Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


前言撤回

前言撤回 | Hello, Coaching!
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

新年度が始まり1か月が過ぎました。リーダーのみなさんは、チームメンバーが組織ゴールに向かって一直線に活動する状態を作ろうと躍起になっているのではないでしょうか。

「コーチング型リーダー」としては、部下のキャリアビジョンを聞き、その個人目標を組織目標に結び付けながら、部下の自発的な行動を導き出していきたいところです。

そこで、メンバーに「この組織で何を成し遂げたい?」など、本人のモチベーションにつながりそうなことや、将来のキャリア像についてひたすら質問し、聞くわけです。

ところが、部下が「成し遂げたい」と思っていることが、上司として今の組織でやって欲しいことと必ずしも合致しているとは限りません。

部下の意識が「自分の成し遂げたいこと」のみに向かい、組織目標と乖離しているとしたら、そのモチベーションは組織目標達成に向けた障害にすらなってしまいます。

それはまさに、リーダーとして部下の「やりたいこと」に「NO」というべき局面です。しかし、それがなかなかできないリーダーが多いようです。

コーチング研究所(CRI)の「リーダーシップアセスメント」の結果からは、「部下と、部下の将来について話をしている」リーダーは、「部下に言いにくい事を面と向かって伝える」ことを必ずしも徹底できていない、ということが分かっています(※)。

私自身、部下に「NO」を言えないリーダーでした。

部下が目を輝かせながら自分のやりたいことやキャリアビジョンを話すのを聞き、自分にはない斬新なアイデアを持つ部下を純粋に応援したくなりました。そして、コーチとして関わることで、部下の才能を開花させたい、とも思いました。

そこで、組織目標に合致していないことに薄々気付きながらも、今できることを一緒に探したり、協力してくれそうな人を探したり、部下が前進したときには、アクノレッジしたりしました。

結果、どうなったか。

その部下は、自分の「やりたいこと」により意識が向くようになりました。モチベーションも、一層高まっているようにも見えました。

ところが、目の前にある組織目標に向けてチーム全体が一丸となるべき場面でも「自分のやりたいこと」を優先するようになっていきました。

気が付くと、組織全体のパフォーマンスにも影響が出始め、私自身のフラストレーションも大きくなっていました。

そもそもの目標設定が失敗だったことに気付いた私は、挽回しようと軌道修正を図りました。が、今度はその方法を間違えて、部下は感情的に反発しました。

私は、自分のコーチとの対話を繰り返しながら、なんとかこの状況を乗り越えようとしました。

そもそも、なぜ、私は組織目標と方向性の違う部下の行動を、すぐさま止めることができなかったのでしょうか。また、その後の伝え方の何を間違えたのでしょうか。

一度は部下の思いに共感して、先に進めることを合意した。それなのに、手の平を返すようなことは部下との関係を損ねてしまう。それは信頼関係をベースに部下の能力を引き出すことに反する、と思い込み、軌道修正に向けたコミュニケーションを取ることを「避けて」いたことにきづきました。

また、「会社の方針だから」というビジネスのロジックを持ち出して「すべきことではない」という正論を振りかざした伝え方にも問題があったのでしょう。

自分自身の思いとして、自分の言葉で、「この前、先に進めようと合意したことは、いったん止めて欲しい」と伝えるべきだったのです。

そこで、行動として次の3点を徹底することにしました。

・組織の目標を一つ絞り込み、伝え続ける
・全ての行動を、一つの目標達成に向けるよう要求し続ける
・周囲からも部下に期待を伝えてもらうよう、周囲に働きかける

いま、私の部下は組織目標に向かって動き出しています。

そして、先日、嬉しいことがありました。この部下から、「最近、小笠原さん言うことが、以前よりよく伝わるようになった」とフィードバックをもらったのです。

部下の様子から、「もしかしたら、この部下は、私が明確な要求をすることを待っていたのかもしれない」そんな風にも思いました。

勇気をもって「NO」を伝える。それは、組織目標に向かう上で障害を取り除く作業にほかなりません。特に、部下の将来について話をしっかり聞く傾向のあるリーダーは、心に留めておきたいリーダーシップ行動と言えるのではないでしょうか。


【参考資料】
※コーチング研究所(CRI)のリーダーシップアセスメントには55個のリーダーシップ行動が定義されている。アセスメントの対象となったリーダーは15,589人。
「私は部下の将来について本人と話をしている」というリーダーシップ行動と他の54個のリーダーシップ行動の相関関係を分析したところ、「私は周囲の人に対して言いにくい事でも、面と向かって伝えている」は相関順位が54番目、つまり最下位であった(R=0.35)

この記事を周りの方へシェアしませんか?


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事