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相手の靴をどうやって履くか
コピーしました コピーに失敗しましたよく、相手の立場になってものを考えろといいます。
英語で言うと、"put yourself in someone's shoes"。直訳すると、「相手の靴を履いてみなさい」。そうすれば相手の立場に立てるということですね。
上司が部下の、部下が上司の立場に立つことができたら、きっと今よりももっと職場は活性化することでしょう。しかし、これは言うほど簡単ではありません。
だいたい、本当に相手の身になってものを考えなければいけないときというのは、そもそも両者の間に何らかの問題があるときです。上司は部下にイラついていたり、部下は上司に反感を覚えていたりします。
「平和」なときに相手の立場に立つのはそれほど難しくないですが、「有事」のときに相手の立場に立つのはかなり難しい。相手の靴なんて蹴飛ばしたいわけですから。
要するに、「頭」全体を「感情」が覆っているときは、「思考」はあちらこちらの視点に滑らかには移動しにくいものなのです。
ある一点に、がちっとはまり込んでしまって、ほとんどそこから動きません。頭にきているときに、相手の側からものを見るなんていうことは、そうそうできないということです。
逆に言えば、そうなったときこそ、試されるわけです。相手の靴を履く力が。
感情をリリースするという目的を持つ
先日、ある企業の役員10人を集めてグループコーチングを行いました。
テーマは、「どうすれば組織はもっと活性化するか」。こちらが用意していったプログラムがあったのですが、冒頭からシナリオはもろくも崩れました。
「俺たちはこんなにコミットをもってやっているのに、組織が活性化しないのはミドルマネージャーのせいだ」
「彼らは不満ばかり言って、自分から動こうとしない」
「何かというと、大変だ、難しい、無理難題だと言う」
次から次へと、ミドル層への不満が出てきます。
思わず「みなさんも不満ばかり言っていますね」と言いそうになりましたが、あまり関係ができていない段階でそういうことを口走るとぐちゃぐちゃになってしまうので、まずは全部吐き出してもらうことにしました。おそらく役員は普段マネージャーに面と向かって思っていることを言えていないのでしょう。言えていれば、こんなところで突然噴出したりしないですから。
吐き出してもらうと決めたら、こちらもその線で動きます。
「それはひどいですね、マネージャーが!」
「もう少しマネジメント側の気持ちもわかって欲しいですよね!」
途中であおったりして。1時間半ぐらいでしょうか、「不満を語る会」は続きました。
1時間半、言うだけ言って、役員が少しリラックスした顔つきになったところで聞きました。
「マネージャーのみなさんは、本当は役員のみなさんと、どんな風に仕事をしたいんですかね?」
一瞬、場が静かになりました。
そして、ほんの少しの間の後、何人かが、それまでとはずいぶん違ったトーンで思っていることを話し始めました。内容から、相手の靴を少し履き始めたということがわかりました。不満などの感情が大きくなると、思考はその中に閉じこもり、自由な「移動」ができなくなります。ですから、思考を移動させて、他人の靴を履かせようと思えば、まずはどうしても感情を「抜く」必要があります。
役員から、相手の立場に立ったと思われるいくつかの発言が出た後、そのことを役員のみなさんに説明しました。そしてこう付け加えました。
「次に部下の不満を言い合うときは、なにげなく始めるのではなく、『意図して』始めてください。つまり、次のステップである「相手の立場に立つ」ということのために、まずは意図して感情を抜くと決める。そうしないと、自分が放った言葉に影響されて、余計嫌な気持ちになることがありますから。感情をリリースするという目的を持って話せば、毒は抜けていく一方です。そして、抜けたら、思考を移動させて、相手の立場に立って見る。世界が変わって見えると思います。今のみなさんのように」
コーチの仕事の基本は、相手の視点を変えることにあります。難しいことのようですが、変えるための原理原則は存在しています。
それを知っているか知らないかの違いは大きいかもしれません。誰かの視点を変えるためにも、自分の視点を変えるためにも。
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