米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


アクノレッジメントの力 - 2 -

【原文】The Power of Acknowledgment (Part 2)
アクノレッジメントの力 - 2 -
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前回の記事では、アクノレッジメント(承認)とは何か、アクノレッジメントが重要である理由、アクノレッジメントが難しい理由について説明した。見逃してしまった方は、こちらの記事をご覧いただきたい。

私がアクノレッジすることに苦手意識を感じていたのは、どのような言葉でアクノレッジしたらよいかがわからなかったからである。アクノレッジするチャンスに気づくことはできても、「何を、どのように言ったらよいのだろうか?」と考え込んでしまうのである。

そこで、「より良い人間関係を築きたい、もっとうまくアクノレッジできるようになりたい」と思っているがその方法がわからないという方のために、簡単な手引きを用意した。

まず、簡単に前回の補足説明をしよう。

アクノレッジメント、称賛、ポジティブ・フィードバックの違いとは?

いずれも同じ意味の言葉に思えるかもしれないが、重要なのはそのニュアンスの違いである。称賛はポジティブなニュアンスがあるが、具体性に欠け、暗黙の評価を含んでいる場合が多い。

例えば、「良くやった」という言葉は、具体的でないコメントであり、暗黙の評価である。相手が何か良いことをしたと判断している。称賛は、何もしないことよりはましだが、アクノレッジメントには及ばない。

ポジティブ・フィードバックは、具体的であるため、称賛よりも少し優れている。場合によっては、相手のパフォーマンスを更に高めるのに役立つこともある。ポジティブ・フィードバックでは、主にパフォーマンス(行動)が重視され、通常はパフォーマンス改善のための課題とともに与えられる。

例えば、私にベンという部下がいて、

「ベン、あなたが作ったスプレッドシートはとても細かくできている。おかげで気づいていなかった問題がいくつか明らかになった。よくやった」

と言ったとしよう。ベンに対する称賛の中心にあるのは、彼の行動の優れた点、特に、私がもっとやってほしいと思っていることに対する私の評価である。今後ベンは詳細な資料を作ることに力を入れるだろう。

称賛とポジティブ・フィードバックは、通常は相手を批判したり、あら探ししたり、まったく何も言わないことよりも優れている。うまくいっていることよりも、うまくいっていないことに意識が向きがちな相手の場合は、称賛やポジティブ・フィードバックを出発点としたほうが良いかもしれない。

しかし、アクノレッジメントはこれらとは異なる。

アクノレッジメントとは、相手の存在と行動を含む、その人全体を認めることである。

アクノレッジする人もされる人も「本当だ」と思えるような、具体的かつ示唆的な言葉で相手を認める。アクノレッジメントは評価というよりは事実を言葉で共有することである。また、相手の行動よりも相手の存在そのもののほうに若干重点が置かれる。

アクノレッジメントは「私は見ている。そう、今のあなたこそ、あなたが誇りに思えるような自分だ」ということを言葉で効果的に伝えることである。

難しい人間関係をアクノレッジメントで改善する

対立している人や困難な関係にある人をアクノレッジすることは、自然にはできないかもしれない。相手と対立しているとき、私たちは良い点ではなく悪い点を探す傾向があり、それによってさらに関係が悪化する。職場での重要な人間関係を改善したいなら、次のアプローチを検討するとよいだろう。

クライアント、同僚、部下、仲間、上司などより良い関係を築きたい相手を決める

より良い関係を望む理由と、その関係において何が重要かを自分の中で明確にしよう。より良い関係を築くことで何が得られるだろうか?その答えをしっかりと意識してほしい。

例えば、あなたは同僚とより良い関係を築きたいと思っているかもしれない。同僚をクビにすることは、たとえしたくてもできない。その同僚は、さまざまな方法であなたをイライラさせてくる。だが、同僚と良好な関係を築くことができれば、もっと多くの仕事を一緒に行い、さらに大きな成功を収め、より楽しく仕事をすることができるだろう。それに集中しよう。物事が変わる可能性に注目してみよう。2人の関係は良くなるかもしれない。自分自身の変化によって、関係全体が変わる可能性があることを覚えておこう。本当だから信じてほしい。

