米国コーチング研究所レポート

ハーバード大学医学大学院の外郭団体、「コーチング研究所/Institute of Coaching (IOC)」所蔵のコーチングに関する論文やリサーチ・レポート、ブログなどをご紹介します。


リーダーが成長するステップとは

【原文】 Transforming Leaders in Steps
リーダーが成長するステップとは
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「垂直型リーダーシップ開発」とは、人はより高い視点、成熟度、複雑性の習得といったレベルへ段階的に進み、そのペースと進歩は熟練したコーチングによってさらに加速させることができるという考え方である。

成人発達理論とは

成熟度と影響力を高める目的でリーダーと協働するコーチは、1995年に出版されたロバート・キーガンの成人発達の基礎的な理論が見事に展開された著書『In Over Our Heads』を手にすることがあるだろう。その基本的な考え方は、成人の発達段階や精神的な複雑さが、現代の複雑な状況に追いついていないということだ。つまり、私たちの多くが、手に負えない状態で成人期を過ごしているというのだ。

多くの人が支持するメンタルモデルは、たとえばソーシャルメディアに蔓延しているような、その時代の社会的信念や構成概念を真実とする「環境順応型知性(socialized mind)」のレベルにある。あるいは一歩進んで、支配的リーダーによく見られる、自分のアイデンティティ、自分自身の信念や構成概念を真実とする「自己主導型知性(self-authoring)」 のマインドが支持される。そして、変化の激しい世界では自分のアイデンティティとメンタルモデルの継続的進化を推し進める「自己変容型知性(self-transforming)」が求められる。

ロバート・キーガン、リサ・レイヒー、そして後にデブ・ヘルシングは、我々IOC(米国コーチング研究所)が主催する「Coaching in Leadership and Healthcare conferences」に長年貢献してくれており、彼らは広く知られているコーチング・プロセス「変化に対する免疫(Immunity to Change)」の講義を提供している。この「変化に対する免疫」のプロセスは、私たちの人格の奥深くにある、善良ではあるが目に見えない無意識の意図により、自分達の前進を妨げ、変化に対する無意識の免疫や抵抗のようなものを作り出している力を検知することに意識を向けさせるものだ。これらの隠された反対勢力に意識を向けると、私たちは主体(隠された勢力に支配されているもの)から客体(これらの勢力に気づき、回避することができるもの)へと移行する。やがて私たちは、知らず知らずのうちに自分を縛りつけていた人格の一部を超越し、そこからより大きく成長することができるのだ。

リーダーシップの7つの変容とは

この記事では、デビッド・ルークとビル・トーベットが2005年に発表し、2020年に更新させた「リーダーシップの7つの変容」という記事で定義した、発達段階またはステップの別のモデルに焦点を当てる。7つの変容の各ステップは、前のステップを超越し、かつそれを含むものであり、人は通常、連続してそれぞれのステップを通過することになる。そのような過程で、前のステップで習得した知識や有利な点は次のステップに組み込まれ、より戦略的で生産性の高い方法で活用されていくのである。

リーダーによって、7つのどのステップの状態にあるかは違うが、より長い期間、より複雑な環境、そして組織の変革を必要とされている状況においては、難易度の高い、下の表でいうとより下に示されたステップの状態にあるリーダーが、一般的により効果的だとされている。

下の表は、7つのステップの簡単な説明と、調査で明らかになったリーダーシップの普及状況を示している。また、2005年から2020年にかけて、この7つのステップが大きく進展していることがわかる。2005年の調査では、ほとんどのリーダーは、論理と専門性に焦点をあてた「専門家」と、個人とチームの成果を追求する「達成者」のステップにいた。それが、2020年には、ほとんどのリーダーが「達成者」、そして複雑なジレンマを独自の方法で解決する「再定義」のステップに進んでいる。また、個人と組織を変革する「変革」のステップに進むリーダーは、4%から約10%へと2倍以上に増えているのがわかる。

図1:リーダーシップ変革の7つのステップ

ここに示された上向きの変化の一部は、2020年の調査対象にコーチとコンサルタントが増えたといった変化によるものである。同時に、近年の文化的な大きな変化により、複数のな視点(国、階級、人種、ジェンダー)が広く認識されるようになり、今日の世界におけるリーダーシップの複雑さを適切に対処するためには、「再定義」のステップへ進むことが奨励されるようになった。

革新的なリーダーシップの実践

「リーダーシップの7つの変容」の記事では、アンゲラ・メルケル前ドイツ首相自身と、その彼女が「再定義」のステップを見事に使いこなした実例を紹介している。ここでは、より理解しやすいように、ウォーレン・バフェットが1991年にソロモン・ブラザーズ投資銀行を破綻から救った例を取り上げる。これは、より高度な「変革」のステップの例である。下の表は、各ステップを図式化し、それに対応するパワーと探求心のタイプを紹介し、バフェットがその過程でとった重要な行動を示している。バフェットが複数のステップを駆使して望ましい効果を生み出し、下位のステップをすべて上位のステップである「変革」に統合している点に注目しよう。

