米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


ポジティブな感情が仕事にもたらす影響(前編)

【原文】 How Positive Emotions Work at Work
ポジティブな感情が仕事にもたらす影響(前編)
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ポジティブな感情は、思考、行動、気分、生理機能を改善し、さらに自己効力感、楽観性、仕事へのエンゲージメント、創造性、ストレスへの対処力と回復力、健康、チームワーク、人間関係、顧客満足度、リーダーシップなどを向上させるための貴重なリソースを生み出す。ポジティブな感情は、実践的なテクニックを使うことで、組織を直接的に改善することができ、永続的なリソースや、仕事のやりがいとパフォーマンスを向上させることにつながる。

2021年4月、私たちはウェルビーイング(幸福感)の科学における巨匠、エド・ディーナーを失った。2021年のIOC主催のリーダーシップとヘルスケアのためのコーチング・コンファレンスにて、IOC創設者のキャロル・カウフマンが、彼の息子で著名な心理学者ロバート・ビスワス=ディーナーにインタビューしたことを思い起こしてほしい。
ここでは、エド・ディーナーの最後の出版物の一冊(ストゥティ・タパとルイス・テイとの共著)を紹介したい。”仕事におけるポジティブな感情”のレビュー論文(2020年)として発表しており、コーチングにとって重要ないくつかの問いについて述べている。

  1. 仕事におけるポジティブな感情とはどのように定義されるのか?
  2. ポジティブな感情を、どのように調整すればよいのか?
  3. ポジティブな感情は、どのようにその効果を発揮するのか?
  4. ポジティブな感情は、職場では、どのようなリソースの拡大に結び付くのか?
  5. ポジティブな感情に関するその他の興味深い知見とはなにか?

1. 仕事におけるポジティブな感情はどのように定義されるのか?

第一の視点 - 個別のポジティブな感情

科学者たちは、感謝、畏怖、誇り、興味、楽観主義、ユーモアを含む「個別の」ポジティブな感情やその構成要素を探求し、定義してきた。著者らは、この視点が、個々の感情の効果に関する研究につながることを指摘している。たとえば、「プライドが心理的なエンパワーメントに、興味・関心が仕事の満足度に、感謝が上司や同僚に対する満足度に結びつくといったように、異なるポジティブな感情は、仕事に対する姿勢に違いを生み出す。」

ある研究では、仕事上の感謝の気持ちは仕事への満足感に結びつき、感情的疲労や離人症を低く抑えるという予測がが示された。また、別の研究では、畏敬の念を持つことで、時間がより豊富にあるという認識が生まれ、焦りが減少し、ボランティア活動への意欲が増加し、目標の進捗が大幅に改善することが示された。

第二の視点 - ポジティブなパワーまたは気分の良さ

ポジティブな感情に共通するのは、「気分が良くなる」という根本的な側面があることだ。つまり、ポジティブなパワーや気分というものがあり、それが第二の視点をもたらしているような。ポジティブなパワー(触発された、情熱的、あるいは誇らしいといった特定の種類の感情ではなく、”良い気分”という一般的な感覚)は、業績や勤務態度の向上といった、個人および組織がの前向きな成果につながることが示されている。

第三の視点 - ポジティブな適応能力

著者らは、第三の視点「ポジティブな適応能力」について、次のように述べている。「感情は、個人的・組織的に肯定的な結果をもたらすものである限り、肯定的なものとみなされる。ポジティブというのは、それが生み出す結果のことであるが、どの感情も普遍的に「良い」「悪い」ということはなく、その価値は文脈に依存する。たとえば、怒りは否定的なものと考えられるかもしれないが、不正や不公正を認識したときにその感情が誘発され、その不正に対処するための改善行動を引き起こせば、社会にとって前向きな機能を持つことができる。 最近のメタ分析では、恥をかくことは、それに対する修復行動をとることができれば、社会性を獲得し、自己改善につながることから、ポジティブと捉えられることが示された。一方で、感謝の気持ちを持つことは社会性のある行動につながるが、助ける側に負担をかけ、ネガティブな影響を与える可能性がある。」

2. ポジティブな感情を、どのように調整すればよいのか?

