米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


心理的資本に投資する -前編

【原文】Invest in Psychological Capital
心理的資本に投資する -前編
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心理的資本は、コーチング科学の大きな構成要素である。また、それは、15年ほど前に現れた新しい概念であり、かつ、時代を超えた古典的なものであり、豊富な文献に支えられた厳格なものであり、なおかつ、コーチングにおいて価値のある実用的なものでもある。

心理的資本という概念は、1998年に始まったポジティブ心理学運動から生まれたものである。心理的資本は、すべての人、すべてのチーム、すべての組織が変化をうまくナビゲートするために必要とする4つのリソースで構成されている。それらは、希望 (Hope)、楽観主義 (Optimism)、レジリエンス (Resilience)、(自己)効力感 (Efficacy) - 略してHERO(それぞれの英語表記の頭文字をとって)と呼ばれている。

心理的資本への投資は必ずしもコーチングで最も重要視していることではないが、コーチング・プロセスの性質においては、心理的資本に投資しているといえる。その投資に対するすばらしいリターンは、コーチングを受ける人の現在と将来の変化に向けた計画をサポートするための新しいリソースという形でもたらされる。

今回は、ネブラスカ大学のフレッド・ルサンズ氏とキャロリン・ユースフ=モルガン氏が書いた心理的資本に関する2017年の論文「心理的資本:エビデンスに基づいたポジティブなアプローチ (Psychological Capital: An Evidence-Based Positive Approach)」を紹介する。

この記事では、2つの研究内容を紹介する。ひとつ目の研究は、ポジティブ組織学(Positive Organizational Scholarship: POS)とポジティブな組織行動(Positive Organizational Behavior)という2つの関連する概念に焦点を当てる。ポジティブな組織行動については、組織内での心理的資本の表れと考えられている。間もなく発表される二つ目の研究は、心理的資本そのものについて、またコーチングがどのように心理的資本を深めているかについて、より深く掘り下げていく。

ポジティブ組織学(POS)

ミシガン大学で展開されているポジティブ組織学は、「卓越したパフォーマンスにつながる力学に着目した組織科学 」のことである。私たちはここでその要約だけを紹介 する - さらに深く理解したい場合には、オックスフォード・ハンドブックをおすすめする。

この研究では、ポジティブなリーダーシップ、関係性、人事、組織での実践を展開していくことが紹介されており、そこにはポジティブな感情、強み、レジリエンス、バイタリティの育成などが含まれている。著者は、「ポジティブ組織学は、さまざまなポジティブな科学的視点を統合した包括的な概念であり、そこにはポジティブな特性、状態、プロセス、ダイナミクス、成果が含まれ、またそのすべてが組織に関連している 」と指摘している。

また、この研究は、ポジティブなことの醸成よりもネガティブな出来事のほうが緊急度が高く注目される組織において、ネガティブな傾向とのバランスをとるという点でも価値がある。

著者らはポジティブ組織学フレームワークの4つの特徴を以下のようにまとめている。

ポジティブ組織学フレームワークの4つの特徴

  1. ポジティブ・アプローチは、"ある現象に対する解釈を変化させる、ユニークなとらえ方を取り入れているが、その現象そのものは、ポジティブでもネガティブでもないと考える。
    例: 問題や障害は、学習および成長のための機会として解釈することもできる。"

  2. ポジティブ組織学のアプローチは、並外れたポジティブな結果に焦点をあてることを特徴としている。"これは、ポジティブな逸脱(positive deviance)と呼ばれるコンセプトであり、ネガティブな逸脱や通常、あるいは平凡な結果とは相対するものである。このことを象徴する例として、悪名高いロッキーフラッツ核施設(米国、コロラド州)の閉鎖と除染があげられる。これは周囲の期待をはるかに上回り、予定よりも13年から60年も早まり、予算も300億ドルも下回ったことがあげられる。"

  3. ポジティブ組織学におけるポジティブなアプローチは肯定的なバイアス ( affirmative bias) がかかっている。つまり、ネガティブな構成要素、力学や結果よりもポジティブな構成要素、力学や結果の方をより重要視している傾向がある。

  4. ポジティブなアプローチは、人間の最高の状態を理解することを重要視している。その状態とは繁栄、寛容、思いやり、善良さ、および生命を与える力学などを指している。
    強調されているのは、ポジティブであることそのものであり、なんらかの結果を得るための手段がポジティブであるのではない。

後編へ続く

筆者について

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーリーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Invest in Psychological Capital(2020年3月5日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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