ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。
コーチングはどのように機能するのか
2019年04月19日
時がたっても変わらないメッセージ
2008年秋に、ハーバード大学メディカルスクールで第一回「リーダーシップとヘルスケアにおけるコーチング(Coaching in Leadership & Healthcare)」というカンファレンスが開催された。そこでのプレゼンテーションのために、私はデザインチームと協力して「コーチングはどのように機能するのか(How Coaching Works)」というYouTube動画を作成した。
この4分間のアニメーション動画は、公開してから世界中の150万人以上の人々に視聴されている。この動画は、コーチング、言い換えると、変革をもたらす芸術と科学、について私たちが伝えたいことを説明したものだ。
夢に向かう人に対するコーチの役割
多くの人は、将来の夢やビジョンを持っている。これは自己実現(自分の可能性を十分に実現すること)に対する深い欲求の現れである。
今いる場所(A地点)から自分が思い描く将来(B地点)に到達することは、口で言うほど簡単なことではない。目の前に見える道は、ごちゃごちゃと絡まっていて、さまざまな可能性や課題が入り混じり、筋道や目的地がはっきりと見えない状態だ。大人の人生にマニュアルはなく、ロードマップがない状態では、自分の夢やビジョンが実現できずに挫折したり、それらを忘れてしまうことも少なくない。
そこでまず始められることは何だろうか。コーチと話すことで、クライアントの夢は明確になったり整理されたりする。また、夢は、クライアントが本当に目指したい方向に向かって、磁石のように近づいていくための指針となる。
私たちが夢から離れていってしまうのは、ほとんどの場合、十分な努力をしていないためである。その努力とは、果てしなくたくさんあるように見えるブラインド・スポット(盲点)や成長の壁を把握し、それらを乗り越えるための努力である。臆病さが原因で夢から離れるのではない。
コーチと協力することで、夢に向けた歩みをより軽く、より速くすることができる。不可能なことが可能になることさえある。
構造主義的発達
夢の実現は、A地点からB地点への道を作る建設プロジェクトにたとえることができる。この比喩は、構造主義的発達(成人発達)の分野から着想を得ている。ハーバード大学のロバート・キーガン(Robert Kegan)教授が自身の著作『In Over Our Heads』で見事に説明しているとおり、人間の現実(自己、他者、世界)の認識は、自己によって構築されるものであり、生涯にわたって発展し続ける。
動画内で、コーチは大きな鉛筆をクライアントに与え、望ましい将来に向けたステップを描かせている。現実の世界では、コーチの巧みなうながしにより、クライアントはそれぞれのステップを深く広く探索するようになる。その過程で、より高いレベルの能力や意識が沸き起こってくる瞬間がある。能力や気づきが高まっていくことにより、夢の実現に向けた旅はより活性化していくのである。
成長の最も良いところは、世界観が広がり今の殻が破れることで、本当の意味の喜びが得られる点にある。
成長の壁を乗り越える
動画内に、クライアントが自ら作ったはしごから落ちるシーンがある。これは成長の壁、つまり物事が思いどおりに進まないことを表している。コーチはこのとき、自分の道具箱に手を伸ばさなければならない。道具の数が多いほど、うまくいく可能性が高い。適切なツール(道具)を使うことで、大きな変革を実現し、瞬間的な気づきを生み出すことができる。
動画内のはしごのシーンでクライアントがバランスを崩して落ちたのは、ステップが大きすぎるためである。コーチの助けのおかげで、クライアントはクリエイティブな発想を得て、小さな成長のステップを新しく作り、はしごをうまく登りきっている。
本当の意味での成長とは
成長段階における次のステージに大きく跳び上がるシーンは、その時点での最高の自分になったことを表している。これはクライアントにとって素晴らしい瞬間のひとつである。おそらく、コーチにとっても特別な瞬間だろう。この体験は、個人目標や職業上の目標の達成など、外的な目標の達成体験とは異なるものである。
本当の意味での進歩は、人が内的に成長することであり、知識の増加や物の見方の発達に伴う充実感、人生を導く感覚からくる新しい満足感を得ることである。
さらなる高みへ
当然のことながら、今日到達したこの高みが、明日からの足場になる。そしてまた、心の中のコンパスに導かれて、夢に向けた次のプロジェクトが始まる。
前へ、そして上へと旅は続いていく。
筆者について
マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How Coaching Works
(2018年12月17日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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