プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


知識の創造はコミュニケーションから始まる
野中郁次郎 一橋大学名誉教授 x 鈴木義幸 コーチ・エィ代表取締役社長 対談

【野中郁次郎氏対談】第3章 一人ひとりは「知」の結晶体。相手をリスペクトする姿勢が、双方の心の鍵を開く。

【野中郁次郎氏対談】第3章 一人ひとりは「知」の結晶体。相手をリスペクトする姿勢が、双方の心の鍵を開く。
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2020年最初の対談記事は、一橋大学名誉教授の野中郁次郎先生と、株式会社コーチ・エィ代表取締役社長の鈴木義幸をお届けします。

野中郁次郎先生は経営学者として「知識創造理論」を世界に広め、『失敗の本質』『知識創造企業』『直観の経営』など数々の著書を上梓されています。また、2008年には米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の「The Most Influential Business Thinkers(最も影響力のあるビジネス思索家トップ20)」にアジアから唯一選出されました。

組織の成長を目指す上で、「対話」はどれほど重要な役割を果たすのか――。また、どのようなコミュニケーションが、組織の中で「知」を生み出すのか――。人との「関わり」を重視し、個人と周囲の関係性にアプローチするコーチ・エィ社長の鈴木義幸が、「対話」の重要性を軸に、さまざまな視点から野中先生にお話を伺いました。

第1章 組織で「知」を生み出すための起点は、「共感」をベースにした「対話」
第2章 徹底的な対話による「知的コンバット」なくして、イノベーションは生まれない
第3章 一人ひとりは「知」の結晶体。相手をリスペクトする姿勢が、双方の心の鍵を開く。

第3章:一人ひとりは「知」の結晶体。相手をリスペクトする姿勢が、双方の心の鍵を開く。

対照的なペアは自分を客観的に見る鏡

鈴木 今、「場」とおっしゃいましたが、「場」の定義はどう考えればよいでしょうか。いわゆるミーティングとは違う「場」は、ある程度、マネージすることができるのでしょうか。

野中 僕らの「場」の定義は、「コンテクスト(文脈)」です。状況を共有しないとダメなんです。コンテクストを全人的に共有しないと、感覚質から本当にわかったとは言えません。

鈴木 野中先生ご自身も、大学や研究センターの中で、こういう「場」づくりを実際にされていらっしゃるのですか?

野中 まぁ、良く飲むことは飲みます(笑)。多少まじめな議論にどうしてもなってしまいますから。コンバットをやりながら、次のプロジェクトとかのアイデアをつないでいくというところもありますね。

鈴木 SECIモデルを生み出された野中先生ご自身にもとても興味があるのですが。野中先生ご自身が、他者と「共感」するために、普段意識されていることなどはありますか。

野中 特に意識していることというのはあまりないのですが、日本経済新聞で連載された「私の履歴書」を作り上げていくときに気づいたことがありました。僕という人間は、人に威圧感を与えないんだということ。言い換えれば、平凡なやつなんです。でもこれはもう、しょうがないんですよね。自然体でオープンな雰囲気ができているというのは、まぁ、良いのかもしれないですね。人によっては、怖いと感じさせる人もいますからね。

鈴木 威圧感を与えないということが、「二項対立」ではなく「二項動態」を作りだすカギなのでしょうか?

野中 エンカウンター(出会い)においては、まず会った瞬間に本能的に共感できるかどうかを感じることがありますよね。ちょっと、この人とは難しいかなぁとか、この人とはなんとなく波長が合うとか......。そういうエンカウンターは、ある種の自然体です。でも、人間一人ひとりが「知」の結晶体ですから、エンカウンターにおいてはやはり、相手をリスペクトする気持ちを持つという、そういう態度は必要です。人に畏れられるというのは、やはり困ります。お会いする方々の中には、エンカウンターの瞬間、少し怖いなぁって感じる人もいますからね。

鈴木 先生もそう感じる人がいるんですか。

野中 僕はどちらかというとチキンですからね。怖いと感じる人を目の前にすると、やっぱり忖度したくなってしまいますよ(笑)。

鈴木 (笑)

