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大きな質問で、部下を育てる

大きな質問で、部下を育てる | Hello, Coaching!
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コーチになって13年。

「どのように相手に質問を投げかければ、相手の様々なケイパビリティを高めることができるのか」についてずっと考えてきました。

「ずっと」と言っても、もちろん13年間毎日毎日考えていたわけではなく、波があります。ある時期に集中して「がーっ」と考えます。

その時点で世に出ている質問関連の本を掻き集め、全て読み、それまでの自分の知識にブレンドし、現場で試してみる。ある程度やれるようになると、しばらく質問に関して静かな時期がやってきます。そして、しばらくすると、また「が―っ」となる。

この1ヶ月ぐらいは、自分の中で「質問」が盛り上がっていますので、今回は、最近自分の中で流行っている質問における考え方についてお話ししたいと思います。

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先日、内藤誼人さんの『他人を動かす質問』という本を読んでいたら、

「人は自分の意見なんか持ち合わせていない。『○○はどうですか?』というような質問をするのはよくない。なぜなら、人は質問されて初めて自分の意見を決めるのだから」

という趣旨のことが書いてありました。

「聞かれて初めて人は意見構築を始める」というのは、「なるほど!」と思いました。だから、いきなり大きな質問をされると答えに窮する、これもその通りです。

ただ、一方で、使いようによっては、「意見構築をさせるために大きな質問ほど役に立つものはない」というのが、これまで多くの人に質問をし、また自分自身もコーチから質問をされてきた経験からの実感でもあります。


例えば、みなさんが、「今の日本で、企業における人材育成はどうあるべきか?」と聞かれたとします。

その質問を真っ向から受けて立たなくてもいいような緩い雰囲気の中では、思考はもちろん深まりません。しかし、適度な緊張感が場にあり、質問から逃げることができなければ、その大きな質問は、あなたのこれまでの人材育成に関する経験や知識や見聞を一気に集約し、構造化させる力を持ちます。

それは、ちょうど、たくさんの釘がばらばらと落ちているところに、磁石を置くようなものです。


エグゼクティブコーチングにおいて、

「そもそも会社とは何ですか?」
「何のために経営をしているんですか?」
「リーダーシップとは何ですか?」

などの問いを受け、それによって新たなステージに進んだ方を、私は何人も知っています。

コーチングを勉強されたマネージャーの方が部下に対して、

「君が実現したいのはどういうこと?」
「営業改革はどうあるべきだと思う?」
「顧客は何を求めていると思う?」

などの質問をして、部下の意識を変えたという話もいくつも知っています。


人は時に自分の意見構築ができておらず、それがもとで自信を持ってアクションを起こすことができない、ということがあります。そこに、緊張感のある大きな質問をすると、磁石が釘を集めるように過去の様々なリソースが集合し、意見構築が起こります。たとえ、その場で構築できなくても、シンプルで大きな問いは、その人の中に内在化し、繰り返し意識に上り、意見構築を迫ります。

このように、大きな質問にはものすごい力があるのです。

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もう一つ、「質問」について最近よく考えていることをお伝えしたいと思います。

最近ある企業の執行役員の方にコーチングをしていて、「もっと質問をうまくなりたいのだが、どうすればいいのか?」というテーマをいただきました。

彼のコミュニケーションは、場に大きな影響を与えます。ですから、いち早く質問の達人になってもらいたい。そのためにはどうすればいいか。セッションまでの1週間、あれこれと考えました。そして以下のようなことをその方に伝えました。

「例えば、ある問題があって、それに対するソリューションを生み出そうというときに、当然頭の中であれやこれやと考えますよね。『考える』ということはどういうことかというと、この場合、頭の中で、質問とそれに対する回答が並ぶ状態です。

つまり、こういう感じです。

(質問)『顧客のこの問題に対して、どのようなマトリックスを持ち込めば整理ができるだろうか?』
(答え)『そうだ! プロダクトポートフォリオだ』

(質問)『顧客のこの問題を引き起こしている根っこはなんだろうか?』
(答え)『新しいリスクを取ろうとしない会社の姿勢だ』

(質問)『同様の問題を過去に解決した社内外の人は誰で、どのようにすればその人の意見を得ることができるだろうか?』
(答え)『社内では山本だ。彼はグループ会社の社長として同様の問題を解決したはずだ』

このように人の思考はQ&A、Q&A、Q&A......となります。

ただし、この内のAの部分を部下に伝えてしまうと、相手は自分であまり考えなくなってしまいます。答えが手に入るので思考がストップしてしまうのです。一方、Qの部分をそのまま相手に伝えると、相手は、あなたの問題の解き方のプロセスを学ぶことになります。つまり、お腹がすいている人に魚をあげるか、魚の釣り方を教えるかの違いになるわけです」

このことを伝えた後、ある問題に対して、彼がどのような問いを使って解決していくのか、内側の問いを全て書き出してもらいました。それは見事な質問集であり、「釣り方」でした。部下にそれを提示しないのは全くもったいないように思いました。


大きく質問し、部下に軸となるような意見を構築させる。そして、実際に前に進むために、解決能力を高めるために質問を投げかけていく。

質問を使った育成パターンの一つとして、ぜひ参考にしてみてください。

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