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ある大手金融会社の総務課長、Sさんが、3ヶ月間のコーチングトレーニングに参加しました。

Sさんはとてもまじめな方で、トレーニングはとても順調に進んでいました。

1ヶ月ほどして、「承認」のスキルを扱ったときのことです。

部下を、いつ、どんなとき、どのように褒めるかをディスカッションしていました。そして、実際にひとりの部下を選んで、この1週間で実践してくるという宿題を出そうとしたとき、Sさんはその宿題をかたくなに拒んだのです。

Sさんはいろいろと、理由を言います。

「わざとらしい」
「今まで褒めたことが無いから、相手がびっくりしちゃいますよ」
「変に思われて、逆効果かも知れない」

挙句の果てに、「部下にほめるところなんてないですよ」

私はSさんに聞きました。

「なるほど、そんなことを思っているのですね。では、お聞きしたいんですけど、もう少しコミュニケーションを良好にしたい人はいますか?」

Sさんは答えます。

「それはたくさんいますよ。たとえば、私の部下で10歳年上の女性スタッフ。文句が多くて、口うるさい。その人と話しているとすぐに険悪な感じになってしまう。もう少しいいコミュニケーションがとれたらストレスは減りますね」
「その方のことをどう思っているんですか?」
「チームの中で一番のベテランで影響力も強いので、本当はもう少しうまくやりたいんですけどね。仕事はできるので、最終的には信頼はしてます」
「そのことを、本人に伝えたことありますか?」
「ないですね」
「Sさんに私からリクエストしてもいいですか? ぜひ、今のことを本人に伝えてみましょうよ。それはとても強力な褒め言葉だと思いますよ」
「桜井さん、わかりましたと言いたいところだけど、この場で約束はできないな」


その1ヶ月後にSさんから聞いた話です。

「桜井さん、例の年上の女性スタッフに言ったんですよ。桜井さんと話してから、ずっと頭の中にこびりついて、いつか話さなきゃいけないなとチャンスをうかがってたんです。ちょうど面談の機会があったので、最後に意を決して、『あなたともう少しうまくやりたい、信頼してますから』と言ったんです。そうしたら、相手は目が点になって息が止まるし、私は汗が噴き出すし、お互いにいたたまれないような空気になっちゃって大変でした。でも、その後があるんです。あいかわらず口の利き方は気に食わないんですが、文句だけじゃなくて、『こうしたほうがいい』『早めににこれをやったほうがいい』 という提案型の発言が多くなってるんです。明らかに彼女から歩み寄ってきてくれてるように感じるんですよ。少し、うまくいくきっかけがつかめたように思います」


私たちは、これまでの人生の経験をもとにして、ほとんど無意識のうちにコミュニケーションをとることができます。

そして、ここまでの人生をそれなりにうまく生きてきたことを考えれば、自分自身のコミュニケーションを変える必然性はない、といってもいいのかも知れません。

今までに自分がしたことのないコミュニケーションをとるには、勇気が要ります。それは高い飛び込み台からプールに飛び込むようなもの。その人にとっては、飛び込む必然性は無いのです。

飛び込んだ後に体験する爽快感や達成感があるかもしれないことは知っている。でも、失敗するかもしれない。その一線を越えて可能性を切り開くための「リクエスト」は、コーチにとって重要なスキルのひとつといえるでしょう。

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