バフェットは、この会社に多額の出資をし、役員にもなっていた。違法な入札によって引き起こされた危機と、その後の社内での隠蔽工作は、ニューヨークタイムズが一面トップで暴露し、取締役会長のジョン・グッドフレンドの写真も掲載された。グッドフレンドは、オマハ時間の午前6時45分にバフェットに電話をかけて彼を起こし、ニューヨーク連邦準備理事会がグッドフレンドの即時辞任を要求していると告げたのだ。その日(金曜日)の朝、ソロモン・ブラザーズの株は取引開始にならなかった。日曜日には、バフェットが指揮を執り、危機は去ったのである。

日和見主義者ー自分の成功のために最大限の努力をする

パワー 強制的な力:「ハードパワー」。 望む結果を得るために一方的な力、そして一方的な力の脅威を使うこと。
問い 個人的な成功を素早く得ることへの問い:最小限の質問による最大限の自己弁護、自己の利益や搾取のための質問:「あなたは競合他社からのオファーに対抗できるのか?」
模範 となる人:ウォーレン・バフェット バフェットはソロモンのスタッフに、その日の午後、彼がニューヨークに到着するまでプレスリリースを保留するように指示した。(強制力/論理力)

外交官ー所属し、調和し、対立を避けることで勝利を得ようとする

パワー 人を魅了する力:「ソフト・パワー」:支持を得るために、カリスマ性、誘惑、外交、秘密工作、自己開示を使う(例:政治家として出馬する)
問い 相手の嗜好を探る問い:他者や集団の好みや規範を発見し、調和を図るための質問をする:「何を飲みたいですか?」
模範となる人: ウォーレン・バフェット 不本意ながらも、バフェットは暫定的な取締役会長の座を検討することを承諾し、生涯をかけて築いた名声を会社の救済に捧げた。(人を魅了する力)

専門家ーロジックと専門知識で勝負する

パワー ロジスティカル・パワー:「スマート・パワー」:論理、専門分野、システム分析、組織的地位やプロセスを用いて何かを成し遂げる。
問い 理論や事実の探求:「真実」の探求、専門的・科学的事実の調査:専門的権威への敬意、慎重かつ重要で細部にわたる質問:「どのようなエビデンスがその議論を支えているのか?とか
模範となる人: ウォーレン・バフェット 数時間に及ぶ記者会見の間、バフェットは従来の慣習から離れ、一つひとつの質問に正直に、事実のままに、そして時にはユーモアを交えて答えていった。(素早く成功するための日和見主義者の質問、事実確認のための専門家の質問、違和感を追求する変革の質問)

達成者ー個人とチームの成功のために力を発揮する

パワー 生産的な力:自己または他者にとって価値のある製品、サービス、または行動を、多くの場合チームと協調して生産する。目標達成を助ける行動を変えるフィードバックを歓迎する。
問い 現実的な目標を達成するための問い:現在の行動や戦術を評価するための質問。現在の行動が望ましい結果につながっているかを問う:「私の話は早すぎませんか?」「私が提案していることに異論はないですか?」
模範となる人: ウォーレン・バフェット バフェットは、財務省から返事が来るまで記者会見を遅らせた。その後、2分間で自分と新CEOの選出を行った。(生産的な力)

再定義-状況を独自の方法で再定義する

パワー ビジョニングパワー:想像力、芸術性、相互信頼を築く能力、規律を使って、一人で、または献身的な同僚や友人と、会話、会議、組織などのための未来の新しいビジョンを創造する。
問い 新しい可能性のための問い:より多くの問いの機会を設ける。複数の視点とそれらを調整することの難しさの認識、仮定への疑問:「もし私たちが別のメタファーを使ったらどうなりますか?」
模範となる人: ウォーレン・バフェット CEOのポジションを目指すトップリーダーたちと面接していたとき、バフェットはそれぞれの候補者に同じ質問をした。「誰が最高のCEOになれると思う?」(新しい可能性のための問い協働する問い)

変革ー自己、社会、科学における組織的・個人的な変革

パワー 実行力:他者と一緒に探求し、理論と実践の間の矛盾を発見し、明確にし、修正する問いを他者に投げかける。そのことにより、個人、関係、組織の全体性、整合性、有効性を高める。構造に挑戦するようなフィードバックは特に歓迎される。
問い 協働する問い:支持している価値観と実際の行動パターンとの間にある矛盾を発見し、明確にし、修正するために、他者と共に、あるいは単独で問いかける。「意思決定の詳細をサブグループにゆだね、彼らの邪魔をしないようにする段階だろうか?
模範となる人: ウォーレン・バフェット バフェットは、ソロモン・ブラザーズCEOのグッドフレンドに3500万ドルの退職金を与えることを拒否した。その代わり、彼はグッドフレンドを公平に扱うと約束し、これまで約束を破ったことがないことを強調した。(ソロモンの新しいビジョンと文化をつくるために、実行力の優先を複合的に行使。ウォーレンの約束そのものが新しい自分らしさの現れである。)

錬金術的ー時間を超えた行為&道化的な脆弱性(ソクラテスか?イエス・キリストか?)

