米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


心理的資本に投資する -後編

【原文】Invest in Psychological Capital
心理的資本に投資する -後編
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ポジティブな組織行動(POB)

ポジティブ組織行動(positive organizational behavior:POB)という概念は、人的資本に投資し、自分自身や従業員がよりポジティブになることを望む人に向けて、エビデンスに基づいた行動アプローチを提供している。心理的資本はポジティブ組織行動の代表格(HERO)である。

ポジティブ組織行動は日々リーダーが直面している、生産性、従業員の満足度、エンゲージメントの向上や、職場を有意義で公正な場所にし、社員がそこにいたくなる場所にしていくこと、といった難問に対する、厳格で、しかも関連性があり、現実的な答えを提供している。

ポジティブ組織学が包括的な概念である一方、ポジティブ組織行動は固有のポジティブな要素である。これは通常、チームや集団の行動ではなく、個人の行動を指す。ポジティブ組織行動とは、ポジティブ志向の人間の強みと心理的能力の研究と応用であると定義されている。そして、ポジティブ思考の人間の強みと心理的能力は、職場におけるパフォーマンス向上のために測定され、開発され、効果的に管理されている。著者らは、ポジティブ組織行動に組み込まれる心理学的構成概念の以下5つの基準を紹介している。

  1. 科学的研究に寄与するために、理論と証拠に基づいたものでなければならない。
  2. ポジティブ心理学、ポジティブ組織学、その他のポジティブ研究の流れと一致していなければならない。
  3. 厳密な科学的研究や調査を実現するために、確実に測定可能でなければならない。
  4. 常に開発とマネジメントが可能な状態になければならない。
  5. 望ましく、測定可能な勤務態度、行動、およびパフォーマンス基準に関連していなければならない。

ポジティブ組織行動 - 心理的資本のHEROをうまく活用する

4つの要素で構成されたHERO(それぞれの英単語の頭文字をとったもの) を見てみよう。それらの要素は1つ1つ独立したものではなく、相互作用的で相乗的である。

希望 (Hope) (スナイダーが提唱した希望心理学より)

"成功する可能性が手の届くところにあるという感覚をベースとしたポジティブなモチベーションがある状態。希望には2つの要素が含まれている。ひとつは目標を追求するための意志力 (willpower) または決意であり、もうひとつは、障害物が計画を妨げるときに、目標を達成するための代替パスを生成する能力 (waypower) である。"

自己効力感 (Efficacy) (バンデューラが提唱した社会的認知理論より)

"自身の能力に対する自信。その能力とは、与えられた文脈の中で特定のタスクを成功裏に実行するために必要なモチベーション、認知資源、行動を動員する能力である。自己効力感を開発するためには以下の4つのアプローチがある。1) 何かに熟達していることや成功体験、2) 共通点のある他者の観察による代理学習や他者をモデルとすること、3) 他者からの言葉による肯定やポジティブ・フィードバック、4) 生理的・心理的な覚醒"

レジリエンス (Resilience) (様々な情報源より)

"逆境、対立、失敗、進歩、責任の増大から立ち直る能力。レジリエンスとは、個人的、社会的、心理的資産を活用して、逆境やリスク要因を克服するためのポジティブな適応パターンとプロセスを展開することである。"

楽観主義 (Optimism) (セリグマンの学術的な楽観主義研究より)

"ポジティブな出来事を個人的、恒久的、波及的なものであると解釈し、ネガティブな出来事を外部的、一時的、状況固有の要因によるものだと解釈するポジティブな説明スタイル。対照的に、悲観主義的な説明スタイルは、ポジティブな出来事を外部的、一時的、状況固有の要因によるものだと解釈し、ネガティブな出来事を個人的、恒久的、波及的なものであると解釈する。楽観主義者とは、良いことが起こることを期待する人のことである。"

ポジティブなリーダーとは

コーチは、リーダーがポジティブであることの価値に全面的にコミットするポジティブリーダーまたはHEROになるのを支援することができる。ネガティブな文化、虐待的なリーダーシップ、組織政治が蔓延していることを考えると、これは容易なことではない。ネガティブな傾向はマジックテープのように文化にくっついている。ポジティブでいるためには、開放的であること、探求的であること、感謝の気持ちを持ち合わせるリーダーシップを携えることについてコミットしている状態を必要とする。それは、ネガティブな傾向がくっついたマジックテープを緩め、開くことができる。

これは、「人は最も重要な資産である」という格言に口先だけで賛同しているわけではない。人の価値を信じるという純粋で本物の信念と、社員の強みや心理的資源を開発する支援したいという深い思いが重要である。これは、HEROic(HEROを持ち合わせた)リーダーシップとしての新しいチャレンジである。

コーチのためのヒント

  1. あなたのコーチングにおいて、すでに心理的資本をどのように育成しているかを考えよう。コーチングにおいて、ポジティブさ、希望、楽観主義、レジリエンス、自己効力感を養うために何をしているのか考えてみよう?

  1. コーチを受けている人と一緒に心理的資本を育成するためには、あなたは何をすればよいのだろうか?コーチを受けている人の心理的資本のどこが優れているのか、何をもっと発展させることができるのかなど、相手の心理的資本を探求できるオープン・クエスチョンを考えよう。

コーチであるだけではなく、HEROになり、クライアントが心理的資本(希望、楽観主義、レジリエンス、自己効力感)に投資できるように支援しよう。


“”May your choices reflect your hopes, not your fears.”
あなたのその選択は、あなたの恐怖心からではなく希望を表したものでありますように
ネルソン・マンデラ

Featured Article: Luthans, F., & Youssef-Morgan, C. M. (2017). Psychological capital: An evidence-based positive approach. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 4, 339-366. https://doi-org.ezproxy.sju.edu/10.1146/annurev-orgpsych-032516-113324

筆者について

アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーリーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Invest in Psychological Capital(2020年3月5日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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