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日本人最弱(?)説

日本人最弱(?)説 | Hello, Coaching!
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先日、弊社のアドバイザリーボードとのミーティングで、「日本人が日本人の特性を活かし、グローバルでリーダーシップを発揮するにはどうしたらいいのか」についてディスカッションをしました。

簡単に解が見つかる話でもなく、「こうすべきだ」というソリューションよりも、どちらかというと、「日本人のこういうところが課題だ」という話が噴出しました。

その中で、早稲田大学政治経済学術院の白木三秀教授が、「日本人は、何をやって欲しいかを伝えられないんですよ、現地の社員に対して。こうして欲しいと、きちんとリクエストできない。そこが大きな課題です」と強い口調でおっしゃいました。

上海、香港、シンガポール、ニューヨークにある弊社の拠点からも、「日本人駐在員の多くが、明確に要望できないことを課題と認識している」という情報があがってきています。そうすると、改善の方向性は、当然のように「日本人はもっと強くリクエストができ、リーダーシップを明瞭に発揮できるようにならなければいけない」ということになります。あるいは、そういうことをできる人を海外に送り込むか。

などを指摘し、コーチングがスタートしました。

実際、ある電気メーカーなどは、海外に「武闘派」と呼ばれるほど押し出しの強い人を送り込んでいると聞きます。

インド、中東、中国などでは、日本人らしからぬ強さを持った「その人の力」にかける。

しかし、これだけ多くの日本人が海外で仕事をするようになると、もはや武闘派の数も十分ではありません。

そんなことをつらつらと考えていたときに、齋藤孝さんの『日本人は、なぜ世界一押しが弱いのか?』という本を見つけ、一気に読んでしまいました。

齋藤さんは、本の中で、

「人類が最初に誕生したのはアフリカです。そのアフリカに誕生した人類が、少しずつ移動しながら、世界各地に広がっていきました。(中略)移動ルートから察するに、日本人というのは、押しが弱いがゆえに土地を追われ、大陸から押し出されてしまった人々の末裔なのではないでしょうか」

と書かれています。

統計的にも、背が小さい、体が小さい、胃が弱い、酒に弱い、などの日本人世界最弱説。

それを否定するのではなく、まずそこからスタートしようと。それを日本人の特質としてやっていこう。そんな論調で内容は貫かれていました。

もちろん、日本人の中でも体の大きい人はいるし、押しの強い人もいます。

完全に、私の個人的見解ですが、大手商社さんには体が大きい人が多いように思います。どちらかというと押しも強い。でも、世界的に見れば数は圧倒的に少ない。

そもそも、あまり押しの強くない日本人が海外で無理をすると、逆にアウトレージャスになって、パワハラのようなことにつながってしまったりもする。

ある企業の人事の方は、日本人幹部が、本社の意向を現地スタッフに伝えようとした際、理由もそこそこに、「つべこべ言わずに、やれ!」というトーンで言ってしまい、問題化してしまったと、嘆かれていました。

では、どうすればいいのか。

もちろん、リクエストする力を高めるというのはあります。武士のように、心を静め、軸のぶれない状態で、はっきりと相手に方向を指し示す。鍛錬する。

もう一つは、齊藤さんが言っているように、まず「自分は弱い」というところから始めてみる。強がらない。日本人なんだから弱いんだよ、と。

「こうしてほしい」と、明確に言えなければ、「こういうことを考えているけれども、どうだろうか?」と持ちかける。「それはなかなか難しい」とローカルの社員に言われたら、「ではどうすれば実現できるだろう?」と聞いてみる。

こうしたやりとりの中で、ローカル社員から「こうすればできるかもしれない」といった幾つかのアイディアが出てくるかもしれません。

向かい合い、乗り越えるのではなく、同じ方向を向き、一緒に考えるようなスタンスを取っていく。

ひょっとすると、その方が多くの日本人にとっては、楽にできることかもしれません。

先日、天理大学のラグビー部の小松監督に、弊社で講演していただきました。

天理大学は今年の大学選手権の準優勝チーム。惜しくも決勝で帝京大学に敗れています。小松監督は、その天理大学を20年間率いてきました。

監督は、決して上からやらせるタイプではありません。印象的だったのが、彼は、選手に対して、
「知らなかった」
「わからなかった」
「教えてほしい」
こういう言葉を連発していることです。

選手と監督が横に並んで前を向いている、そんな光景が話の端々から想像されました。

そういえば以前、投資会社の社長さんで、1000人を超える経営者を見てきた方が、「成功するリーダーの条件」のひとつとして、「弱みを見せることができること」を挙げていました。

ひょっとすると、日本人は強いふりをせずに、弱みをはっきり見せるということをした方がいいのかもしれません。

齋藤さんの論が正しければ、日本人は、「そもそも弱い」わけですから。そして、実はそれをマネジメントでプラスにすることもできるのですから。

反論がある方もいるかもしれません。「そんなに日本人は弱くないぞ」と。

この論考が正しいかどうかは一旦脇に置くとして、「日本人とはどういう人たちなのか」「グローバルで他国の人たちとどう渡り合ったらいいのか」といったことについて、思考が更に深まるきっかけとなれば幸いです。

【参考文献】
齋藤 孝 『日本人は、なぜ世界一押しが弱いのか?』(祥伝社新書)

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