前に、このテーマに関連する私の経歴について説明しておこう。現在私は、リーダーシップのコンサルティングに携わっているが、記者と編集者を30年間務め、そのうち18年間はニューヨーク・タイムズ社に勤務していた。その経験において私は、ライターが陥る失敗を何度も繰り返し見てきた。そのような失敗はジャーナリズムの世界に限ったことではない。ここでは、その中でも特に代表的な例をふたつ紹介する。もしあなたがこれらの失敗を認識し、避けることができれば、より良いライター、コミュニケーター、そしてリーダーになれるであろう。
WSL問題
WSLとは、Writing as a Second Languageの略で、「第二言語としてのライティング」という意味だ。私はこの略語を使いながら、多くの人は文章を書くことと話すことはまったく別のコミュニケーション形態であるととらえていることを表現している。そのようにとらえている人は、不自然な文章構成を使ったり、「contrapuntal(対位法)」や「eschew(避ける)」といった、日常会話ではほとんど使わないようなフォーマルで気取った単語やフレーズを使うのである。
その目的は、自分を賢く見せるためとか、印象づけるためかもしれない。あるいは、大学時代に教授からアカデミックなライティングを学ぶよう求められたことがきっかけで、ストレートな考えを伝えるために、わざわざ難解な方法を見つけるようになったのかもしれない。
どのような意図であれ、WSLのとらえ方をしていると、書き手と読み手の間に距離ができてしまう。それは今、リーダーに求められていることとは正反対なことである。多くの人が自宅で仕事をしていることでリーダーの話を直接聞く機会が少なくなったのなら、我々はEメールを通じてリーダーが話す内容を「聞く」必要があるのだ。会話に近い文章ほど、書き手と読み手の距離を縮めてくれるし、実感がこもっている。書き手をリアルに感じることは、オンライン中心の生活になった今、誰もが切望することだろう。
WSLを防ぐには、自分が書いたものを見直すときに、次のような簡単な確認をするとよい。
- この文章は自分らしく書かれているだろうか?
- もし私が同僚と面と向かって話すとしたら、このように話すだろうか?
声に出して読むことは、WSL問題をチェックするには良い方法だ。他の人があなたのために書いている場合はなおさらである。
「専門家病」問題
「専門家病」とは、自分の専門分野に入り込みすぎることをいう。他の人も自分と同じくらいその分野に熟知していると思い込み、文脈を説明せずに特定のテーマの詳細部分にフォーカスしてしまう傾向のことである。
これは、完全に予測可能で理解しやすい問題だ。私はこれまで専門家病に悩む多くの記者と仕事をしてきた。彼らはたいてい、あるテーマについて1カ月以上にわたり深く掘り下げ没頭し過ぎた結果、そこから抜け出せなくなり、そのテーマに詳しくない読者の立場に立つことが難しくなってしまうのだ。
専門家病はいたるところで目にする。そのせいで、飛行機での移動がストレスに感じることもある。航空会社の安全規則に基づくチェックリストがその例である。シートベルト着用のような簡単な手順でも難解な説明で乗客を混乱させることがある。一方で、ジェットブルー航空は、会話のようなトーンをブランディングに採用した。チェックイン券売機に「Hello」とだけ表示させるようにしているのはそのためだ。
また、企業のホームページ、特にハイテク企業のウェブサイトにある「会社概要」ページを検討してみよう。以下はその一例だ。「データベースインスタンスは、独自の仮想プライベートクラウド(VPC)に配置され、ネットワークの分離を保証します。その他のセキュリティ機能としては、IPホワイトリストやVPCピアリング、常時認証、通信時の暗号化、ロールベースの高度なアクセス管理などがあります。」これを「翻訳」すると以下のような意味になる。「私たちは、独自の洗練された認証と暗号化手順を持つことで、お客様のデータを私たちのクラウドで安全に保ちます。」
専門家病にならないようにするためには、他者への共感が必要だ。そのテーマについての情報が、全く知らない人の頭の中に入ったときに、その人が取り残されたと感じないように文脈と根拠を十分に説明する必要がある。
カリフォルニアに拠点を置くAMNヘルスケアのCEOであるスーザン・サルカ氏は、父親から学んだという教訓が、WSLや専門家病を避けるのに役立っている。「もし誰かが理解しにくい言葉で話したり、物事について大げさな言葉を使ったり、複雑すぎたり、洗練し過ぎた言動をとっていると、父は『それを牛と鶏とジャガイモに分解してくれないか』と言うんです」。
サルカは、「私は、『馬鹿げたことだ。牛と鶏とジャガイモに何の関係があるのだろう』と思っていました。でも、何年も経ってから、このメッセージは『シンプルであれ』ということなのだと気づきました。物事を複雑にし過ぎない方がいいということです」。
あなたがリーダーとして、また組織の一員として書くものは、すべて 「牛と鶏とジャガイモ」テストに合格しているだろうか?
【筆者について】
アダム・ブライアント氏は、シニア・リーダーシップ開発会社であるExCo Groupのマネージング・ディレクター。ケビン・シェアー氏との共著に「The CEO Test: Master the Challenges That Make or Break All Leaders」がある。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Leaders need to be good writers too
(2022年1月5日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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