パワー 相互に変化する力:愛と問いよって力を生み出す、互いに用心深く、脆弱な存在である1人称、2人称、3人称による実践。パラダイムを問うフィードバックを歓迎する。(例:マーティン・ルーサー・キング・Jr.による1963年の「I have a dream」演説と非暴力公民権運動)
問い 時々刻々をとらえた問い:自分と他者が絶えず意識していることに挑戦する。 明確な矛盾がいかに創造的な緊張を生み出すかを問う。意図、戦略、行動パターン、結果の整合性を評価すること。行動変容のための問い:「今、どうすれば自分の怒りを建設的に表現できるか?」
模範となる人: ウォーレン・バフェット ブレイディ財務長官から電話があり、自分の言い分が受け入れられないバフェットは、「ニック、今日は私の人生で最も重要な日だ」と彼に訴えた。(バフェットの前代未聞の無防備な訴えは、相互に変化する力の可能性を秘めていた。)

後退はポジティブな力

成長の過程における高い段階からの後退は、自然かつ必要なことであり、それは高い段階にあるほどよく起こることだ。リーダーが低い段階にある人や状況に接すると、容易に低い視点に引き戻される可能性がある。また、大きなストレスやトラウマも、この後退を引き起こす(パンデミックの時のあなたの低空飛行を思い出してみてほしい!)。

だからこそ、コーチやリーダーとして、自分がどの程度後退しやすいかを知っておくことは有効だ。そうすることで、そのことを認識し、素早く立ち直ることができるし、より良い決断と最良のステップを踏むために、再び上向きになることができる。私たちは、意識していること、つまり、発言したり行動を起こす前に、瞬間的に素早く目覚め、「自覚」することが求められている。

垂直型発達理論

2005年以降、リーダーシップにおける成人発達理論は、「水平(horizontal)」な管理職研修に対して、「垂直(vertical)」なリーダーシップ開発を示すことが多くなっている。水平のトレーニングの考え方は、リーダーシップ開発における今自分がいるステップより上に挑戦することなく、新しく重要なスキルやコンピテンシーを従業員に伝えることができるというものだ。

「垂直」という表現は、ステップが上がるごとにそれまで知っていたことをすべて含む「高い意識」に到達することを意味している。人はより高い「バルコニー」へ、つまり「鷹の目」の視点へと進み、そこから複雑なシステムに作用する多くの力を理解し、どの行動が正しくタイムリーであるかを決定できるようになるのである。

発達理論によれば、「変容のためのステップ」は外から押し付けられるものではなく、また、自分自身で内側から起動させることだけによるのでもない。何らかの働きかけがなければ高い視点を持つことは難しいためである。たとえば、コーチがクライアントを新しい高い視点から状況を見るように促す「効果的な会話のやりとり」によって、上方へのシフトをもたらすことができる。またコーチは、クライアントが自身の動きが後退したことに素早く気づき、より高いステップにすぐに戻れるように手助けすることもできる。

この上方のステップへ上昇することと後退から回復するプロセスは、現在では「垂直型リーダーシップ開発」と呼ばれ、リーダー開発を進めるための価値のあるプロセスとなっている。

コーチのための学び

  1. 垂直型リーダーシップ開発のアプローチを自分自身に適用し、最高のコーチに成長する。
  2. クライアントと一緒にモデルを検討し、彼らが主にどのリーダーシップのステップにいるのか、そして開発の観点からどのように手助けができるのかを明らかにする。
  3. クライアントが失敗を認識し、そこから立ち直り、再び立ち上がるよう支援する。

「あなたは、単に何かを少しずつ良くしていこうとしているだけではありません。根本的なパラダイムシフトを起こすような、そして指数関数的なインパクトを与えるようなことをしようとしているのです。つまり、実行するのは難しいが、最終的に成功した場合のそのインパクトは非常に大きくなります。」
ー スティーブ・ケース


【筆者について】
アンディ・クック(Andy Cook)氏は、エグゼクティブコーチ、教育者、組織開発、リーダーシップ開発の専門家として20年以上の経験があり、教育学の博士号を持つ。

ミシェル・シャボー(Michelle Chabot)氏は、幼少期より小説の執筆を始め、戯曲の執筆では受賞の経験を持つ。また、哲学と歴史への興味と情熱を持ち、それはコーチング、リサーチ研究、執筆活動という3つの情熱すべてを生かせるコーチング研究所(IOC)での仕事に結び付いている。

マーガレット・ムーア(Margaret Moore)氏は、米国、英国、カナダ、フランスにおけるバイオテクノロジー業界で17年のキャリアを持ち、2つのバイオテクノロジー企業のCEOおよびCOOを務めた。2000年からは、健康関連のコーチングに軸足を移し、ウェルコーチ・コーポレーションを設立した。ムーア氏は米国コーチング研究所(IOC:the Institute of Coaching)の共同創設者および共同責任者であり、ハーバード大学エクステンション・スクールでコーチングの科学と心理学を教えている。

【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】Transforming Leaders in Steps(2022年10月24日にIOC Resources(会員限定)に掲載された記事の翻訳。IOCの許可を得て翻訳・掲載しています)


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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