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人生のナレーターになる
コピーしました コピーに失敗しました私は、コーチを育成するクラスを毎月5、6クラス受け持っています。
クラスの内容によっては、コーチとして活動して3、4年経つ方もいれば、コーチングそのものが、まったく初めての人もいます。
「コーチングを勉強して、どれくらいでコーチングができるようになりますか?」と、よく聞かれます。
コーチ育成のプログラムは、電話会議で行っていますが、どのクラスでも実践しているのが「コーチング・デモンストレーション」という練習です。この練習は、次のように進めています。
まず、コーチ役をひとり、コーチを受ける人(クライアント役)をひとりずつ指名。
私:「では、これから練習します。時間は7分。コーチ役のAさんは、今日クラスで学んだことを意識して、Bさんをコーチしてください。時間が来たら終了です」
電話会議には、当事者のほかに15人前後の観客がいるわけですから、期待が高まります。
姿が見えなくても、電話の向こうでコーチ役をする人のペンを握る手に力が入るのが伝わります。
会話は大体、このように始まります。
A(コーチ役):「では、Bさんどうぞよろしくお願いします」
B(クライアント役):「よろしくお願いします」
A:「Bさん、いろいろ部下を持っていらして、大変だと思うんですよね。難しい部下の人が自分でやる気になるには、どうしたらいいと思いますか?」
B:「えー、と。そうですね、まず、自分で考えてから聞きにくるようにするのがいいと思いますけど」
A:「あ、それよくわかります。すぐ人に聞いちゃう人っていますよね。それでは、明日から何をしますか?」
B:「そうですね......まずは、明日時間をとって話そうと思います......」
A:「話す時間を作るのは、忙しくて難しいと思うんですが、どうしますか?」
B:「......」
Bさんの声はどんどん低くなり、元気がなくなります。それに相反してAさんはこの場をどうにかしようと、テンションがどんどん上がります。会話はかみ合わなくなり、聞いている人たちも関心を失っていきます。
これはコーチのスキルが足りないのではなく、「初動捜査」を誤った典型です。
この場合、コーチがしたことは、
・コーチ側から会話のテーマを提供した
・それについてどう思うかBさんに答えさせた
・一般論を扱っている
・会話の行き先のたずなをコーチが握ったままになっている
この形態にはまっていることに気づかずに続けてしまうと、ここから抜け出すことが難しくなります。
Bさんは答えながら自分がどこに連れて行かれるのか、漠然とした不安の中で話し続けますし、コーチはこれから先のことを考えて、相手の言うことなど聞く余裕がなくなります。この場合、次のようにセリフを変えることを提案します。
私:「Aさん、では、次はこのように会話を始めてください。『Bさん、この7分間、私はあなたをコーチする時間があります。何に使いますか?』」
このセリフをBさんに投げた瞬間、Bさんが息を吸い込むのが伝わってきました。そしてしばらく間をおいて、話し始めました。
B:「どうしても意思の疎通がうまくいかない人が社内にいるんですが、その人とうまくやっていく方法について模索してるので、それについて話したいと思います」
A:「もう少し詳しく聞かせていただけますか」
その後、Bさんはありありとリアルに場面や自分の状況を話し始めました。声は生き生きとし、勢いもあります。そのときは、コーチのみならず、電話会議で聞いている人がみな、聞き耳をたて前のめりで聞いているのが伝わってきます。
その後のコーチからの問いかけは変容しました。「自分が知りたいことを質問する」から「関心から生じる」コーチング型の質問へと変わったのです。
これが「コーチング・モーメント(コーチングの瞬間)」であり、ここには「聞くスキル」や「質問のスキル」を駆使したり、相手に対して意識的に関心を持とうとする感覚はありません。 リアルな体験を扱うと、これらは自然に行われます。
そして、コーチは見えにくいところ、伝わらないところ、ピントが合わないところを相手に伝える。クライアントはそれに応じていく中で、5分もすれば、自然と結論に行き着きます。
ここでカギとなるのは、『この7分間を何に使いますか?』」とBさんにたずなを渡したこと、すなわち、オーナーシップを持たせたことにあります。そしてリアリティ。
今まで出会ったコーチの中で、このコーチング・モーメントを作る達人は、このコラムでも出てくるハーレーン・アンダーソン氏です。彼女はいつもこのように会話を始めます。
" How would you like to spend this time today ? "
(今日は、この時間を何に使いますか?)
" Tell me about yourself. "
(あなたのことについて教えてください)
この投げかけによって、相手は自分の人生のナレーターになります。自分で話し、自分で客観的に聞くことで、さまざまなことに気づく機会が与えられます。このような体験は日常生活の中でほとんどありません。
これは、長くコーチングを学んでいても起こせないこともありますし、生まれて初めて行うコーチングのセッションで起こることもあります。
その人のナレーションを聞けているかどうか。それは、クライアントに会話のオーナーシップを持たせているかを、チェックするキーポイントとなります。
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