次回その人と接するときは、自分の価値観に合った資質や行動を積極的に探す

そうすることで、アクノレッジを通じて偽りのない気持ちを相手に伝えられるようになる。どんなに些細なことでも、一見取るに足らないように見えても、相手に何か良いところがないか探してみよう。

良い点よりも悪い点に気づきやすい人(私たちの中にはこのような人もいる)は、問題に気づいたらそのまま放っておくとよい。生産的でより良い人間関係を築くことを目標としているのであれば、相手に批判的になっても、その目標はまず達成できないだろう。批判は抜きにして、あなたが望むこと、つまり関係の改善に集中し、良い点を探すべきである。

良好な関係を築くことができれば、うまくいっていない点を改善できるかもしれない。重要なことから先に始めよう。

<同僚と良い関係を築く>

例えば、同僚と一緒に大きなプロジェクトに取り組んでいるとしよう。このプロジェクトは2人のキャリアにとって重要なものである。成功するためには同僚の協力が必要だ。しかし、同僚が担当する仕事が遅れている。質問をしても答えるのが遅く、回答が来ても詳細がほとんどわからないので、さらに質問が増えてしまった。あなたはイライラしている。同僚との打ち合わせを予定していたが、同僚は遅刻し、「まただ」とあなたは思うだろう。

同僚は少し動揺しながら登場する。打ち合わせの議題を決め、最初の議題、設計に関する質問の回答を聞くことに取り掛かる。同僚はフローチャートを取り出して、それについて説明を始めた。アクノレッジできることを見つけるために、あなたは積極的に耳を傾ける。フローチャートとその説明だけではすべての回答は得られなかったが、ここから出発すればよい。同僚が遅刻したこと、この段階に到達するのに非常に長い時間がかかったこと、まだ回答を得ていない質問がたくさんあることは、すべて無視しよう。その代わりに、同僚のデモンストレーションで大事だと思った点に注目すると良いだろう。

「このフローチャートは非常にわかりやすかった。多くの疑問が解消されたよ。私が心配していたことをきちんと理解して作ってくれたんだね。説明も詳しくて丁寧だった。これで一歩前進できた。」

これは、2人の関係を改善する良いきっかけにならないだろうか?

この言葉はポジティブ・フィードバックとアクノレッジメントを組み合わせたものである。

あなたは、「あなたの懸念に注意を払う」という同僚のあり方と、「明確なフローチャートの作成と詳細な説明」という行動をアクノレッジした。自分にとって価値のあるものだったからだ。

一方で、その45分間の打ち合わせ中に、期待とはまったく違うことがいくつも見つかる可能性もある。それらを無視すべきだとは言わない。しかし、間違っている点について考え、その点をそれとなくまたは積極的に批判しても、問題の解決にはならない。正しくできている点に集中し、重要な事柄を進めたほうがよい。そこで、次のように言って打ち合わせを締めくくるのはどうだろうか。

「当初のスケジュールからずれてしまったので、新しいスケジュールが必要だし、まだ確認したいこともたくさんある。新しいスケジュールと、私の質問への回答が、先ほどのフローチャートのように詳しくてわかりやすく、全体を網羅しているならば、良いスタートが切れるだろう。新しいスケジュールと質問への回答はいつ頃もらえるだろうか?それと、私に何か手伝えることはあるだろうか?」

このように言ったら、自分はただ相手にへつらっているだけなのでは、と感じるかもしれない。しかし、自分が何を望んでいるのかよく考えてほしい。同僚とより良い関係を築き、同僚から必要なものを得て、プロジェクトを完遂し、キャリアを成功させることだ。目標から目をそらしてはならない。

アクノレッジメントを通じて関係を改善することにエネルギーを注ぎ、より大きな成功を収められるようになれば、自分にとって役に立たないこと、つまり、同僚の悪い面ばかり見たり、批判したり、あら探ししたりすることをせずに、自分が望むものをさらに得ることができるだろう。

アクノレッジメントによって良好な関係をさらに良くする

既に良い関係を築いている相手をアクノレッジするのは当然のことかもしれないが、それでも適切な言葉を見つけるのが難しい場合がある。親、子ども、友人、職場の親しい人、配偶者などとの重要な関係をさらに良くするには、次のアプローチを検討するとよいだろう。

