米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


コーチングの定義を振り返る-後編

【原文】 A Brief History of Coaching Definitions
コーチングの定義を振り返る-後編
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

コーチングの定義の歴史を改めて探ることは、心理学や他の科学的な分野の主要な理論をより一層理解することにつながる。

前編はこちら

エグゼクティブ・コーチング

エグゼクティブ・コーチングは、上級管理者を対象にした職場で行うコーチングである。リチャード・キルバーグ(Richard Kilburg)氏(1996年)は、エグゼクティブ・コーチングとは「組織において管理職としての権限と責任を持っているクライアントと、多種多様な行動のテクニックや方法を熟知しているコンサルタントとの間の、正式に結ばれたコーチング契約に基づく協働する関係であるとしたうえで、それは、クライアントの仕事のパフォーマンスと自身の満足感の向上に向けて、相互に確認した様々な目標を達成することを支援することを目的としたものだとしている。また、結果的にクライアントの組織の生産性向上を目指すものであると説明している。

エリック・デ・ハーン(Eric de Haan)氏と彼の同僚(2013年)は、エグゼクティブ・コーチングとは、リーダーシップ開発のひとつの形であるとしたうえで、それは資格を持つコーチとの契約に基づいた1対1の対話によってもたらされるもので、信頼できて、安全で、かつ支援する関係で行われると説明している。

健康・ウェルネスコーチング

2003年に、パーマー氏とその同僚はヘルスコーチングを「我々の幸福度を高め、健康に関連した目標の達成を促進することを目的とした、コーチングをベースとした健康教育および健康増進の実践」と定義した。

2013年に、 ウォレバー(Wolever)氏およびその同僚は、文献に登場するヘルスコーチングにおける共通の要素を定義した系統だったレビューを発表した。コーチングに見られる特徴的な要素は、専門家の教育、トレーニングまたは医学的な治療が目指すこととは対照的であり、以下のようなことがあげられる。

  • コーチは行動変容や人を動機付ける技術についてトレーニングを受ける
  • 患者中心である(患者の価値観に合わせる)
  • 患者が決めた目標
  • 自己発見
  • アカウンタビリティ
  • 教育との融合
  • 継続的な関係の構築

2016年に全米医師国家試験委員会(1015年から米国で医師免許試験を開発している)に属する非営利団体である全米健康・ウェルネスコーチング委員会(National Board for Health and Wellness Coaching:以下NBHWC)が設立されたことで、NBHWCが以下に定義する「健康・ウェルネスコーチング」の普及が可能になった。

「健康・ウェルネス分野のコーチは、クライアント自身が定めた健康とウェルネスに関する目標を検討したり達成したりすることを促進し、支援するために、クライアント個人やグループを中心にしたコーチングを実践する。コーチは、クライアントが自身の強みとリソースを動員して、持続可能かつ健康的な生活習慣・行動のための変化を起こすための自己管理を戦略的に行えるようになることをサポートしていくのである。」

ヘルスケアにおいて重要なことは、NBHWCが教育にコーチングを組み合わせた実践の範囲を次のように定義していることである。健康・ウェルネスのコーチは、症状を診断したり、治療法を提案したり、心理的・治療的介入をすることはないが、有効な国家認定資格をコーチが有する領域では、クライアントの医療提供者が処方した治療計画に沿って専門的な指導を提供することができる。また、国から認定を受けた機関からのリソースを提供する場合もある。

ライフコーチング

グラント氏 (2014年)は、ライフコーチングを次のように定義している。「治療目的ではないクライアントの個人的なまたは仕事上の人生経験を豊かなものとしたり、目標達成を促進することに向けた、課題解決型で結果を重視した、体系だったプロセス。」他の表現によると、ライフコーチングにはウェルビーイング・コーチング、とポジティブ心理学のコーチングを含んでいる。ライフコーチングは、人間関係のコーチング、キャリアコーチング、および退職時コーチングを得意領域としながら広まってきている。

