Coach's VIEW

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『正解を教える』から自由になる

先日、インターネットのシステム構築を専門としている人から
興味深い話を聞きました。

今、大学などの教育機関の多くが、
学生の学習を生の授業だけでなく、
インターネット上でもサポートする「コース・マネジメント・システム」を
導入しているそうです。

このコース・マネジメント・システムが、
北米・ヨーロッパ型と日本・オーストラリア型の2種類に分かれ、
そのシステム構造は両者で根本的に違うというのです。

まず、日本・オーストラリア型は、
「eラーニング」をベースに学生の理解度をテストする方式が多く、

「テストを通じて能力を棚卸し、間違ったところは
 集中的にeラーニングなどで学ばせ、正しく答えられるようにトレーニングする」

という「一方通行型」が一般的。

北米・ヨーロッパ型は、
テスト方式は取らず、学生が学習するプロセスにおいて
教授が随時関わることを前提に設計されており、

「フィールドワークを実践させ、そこでの体験について
 質問したり、情報共有するなど、人とやりとりすることを通じて学ばせる」

という「双方向型」で、システムには
Facebookなどのソーシャル系の仕組みが
組み込まれていることが多いそうです。

日本でもテレビで注目された
ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による
「ハーバード白熱教室」の授業風景では、
教授と学生のやりとりをベースに授業が進んでいきます。

このアプローチは、日本で多く見られる先生が生徒に「正解を教える」
アプローチとは明らかに異なって見えます。

日本・オーストラリアと北米・ヨーロッパではなぜ違うのか、
については諸説があり、そのひとつには
教授が何によって評価されるのか、というところに関係があるとされています。

日本やオーストラリアでは、
評価の対象は「優れた研究発表や論文の数」であり、
欧米は「優れた人材を世の中に送り出すこと」であるという説があります。

どちらが良い、悪いはありませんが、
達成したい目的によって、そこへのアプローチの方法が違ってくるのは、
当然のことであり興味深いところです。

実は今、この「双方向型」のコミュニケーションが
日本のマネジャーにも求められています。

私たち日本人の多くは、いつの頃からか、
「唯一の正しい解」を求め、与えられる教育を受けてきました。

社会人になっても、この「唯一の正しい解」の追求によって
高度成長できた時代が続きました。

しかし今、私たちを取り巻く環境は日々変化をしています。

そのスピードはこの数年間で何倍も速くなっています。
同時に、グローバル化に伴い、ひとつの価値観だけでなく、
多くの価値観が取り巻く中でビジネスが動いています。

このようなダイバーシティの中で生き延びるには、
「唯一の正しい答え」に向かって進むのではなく、
「リアルタイムに変動し続ける中で、
双方向のコミュニケーションを交わしながら
様々な可能性から最適の選択をする」能力が求められます。

そして、そのノウハウを、私たちはまだ持っていないのかもしれません。

弊社のコーチ・トレーニング・プログラムでは、
企業から「マネジメントスキルの開発」のために、
多くの精鋭の方が送り込まれてきます。

コーチ型マネジメントの実践に取り組み始めた方に
「何が一番役に立っていますか?」とお聞きすると、
多くの方が、次のことを口にすることに驚かされます。

「黙っていられるようになったこと」

プログラムに参加して6ヶ月ほど経った、
部下50人を持つ管理職の方の発言がとても印象に残っています。

「最近、やっと相手の話を黙って聞くことが平気になってきました。
 今までは、部下から話しかけられると、すぐに
 『何か答えを教えてあげなくては』と思っていました。

 実際、自分が若いころは、上司に何かを聞くと、
 間髪いれず、答えを教えてくれる人がいて、
 そういうことをできる人が優れた上司だというイメージを持っていました。

 でも、今の時代は、場合によっては自分より部下の方が
 優れた答えを持ってることが多いですよね。

 私にできることは、
 部下が自分でその答えにたどり着くよう『聞く』ことだ、
 ということがわかりました。

 でも、答えを言わずに話を促すなんてことは、
 これまであまり経験したことがないので、
 やってみるまでは、どうしたらいいか全くピンときませんでした」

「正解」を教えるのではなく、
質問したり、黙ったり、時には議論するなどして
「双方向」のコミュニケーションを交わしながら相手の学習を促す。

多くの人にとって、これはまったく新しい経験であり、取り組みです。

それは、従来の日本型に見られる、
一方通行の学習システム構築の傾向とは明らかに違います。

でも、一方通行のアプローチが、優れた人材の育成を阻むとするなら、
私たちは「正解を教える」というところから
少し自由になる必要があるのかもしれません。

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