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「質問で新しい気付きを得る」とはどういうことか
2013年04月24日
コーチングのクライアントの「効果」に結びつきやすい5つのこと
コーチング研究所が自分自身にプロのコーチを付けた人、220人にアンケートを実施しました。その結果から、何がコーチングのクライアントの「効果」に結びつきやすいのか、ということが分かりました。
特に結びつきが強いのは次の5つでした。
- 定量的な目標を設定したこと
- 質問で新しい気付きを得たこと
- 話を最後まで聞いてもらったこと
- 行動の選択肢が増えたこと
- アンケートなどのツールを使ったこと
このうち、「質問で新しい気付きを得る」ことは、コーチングの最も特徴的なものですが、同時に、コーチングを知らない人にとっては「どういうことなのかが分かりにくい」と言われることも多いものです。
「質問で新しい気付きを得る」とはどういうことなのか
そこで今回は、「質問で新しい気付きを得る」とはどういうことなのか、そしてそれをどのように実現するのかについて、分かりやすい方法でご紹介してみたいと思います。
まず、みなさんに、下のURLにあるYouTubeのビデオをご覧頂きたいと思います。時間は約30秒です。このビデオには、バスケットボールをしている人達が登場します。ビデオを観ながら、「白いユニフォームの人達が、合計何回パスをしているか」を数えてください。
答えはこのビデオの後半に出てきます。
YouTubeを観ることが出来る環境の方は、この先は読まずにやってみてください。そして、パスの合計回数を数え終わったら、ここに戻ってきて下さい。では、どうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo
さて、いかがだったでしょうか?
この実験は1999年に紹介され、その後世界中で有名になりました。なので、このビデオについて本で読んだ方やYouTubeなどですでに見たことがあるという方もいらっしゃるでしょう。
YouTubeをご覧になれない方のために、このビデオについて簡単に説明しておきます。
このビデオには、バスケットボールをしている2つのチーム(白いユニフォームと黒いユニフォーム)が出てきてボールを回しています。
しばらくすると、ゴリラの着ぐるみを来た人が画面右から入ってきて、大きく動きます。そして画面左へと消えていきます。
最後に、「正解は15回です」というテキストと共に、「ところで、ゴリラがいたのに気づきましたか?」という質問が提示されます。
この実験では、最初に「白いユニフォームの人達が、合計何回パスをしているか」と問いかけることで、意図的に「白いユニフォームを着た人達」に意識を向けさせています。
対象者の約50%の人達はゴリラの存在に全く気付かない
ハーバード大学時代にこの実験を行ったニューヨーク・ユニオンカレッジのクリストファー・チャブリス教授とイリノイ大学のダニエル・シモンズ教授によると、対象者や場所がどんなに変わっても、約50%の人達が、ゴリラの存在に全く気付かなかったそうです(※)。
両教授はこう述べています(※)。
「ゴリラが見えないのは、視力に問題があるからではない。目に見える世界の、ある一部や要素に注意を集中させているとき、人は予期しないものに気付きにくい。たとえそれが目立つ物体で、自分のすぐ眼の前に現れたとしても。つまり被験者は、パスを数えるのに夢中で、目の前のゴリラに対して『盲目状態』になっていたのだ」
私たちは、何かに意識を向けると、他の情報が入りにくくなるという性質を持っています。
今回のビデオでゴリラを見つけた人でも、別の場面では「盲目状態」になるかもしれません。
では、この同じビデオを使って、最初の質問を次のように変えてみたらどうでしょうか?
「ボールを投げている人は全部で何人ですか?」
「ボールを投げていない人は何人いますか?」
「ボールを投げている人は男女何人ずつですか?」
私の職場で、合計9人にこれらの質問のいずれかをしてからビデオを観てもらったところ、どの質問の場合でも、全員がゴリラを難なく見つけました。
ちょっと極端な言い方かもしれませんが、人の意識は、質問によってコントロールされています。
質問が変わると、見えるものが変わります。「質問で新しい気付きを得る」とはこういうことなのです。
人の行動の前には、何らかの質問があると考えることが出来ます。
「明日は何時に家を出ればいいんだっけ?」という質問で、家を出る時間を決めたり、「今日の会議に必要な資料は何かな?」という質問で、資料の準備をしたり、声に出すかどうか、意識しているかどうかに関わらず、自分に質問をしながら私達は行動しています。
つまり、「新しい行動」を自分に取り入れるためには、自分への「新しい質問」が必要なのです。
あなたにコーチが居れば、コーチはあなたが気づかないような質問を次々と投げかけてくれるでしょう。それらの質問は、新しい行動を取り入れるために重要な役割を果たします。
では、たとえば部下の視点を変えるための質問をするにはどのようにすれば良いのでしょうか?
必要なのは、「部下が部下自身にしていないような質問をする」ことです。
そのためには、「部下が自分自身にしている質問」を知る必要があります。これは難しいことなのですが、そのヒントを見つけることは出来ます。
相手が「これは考えるまでもないことだ」、「当たり前だ」と思っているようなことからヒントを掴むことが出来るのです。
たとえば、会議に向けて当たり前のようにパワーポイントで資料を作成しようとしている部下に、「次回の会議ではどのような方法で資料を作成すれば良いと思う?」と聞いてみたり、若手をよく怒鳴っている社員に、「怒鳴っている時って、あなたはどんな表情をしていると思う?」と聞いてみるなど。
もし、自分が「新しい視点」を得られるような質問を誰かにしてもらいたいのであれば、近しい人からの質問ではあまり効果がありません。むしろ、一緒に仕事をしたことがないような人、特に新しく職場に異動してきた人や新入社員から質問をしてもらうと、全く新しい視点が得られる可能性が高いはずです。この4月に自分自身が新しい職場に異動した人なら、新しい職場であなたが繰り出す質問は、多くの人に素晴らしい気付きをもたらすかもしれません。
考えこともないような質問をされる。それはワクワクする、とても楽しい体験なのです。
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【参考資料】
※ 「錯覚の科学」
クリストファー・チャブリス (著), ダニエル・シモンズ (著), 成毛 真 (解説), 木村 博江 (翻訳)
文藝春秋 (2011)
http://www.youtube.com/watch?v=vJG698U2Mvo
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