米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


コーチングの定義を振り返る-前編

【原文】 A Brief History of Coaching Definitions
コーチングの定義を振り返る-前編
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コーチングの定義の歴史を改めて探ることは、心理学や他の科学的な分野の主要な理論をより一層理解することにつながる。

記憶の道をたどる旅

人間の脳には記憶のためのファイリングシステムがないことを、私たちは神経科学者達の説として知っている。人間の脳は継続的に記憶を構築し、そして再構築している。 記憶することは、まさに新鮮な新しいことを組み立てることである。このコーチングの歴史と定義に関する研究の中で記憶の道をたどることによって、私たちは記憶を新たなものにし、また私たちのコーチングの定義をも新たにするように導かれる。

コーチングの定義の始まり

1980年代、コーチングは他とはまったく違う分野としてその歩みを始めた。それ以来、コーチングの定義は、コーチングの実践および研究において、継続的に議論されてきた。最近(2019年)、著者のジョナサン・パスモア(Jonathan Passmore )氏とイイリング・ライ(Yi-Ling Lai )氏は彼らの記事「コーチング心理学ー定義と実践における研究の成果を探索する(Coaching Psychology: Exploring definitions and research contribution to practice,)」の中で、コーチングの定義の歴史を扱っている。その記事は専門誌『International Coaching Psychology Review』に掲載されている。

今回の記事は、他の文献も参照しながらこの論文を探求していく。そして、コーチ達がコーチングとコーチング心理学の本質を新鮮な目でとらえられるようになるとともに、コーチング教育を拡大する機会となることを目的としている。

著者らは、コーチングの定義を標準化することの重要性を以下のように説明することから始めている。

  1. コンピテンシーやコーチングの実践、またコーチトレーニングおよび教育をエビデンスに基づいたものにすることに役立つ。
  2. クライアントが、コーチとの取り組みから何を期待できるのかを理解できるようにする。特に、始まったばかりで方向が見定まっていない時期やコーチングの取り組みの契約を結ぶ段階において有効である。
  3. コーチング介入に関する研究を可能にする。成果を特定のコーチングプロセスやコンピテンシーに結びつけることに役立つ。
  4. コーチングの実践をサポートするために不可欠な、知識の体系や科学的根拠に基づいたフレームワークを特定する。

コーチングの定義の歴史

パスモア氏とライ氏が発見したコーチングに関する最も古い記述は、1911年に書かれた専門誌の記事であった。その中では、ディベートのチームメンバーのスキル改善を目的とした「トレーニング」と同じ意味の言葉として「コーチング」が使われていた。1930年代に入ると、職場のコーチングは、工場労働者が作業を開発したり改善したりすることを補助するものであるとされ、ここでも「コーチング」は「トレーニング」と同義であると示されている。また、この時代には、スポーツのコーチングが、登場している。

ジョン・ウィットモア(Sir John Whitmore)卿が1992年に著したコーチングに関する画期的な本『フォーマンスのためのコーチング(Coaching for Performance)』(現在は第5版、2017年)は、ティモシー・ガルウェイ(Timothy Gallwey)氏のインナーゲームモデルに基づいており、「砂の中にマーカーを置いた」と表現されるほど、コーチングの定義を明確なものとした。

その本では、「コーチングとは、その人自身のパフォーマンスを最大化するために、人の潜在能力を解き放つことである。その人に対して教えるよりも、むしろ自ら学ぶことを助けている。促進する、というアプローチである」としている。ウィットモア卿は、コーチングは教育やトレーニングにおける知識の交換とは対照的に、人々が自己認識を養ったり自分自身で責任の所在を明らかにすることができるように設計されていると確信していた。ゴルフにおける「コーチング」と「指導」を比較して実演しているウィットモア卿のビデオは伝説となっている。

米国におけるコーチングの先駆者はトーマス・レナード(Thomas Leonard)氏とローラ・ウィットワース(Laura Whitworth)氏のふたりである。ウィットワース氏は、後に4つの礎石として要約されたコーアクティブ・コーチングを開発した。その中で、「クライアントは生来創造的で、機知に富み、全人格的である」としている。また、「コーチングセッションは、クライアントと共創するダンスのようなもので、それはクライアントの視点全体をひろげ、新しいあり方や行動につながっている」としている。 

IOC科学分野顧問のタティアナ・バキロバ(Tatiana Bachkirova)氏と共同研究者(2010年)は、人間開発と持続可能な変化について紹介している。コーチングは、「人間開発プロセスであり、コーチングを受ける人のために望ましい、持続可能な変化を促進するための、構造化され、焦点をあてた相互のやり取りであり、また、戦略、ツール、テクニックを利用する行為である」としている。