あなたにとって大切な人で、より良い関係を築きたい人を決める

自分にとって何が重要なのかを考えてみよう。より良い関係を築くことが、あなたの人生にどのような影響を与えるだろうか?この問いの答えを大事にしてほしい(私たちの健康と幸福にとって、親密な関係がいかに重要かを理解しよう)。

次回その人と接するときは、相手の行動よりも相手の存在に目を向けてみる

相手の存在に目を向け、何を重視しているかに注目してみよう。例えば、寛大さ、親切さ、勇気、思いやり、自立心、機知、思慮深さ、優しさ、気遣い、強さ、協調性、注意深さ、愛情、温かさ、心配りなどを見て取れないだろうか。これらは行動というよりも存在そのものであり、その人がどのような人物であるかを表す要素である。

今、相手のことをどう感じているかを伝える

思ったとおりに伝えよう。どのように言うべきかについてはあまり考えなくてよいし、それは重要ではない。

<子どもをアクノレッジする>

例えば、学習が遅れている幼い息子がいるとしよう。脳の仕組みが他の子と違うため、他の子が容易に理解できることをなかなか理解することができない。彼は物覚えが悪く、手順が2つ以上ある指示に従うのが難しい。

あなたは息子に自信を持たせたいが、アクノレッジできる具体的な良いところが見つからずに困っている。ある土曜日の朝早く、息子は目を覚ますと、あなたを起こさないで、自分一人で朝食のシリアルを用意した。そして、テーブルを汚したが汚したことについては目をつぶろう。

「おはよう。まあ、朝ごはんを自分で用意したんだ。ひとりでできるんだ。賢いね!」アクノレッジの効果はすぐには現れないかもしれない。だが、相手の存在を承認することで、相手に自信と誇りを与え、相手との関係を徐々に改善することができるだろう。

<配偶者をアクノレッジする>

もう1つ例を考えてみよう。配偶者があなたに家事をすべて任せて、1週間家を留守にすることがあったとしよう。配偶者は帰宅すると、少しくつろいだ後、普段はあなたが担当している簡単な家事を代わりにやってくれた。

「私の気持ちをわかってくれたのね。ゴミ捨てを代わりにやってくれるなんて気が利くわ。小さなことだけど、今週はすごく疲れていたからとても助かる。ありがとう。」

誠実さは確かに大事だがこれは大げさすぎるかもしれない。しかし、配偶者と良い関係を築きたいと思わないだろうか?もちろん、配偶者がやらなかったことに注目することもできるが、それは何の役にも立たない。自分が大事だと思う相手の存在や行動に注目するのに、何の問題があるだろうか?

<兄弟姉妹をアクノレッジする>

もう1つだけ例をあげよう。ほとんど連絡のない姉から電話がかかってきた。あなたは年老いた両親のことについて姉に話すことができた。

「お姉ちゃん、電話をくれてありがとう。お姉ちゃんは落ち着いていて心が安らぐし、話しやすい。こんなに誰かと話したかったなんて、自分でも意外だったよ。」

あなたは自分の気持ちをどれだけ話したかったか、実際に話すまで気づかなかったのだ。

実際にアクノレッジメントを試してみよう

上記のようなアクノレッジを試してみて、うまくいくかどうか、またどのようにすれば改善できるか教えてほしい。ポジティブ、ネガティブを問わず、フィードバックは大歓迎だし、もちろん、アクノレッジもぜひお願いしたい。あなた独自のアプローチ法があれば、ぜひ聞かせてほしい。

【筆者について】

アリソン・ウィットマイヤー(Alison Whitmire)氏は、ラーニング・イン・アクション・テクノロジー社の社長。過去10年間で100人以上のCEOをコーチしており、国際コーチング連盟(ICF)のPCCの資格保持者。また、心の知能指数(EQ)開発分野の第一人者。EQのコンセプトをもとに、北米の各所でコーチやリーダーシップ開発の専門家に対してトレーニングを実施している。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The Power of Acknowledgment (Part 2)
(2018年8月28日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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