ポジティブな感情を意識して活用し、持続的なものするための1つ目のアプローチとして、物事を味わう、前向きな反省をする、日記を書く、自分の喜びや感謝の気持ちを他者と共有する、などの認知的実践方法があげられる。

2つ目のアプローチは、ポジティブな感情の質と量を向上させることができる行動戦略で、次のようなものがある。

  • 今この瞬間のポジティブな感情に注意を向ける
  • コミュニケーションにおいて、ポジティブな感情を表現する
  • ポジティブな出来事を祝い、ポジティブな感情を増幅させる
  • 楽観思考、感謝、ポジティブな再解釈などで、特定のポジティブな感情を呼び起こす

感情を調整する3つ目のアプローチは、感情の統合を促進することだ。内面の経験と外面の感情表現が偽りなく一致している状態を言う。正直な感情は大切にされ、エネルギーの消耗も少ない。たとえば、表層演技に対して、深層演技という概念がある。深層演技とは、仕事に必要な内側の感情を修正することであるのに対し、表層演技は、単に外側の感情表現を修正することである。深層演技は、表層演技よりもポジティブな結果を示しており、望ましい。

4つ目のアプローチは、感情的知性(EI)という多面的な構成概念だ。これは、自分と他者の感情を理解し区別し、その知識を思考と行動の指針として活用する能力だ。

興味深いことに、ポジティブな感情とそれを調整しようする意識の間には双方向の関係があり、一方がより多くなれば、他方もより多くなり、上昇スパイラルが形成される。

感情を調整する戦略には、ネガティブな感情を元の状態に戻すことと、ポジティブな感情を高めることの両方が有効であることが明らかになっている。6つの感情を調整する戦略(内省、再認識、反省、気晴らし、表出の抑制、社会的な共有)の研究では、反省と表出の抑制はポジティブな感情を減少させるが、内省はポジティブな感情を増加させることが明らかになった。ポジティブなユーモアは、ネガティブな感情を低下させ、ポジティブな感情を上昇させることが明らかになっている。

3. ポジティブな感情はどのようにその効果を発揮するのか?

著者らはその文献で、ポジティブな結果を生み出すものを4つのチャンネル(認知、感情、行動、生理学)としてまとめている。

感情→思考→結果
認知プロセスを通じてポジティブな感情を維持し(または味わい)、高めることは、よりオープンマインドで戦略的思考や創造性を高めるといったポジティブな結果を促進する。これがポジティブスパイラル(=ポジティブな感情がよりポジティブな感情-その程度と種類の両方-を生むこと)やアンドゥイング効果(=ポジティブな感情がネガティブな感情の影響を軽減すること)の基礎となる。仕事においては、ポジティブ度が高いほど、ネガティブな感情による仕事への満足度の低下が抑えられるという研究結果がある。

感情→行動→結果
著者らはこう説明する。「ポジティブな感情は、新しい機会や新しいスキルの構築につながる斬新で規模の大きい行動レパートリーへと個人を導く。ポジティブな感情は、健康的な食事、運動、より良い睡眠、ストレス管理、連携・協調を伴う社会的な行動など、働き手の健康や生産性に重要な、ポジティブさを推進することに焦点を当てた個人の行動に関連している。」

感情→感情→結果
ポジティブな感情の直接的な体験に加え、感情表現は社会的情報として作用し、他の人に伝播し、ポジティブな感情の伝播を生み出すことができる。たとえば、本物の笑顔は、従業員の親しみやすさや顧客満足度の認知を促進する。ポジティブな感情表現は、ビジネス関係や連携をより高める可能性など、よりポジティブな社会的成果に繋がる。

感情→生理学→結果
長寿、病気に対する耐性、免疫抵抗力の向上、炎症の軽減、生理的回復力の向上など、ポジティブな感情が健康に良い影響を与えることは、多くの研究により裏付けられている。心循環機能(心拍数や血圧の低下)、内分泌機能、免疫機能の3つの生理系システムは、ポジティブな感情によって改善される。

後編に続く

【筆者について】

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】How Positive Emotions Work at Work(2022年4月4日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています。)


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