ムーアと共著者は、2010年に自己決定理論およびポジティブ心理学にコーチングを関連づけた。「コーチングとは、成長を促進する関係であり、それはビジョニング、目標設定、および持続可能な良い方向への変化につながる自己責任を通して、内発的なモチベーションを引き出し、強みを活用し、変化する能力を高め、変化のプロセスを推進するものである」としている。

2011年に、パスモア氏とはフィレリー・トラビス(Fillery-Travis)氏は「進行役(コーチ)による介入の大半が参加者(クライアント)の自己認識および個人的な責任を刺激することを目指すオープン・クエスチョンであるところから、コーチングを進行役と参加者間のソクラテス的なダイアローグ」と定義した。

今日、国際コーチング連盟(ICF: International Coaching Federation)は、コーチングの定義を「クライアントの個人的および職業的な可能性を最大化するために、思考を刺激される、創造的なプロセスをクライアントと協働すること」としている。

パスモア氏とライ氏は、コーチングの定義における共通のテーマは、コーチングが物事を促進していく性質をもったものだと示唆している。クライアントやコーチングを受ける人の新しい発見および洞察力を促進し、また目標を定義し、明確化して、自己実現に近づいていくことをサポートしていくのである。

コーチング心理学の定義

オーストラリアとイギリスが主導するいくつかの国の心理学者達は、現在、ニュージーランド、南アフリカ、フランスからも参加しているが、過去20年間にわたりコーチング心理学の定義に焦点をあててきた。著者らはこのように語っている。「コーチング心理学にはさまざまな領域のコーチング専門職を生き生きさせる「井戸」のような役割がある。また、コーチング心理学は、健常な(治療目的ではない)人々を対象としたコーチングの実践に関する科学的研究において重要な要素となっている」。コーチングの実践を特徴づける科学的理論とエビデンスへの理解や、コーチング研究の貢献に対する理解は、コーチング心理学者の間では現場のコーチよりも周知のこととなっている。

さらに、「コーチング心理学の先駆者であるアンソニー・グラント(Anthony Grant)氏は、コーチング心理学の定義をその誕生の時点で示したが、それは、後に英国心理学会においてコーチング心理学の定義の基礎を確立させることとなった。2001年に、グラント氏は次のようにコーチングを定義している。

  1. コーチングのプロセスを促進する、経験的に裏付けられている変化のフレームワーク。
  2. 自己制御、目標設定および目標達成におけるそれぞれのプロセスの描写を可能にさせる自己制御モデル。
  3. 行動、思考、感情がどのように相互作用するかに関する方法論、また目標達成を促進させるために行動、思考、感情がどのように変化するかという方法論

2006年に、パーマー氏およびホワイブロウ氏は、英国心理学協会の中のコーチング心理学に関する特別なグループのために、グラント氏の定義を再構築した。「(コーチングは)確率された成人学習や心理学的アプローチに基づいたコーチング・モデルに実証されており、個人の生活および仕事の領域においての幸福感や、パフォーマンスを高めている」。

2010年、パスモア氏は、コーチング心理学を「コーチングの実践の中で私たちの理解を深め、実践を強化するための、コーチングの実践における行動、認知および感情に関する科学的研究」と定義した。

2011年に、グラント氏は彼のコーチング心理学の定義を次のように更新した。「コーチング心理学は、個人、グループ、組織において、人生経験、仕事のパフォーマンスや幸福感を促進することに向けて、心理学の行動科学を体系的に適応することに関係している心理学の一部門である。コーチング心理学は、目標達成を促進することに焦点を当て、個人の生活の中で、また仕事の場面でクライアントの個人的、職業的な成長と開発を強化することに注力している」。

後編へ続く

参考文献

Featured article:
Passmore, J., & Yi-Ling Lai. (2019). Coaching psychology: Exploring definitions and research contribution to practice? International Coaching Psychology Review, 14(2), 69-83.

Other references:
Grant, A. M. (2011). Developing an agenda for teaching coaching psychology. International Coaching Psychology Review, 6(1), 84-99.

Moore, M., Tschannen-Moran, B., & Jackson, E. (2010). Coaching psychology manual. Philadelphia, PA: Wolters Kluwer Health/Lippincott, Williams & Wilkins.

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】A Brief History of Coaching Definitions(2021年1月24日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)

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