コーチングとカウンセリングの違い

著者らはコーチングとカウンセリングの違いとして、以下の3つをあげている。

  1. クライアントは、心理的な問題や機能不全を取り除くことよりも、ものごとが改善したり発展することを求めている。
  2. コーチングによって期待される結果やその評価方法は、通常コーチングプログラムを始める際に定義される。
  3. コーチングには、定められた時間や期間、プロセス、およびセッション数が設定されており、その限りにおいては、無期限に継続することができるカウンセリング療法とは対照的である。

これまでの研究概要

著者らは、コーチングとコーチング心理学の経緯を振り返る中で、主たる研究成果を以下のようにまとめている。

  1. セラピーについては、コーチとクライアントの協力関係の質とその強さにおいてコーチングの成果が認められている。
  2. クライアントの自己効力感(目標達成への自信)の高さはコーチングの有効性を測るうえで非常に重要である。
  3. クライアント自身の変化に対する準備は、内発的なモチベーションと自己効力感から生まれるが、それができているかどうかはコーチングの成果に影響する。
  4. 組織におけるコーチングでは、クライアントの上司や組織からのサポートがクライアントが成果をあげるうえで重要である。

コーチングの定義の明確化からコンピテンシーが定められるまで

過去20年間、コーチングの定義は、コーチングの認定資格を付与する数々の組織によって、コーチのコンピテンシー、トレーニングおよび教育の中でベストプラクティスを活用しながら具体化されてきた。それらの代表的なコーチング団体が定めるコンピテンシーは以下のとおりである:国際コーチング連盟(ICF: International Coaching Federation)EMCCコーチング協会WABCビジネスコーチングのコンピテンシーNational Board for Health & Wellness Coaching(NBHWC)

重要度を増すコーチングの領域

コーチング、コーチング心理学、コーチング研究が発展し成熟することに伴い、コーチングの定義のこの短い歴史は、心理学やその他の科学的領域の重要な理論を改めてより深く理解することに役立っている。エビデンスに基づいた実践をサポートし、コーチング・コンピテンシー・モデルを超えた「コーチングの科学」に関するコーチ教育には、以下のようなテーマが含まれる。

  1. ソクラテス的な対話のファシリテーション
  2. 探究心と好奇心
  3. マインドフルネス・自己認識・洞察力
  4. 認知と感情
  5. 自己制御
  6. 行動変容
  7. モチベーションと決断力
  8. 自己効力感と変化への対応力
  9. 目標達成
  10. 成人学習と開発
  11. 社会心理学
  12. ポジティブ心理学、ウェルビーイングおよびレジリエンス
  13. 創造性
  14. 職場におけるのウェルビーイングとリーダーシップ

コーチのためのヒント

  1. ここまで探求してきたコーチングの定義を踏まえて、あなたのコーチング実践の際に、新しいコーチングの定義を開発することを考えてみよう。
  2. そのことから、あなたのコーチング教育やその成果に欠かせない科学の分野を改めて確認してみよう。
  3. IOCの様々なリソースを探索してみよう - 学び、コーチとしての影響力を高めるための時間を確保しよう。

「教育を受けた人とは、学び方と変化の仕方を学んだ人のことだけをいう」
- カール・ロジャース

IOCチームより

参考文献

Featured article:
Passmore, J., & Yi-Ling Lai. (2019). Coaching psychology: Exploring definitions and research contribution to practice? International Coaching Psychology Review, 14(2), 69-83.

Other references:
Grant, A. M. (2011). Developing an agenda for teaching coaching psychology. International Coaching Psychology Review, 6(1), 84-99.
Moore, M., Tschannen-Moran, B., & Jackson, E. (2010). Coaching psychology manual. Philadelphia, PA: Wolters Kluwer Health/Lippincott, Williams & Wilkins.
Wolever et al (2013). Systematic Review of the literature on health and wellness coaching. Global Adv Health Med J.; 234-53

筆者について

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】A Brief History of Coaching Definitions(2021年1月24日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

調査/データ/リサーチ

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事