米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


アメリカにおけるエグゼクティブ・コーチング研究の実態

【原文】Can you answer these three questions…
アメリカにおけるエグゼクティブ・コーチング研究の実態
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エグゼクティブ・コーチングに関する研究を理解する

コーチングに関する知識があれば、全てのコーチはこの3つの質問に答えることができる。

  1. コーチングには効果があるか?
  2. コーチングはなぜ、どのように効果を発揮するのか?
  3. コーチングは周囲にどのような影響を及ぼすか?

これらの質問は、クライアントや組織がコーチングの導入を決定する際に考慮すべき重要な問題だ。コーチングに関する研究が持つ力と限界を知っていれば、コーチなら誰でも、自信を持ってこれらの質問に答えることができる。この記事では、エグゼクティブ・コーチングの成果に関する外部機関の研究が持つ力と限界について、最新(2018年)のレビューをまとめた。

必要に応じて、これらの資料を何度も参照するとよいだろう(健康コーチングに関する研究をまもなく特集する予定)。

意欲的な研究

アンドロマヒ・アタナソプル(Andromachi Athanasopoulou)氏とスー・ドップソン(Sue Dopson)氏は、「A systematic review of executive coaching outcomes: Is it the journey or the destination that matters the most?(エグゼクティブ・コーチングの成果を体系的にレビューする:重要なのはコーチングの過程か、それとも到達地点か?)」という記事で、さまざまな研究におけるエグゼクティブ・コーチングの成果の内容、方法、根拠に関する意欲的な「メタ総合解釈」を発表している。

2人は「1.コーチングには効果があるか(到達地点)」という問題を考察するために、クライアントに対する個別の成果に焦点を当てた定量的な研究を踏まえ、従来のレビューよりも幅広い問題領域に取り組んだ。

また、「2. コーチングはなぜ、どのように効果を発揮するか(コーチングの過程)」という問題を考察するための定性的研究を行うとともに、組織、ステークホルダー、クライアントの特長など、コーチングの社会的・環境的な状況の影響についても検討した。

著者らは次のように述べている。「このレビューの目的は、エグゼクティブ・コーチングの有効性を定量化することではなく、研究を設計する際の弱点を明らかにして、より状況に応じた研究アプローチの必要性について論じることである。」

コーチングに関する研究の特徴

2人がレビュー対象として取り上げたのは、37の学術誌で発表された110のエグゼクティブ・コーチングの成果に関する審査(査読)済みの研究(2016年現在)である。著者らは研究の重点領域の幅広さについて説明している。

次の図表1が示すように、全体的なROIや組織の成果といったマクロレベルの成果に焦点を当てた研究はほとんど行われていない。


図表1:コーチングに関する研究の領域

著者らは研究の設計方法にも光を当てている。次の図表2が示すように、厳密さがやや欠ける方法(事例研究、定性的研究、確固とした方法を使用していないROIに関する研究、コーチとしての著者自身の経験に基づく研究)が明らかに多く、事例研究が研究の大部分を占めている。

事例研究は洞察に満ちているものの、多くの場合は一般化できず、パターンを明らかにすることができない。また、コーチング介入を実施したコーチ自身が研究論文の著者であることが多いが、その場合、研究の独立性と客観性を十分に確保できない。

このような偏りがある一方で、コーチングに関する研究のうち、かなりの割合が比較的厳密な方法に基づいて行われている。たとえば、高い影響力を持つ審査(査読)済み学術誌に掲載された論文、メタ分析/体系的レビュー、ランダム化比較試験(RCT)などである。いずれもコーチングの介入と成果の因果関係を明らかにするうえで重要な方法である。


図表2:コーチングに関する調査研究で使用されている方法

研究の限界

エグゼクティブ・コーチングの成果に関する半数以上の研究では、成果の分析や議論において、状況や背景が考慮されていない。状況や背景とは、組織とコーチの特徴、関係性、力の差、組織文化、フェーズ、構造、サポートなどである。このようなコーチング環境の特徴がコーチングの成果にどのように関係しているかを明らかにするには、さらに多くのエビデンス(科学的根拠)が必要だ。幸いなことに、最近はこのような「状況的要因の影響を分析する研究」が増えている。

その他にも次のような限界がある:

  1. 最初の会話やコーチングの契約締結時:
    コーチとスポンサー組織の間で契約を締結する段階が、コーチングの成果にどのような影響を与えるかということに焦点を当てていない。
  2. 有効性の比較研究:
    コーチング介入による効果の違いについて比較研究がない(たとえば、認知行動的、解決志向型のポジティブ心理学や強みをベースとしたの手法、GROWモデル)。
  3. 長期的な効果と持続性:
    コーチング介入後、数か月、数年にわたり、成果の持続性を追跡調査していない。
  4. 研究設計の欠陥:
    研究設計に先入観があったり、比較研究をほとんど実施していないにもかかわらず、クライアントに対するコーチングの効果を誇張している。

コーチングの成果と影響の評価

両氏は110の研究のうち84の研究(ROIに関する研究と著者自身がコーチである研究を除いたもの)を11のカテゴリーに分け、エグゼクティブ・コーチングの成果をまとめている。成果の考察は、クライアント、組織、コーチの3つのレベルで行われている。また、これらの成果に影響を与える要因のカテゴリーとして、介入のレベル、組織、クライアント、コーチ、コーチングのステークホルダーとの関係を挙げている。

IOCメンバーに公開している記事では、コーチングの成果と落とし穴、および成果に影響する23の要因とさらなる研究領域を紹介している。

コーチへのアドバイスと教訓

  1. 状況が大事
    クライアントの組織の状況とそれがコーチングの成果に及ぼす影響を深く理解する。
  2. 需要や制限の発生源の把握
    クライアントに対する組織の要望が、状況によるものか自己決定によるものかを識別する。
  3. コーチと組織の連携の評価
    コーチのリーダーシップ観がクライアントやその組織のリーダーシップ観とどれだけ一致しているかを評価する。
  4. スキル習得と目標達成のバランス
    クライアントがスキル習得と目標達成を区別し、最適なバランスを見つけられるようサポートする。
  5. 介入の統合
    コーチングによるアプローチ(介入)とリーダシップ開発によるアプローチ(干渉)を比較するのではなく、それらの統合を目指す。

謝辞

アンドロマヒ・アタナソプル氏とスー・ドップソン氏をはじめ、多大な努力を払い重要な成果を挙げてきたコーチング研究者全員に心から感謝する。研究者たちが複雑な学術研究に果敢に取り組んでくれているおかげで、私たちは知識に基づき自信を持ってコーチングを実施することができる。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)
米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching) 共同創設者、共同責任者

オミ・ララ(Om Lala)
米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching) 顧問

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Can you answer these three questions... (2019年4月5日にIOC BLOGに掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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