野中 それと他者との「共感」の話の中で、一つ例を挙げると、先ほど「戦友」という言葉を使いましたが、仲間のために命を懸ける軍隊では、仲間の骨を拾うというのが鉄則なんですね。カルチャーの原点でもあるんです。そしてその中でもアメリカの海兵隊では、バディで応募することを認めているんです。心身ともに非常に厳しいブートキャンプを乗り越えていくのはものすごく大変なので、一人では無理だなぁっというときに、仲間・友人と応募することを認めるバディシステムというのがあるんです。宿泊所においてもベッドを隣同士になるよう配慮したり、配属においても双方が望めば同じセクションに配置したりする。これは非常におもしろいと思っています。世界のリーダーを見ても、本田宗一郎氏と藤澤武夫氏の関係もそうですが、自分を客観的に見る鏡としてペアがいましたよね。自分とは同質的ではなく対照的なペアが。

鈴木 野中先生も著作は、共著ばかりですよね。

野中 そうですね。竹内弘高氏との共著が多いのですが、これがまったくもって同質的なペアではないんですよ。

鈴木 そうなんですか?

野中 竹内氏とはもう、半世紀近い付き合いになります。でも性格は、僕が人見知りなのに対し、竹内氏は外向的で社交的。またそれぞれの思考についても、僕は「直観型」ですが、竹内氏は論理派と、まったく対照的なんです。お酒も飲まないですしね。でも、双方の父親がどちらも職人で、何が本当かを突き詰めていくような、そんな職人道の血が流れているところは、僕ら二人に通ずるだと思います。だから、二人とも、とてもしつこいんです。二人の共通項はしつこいところです(笑)。異質な部分の多い二人が、徹底的な真剣勝負の「知的コンバット」をやり合うのですが、不思議と最初から最後まで闘い疲れるということはなく、逆に何か、道筋が見えてくるという関係性です。

アジアに高まるナレッジ・マネジメントへの関心

鈴木 そうなんですね。まだまだいろいろとお話を伺いたいのですが、時間の制約もあるため、最後に、野中先生の最近の活動について、いくつかご紹介いただけますか。

野中 一つは、企業にイノベーションを起こすための理論モデルであるSECIモデルが「アジャイル・スクラム」という形で世界に広がっています。今年はラグビーワールドカップもあって、「スクラム」という言葉はかなり多くの方にも浸透しましたが、僕らはこの「スクラム」という言葉を、1980年代に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称された日本企業のチーム力を指すときに使いました。当時の日本企業の組織は、開発をはじめ、さまざまな部署がサイロ化されていました。しかし、顧客の要望に応えるためには、サイロを超え、職種を超えて、スクラムを組んで対応せざるを得なかったんです。このアプローチを「スクラム」と称し、ジェフ・サザーランド氏がアジャイルソフトウェア開発へと応用し、米国でScrum Inc.を創業したのですが、昨年、その日本法人Scrum Inc. Japan がKDDI等の出資によって発足しました。プログラム作成時に、ソフトウェア開発者と品質管理担当者という、まったくの対立項が、一台のコンピュータを共有して「ペア・プログラミング」で作ってしまうんですが、このアジャイル・スクラムが今、全世界で展開されています。

あともう一つ、世界的な動きを紹介すると、コーチ・エィでご活躍されている僕の門下生・森田克司君は、中国を担当されていると聞いていますが、中国でのナレッジ・マネジメントへの関心が昨今非常に高くなっています。僕は毎年、清華大学でナレッジ・マネジメントに関する基調講演をしていますが、毎年非常に大勢の方が講演に来られます。

鈴木 皆さん、野中先生の『知識創造理論』を読まれているのですか。

野中 『知識創造理論』の中国語版はかなり前に翻訳されましたが、今は、私の著作が10点逐次翻訳されつつあります。

鈴木 中国以外のアジアでも同じようなムーブメントがあるのでしょうか。

野中 アジアで今熱心なのはフィリピン、それからベトナムやカンボジア、タイなどでしょうか。JICAの方々を中心に、アジアの政府役人や経営幹部向けにナレッジ・マネジメントのセミナーを開催するなどして発信する機会も増えてきています。

鈴木 なるほど。今後ますます、世界的に、知識を創造する上での「共感」や「対話」の重要性に対する理解が広まっていきそうですね。当社にとっても、企業のイノベーションを生み出す源泉である「対話」や「コミュニケーション」に携われることは喜びでもありますし、今回野中先生のお話を伺うことで、コーチングを通じて、お客様の組織の成長に貢献していきたいという気持ちがさらに強まりました。本日は本当に貴重なお話をありがとうございました。

(了)

インタビュー実施日: 2019年12月16日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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一橋大学名誉教授

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