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ルールは参加者が決める

ルールは参加者が決める | Hello, Coaching!
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ある電子部品メーカーの資材部門の事例です。

この部署は、過去のリストラによって、ベテラン数人と多勢の若手社員という、いびつな年齢構成となっていました。

若手社員は仕事のノウハウがないため、毎日のように残業しても成果が上がりません。しかも、若手社員がバラバラに質問に来るため、ベテラン社員までもがその対応に追われて、思うように仕事ができなくなっていました。

そこで、解決策として勉強会を開くことを決めました。これならば、効率的にナレッジを伝えることができます。

勉強会を開くにあたり、コーチとして介入した私は、まず若手社員に「ベテラン社員から、教えてほしいこと」をリストアップしてもらいました。「見積もりを取る時のポイントは?」「コストダウンに効果的な会話の仕方はあるのか?」など、さまざまな項目が出てきました。一方、ベテラン社員には「若手社員に、最低限知っていてほしいこと」をリストアップしてもらいました。

この2つを合わせ、伝えるべきナレッジのリストができあがったところで、私はこう問いかけました。

「リストが全部クリアできたら、生産性が上がるはずですよね。ちなみに、各項目について、皆さんはどのくらいのレベルなんですか?」

ある若手社員は、「僕は4番目と8番目がわからないです。すぐにでも教えてほしいです」と言いました。

この発言がきっかけとなり、
「おれも4番と......あと12番が知りたいな」
「これって、一目でわかるように色分けしない?」
「それなら、シールを貼るようにしようよ!」
「やり方を知らない状態は危険信号ということで赤、それがだんだんと黄色、青色と信号みたいに変化させるのはどう?」
と、皆のアイディアが堰を切ったようにあふれ出し、一気に運用のイメージへと具体化していったのです。

そしてこの活動は、ごく自然に話の流れから「教えてシグナルシート」と名づけられました。

まず大きな紙に表を書き、その横欄に若手社員の名前、縦欄にリストの項目を書き込みます。そして自分の名前と項目がクロスする枠に、各自「教えて度合い」をつけるのです。

「すぐに教えてほしい」という場合は赤いシール
「前に教えてもらって、何となくわかる」という場合は黄色いシール
「自分一人でできる」という場合は青いシール
を貼るというルールです。

すべての枠が青シールに貼りかえられたら、ゴール達成です。

まずは、赤いシールが多い項目から勉強会を始めました。勉強会を開くたび、黄色が一気に増えます。そこから個人が努力することで、青のシールも増えていきました。

さらに、別の紙に青シールの数の推移を表したグラフを作りました。みるみる増えていく様子が一目でわかります。「教えてシグナルシート」を定期的に写真に撮り、色が変化していく様子もわかるようにしました。

こうして赤ばかりだったシートはどんどん青へと変化し、若手社員はメキメキと力をつけていったのです。

「教えてシグナルシート」というネーミングもよかったのでしょう。わからないことや教えてもらうことは決して恥ずかしいことではない、という前提のネーミングですから、安心できる雰囲気をつくります。また、このプロセスに部署のメンバー全員が関わったことで、目標達成に向かううえで、納得感と一体感が生まれました。

このように、活動のコンセプトから具体的な運用ルールまで、参加者自らが参画して決めると、納得感が違い、動きも積極的になります。

コーチである私の役割は、ただただ、彼らのアイディアを引き出すこと。そして、彼らのアイディアを組み合わせて、その場で、なんらかの形を皆でつくっていこうとする雰囲気を醸成すること。

他の人がルールを持ち込んで、「君たちにはこれをやってほしい」とすると、その瞬間から have to do となります。しかし、自分たちで作れば、want to do になるのです。

コンサルタントや社内プロジェクトチームなどが、他の部署や他社事例のいいところを押し付けてしまうことがありますが、これはもっとも機能しないやり方です。 いくら優れた方法でも、「やらされ感」があると長続きしないのです。

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