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グローバルリーダー育成法

グローバルリーダー育成法 | Hello, Coaching!
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最近、NYでテーマの異なるふたつのカンファレンス(会議)に参加しました。

ひとつは企業におけるLeadership Development(リーダーシップ開発)について、もうひとつは、PMI(Post Merger Integration)、つまり、企業買収を成功に導くために何ができるのか? をテーマとした会議でした。

前者では、グローバル企業であるP&Gの方がP&Gにおける「グローバルリーダー育成」について講演されました。

同社では、国をまたいでグローバルで活躍する幹部社員の実に9割以上が、次の4点の経験を積むように、意図的に人事異動が行われているそうです。

1)2ヵ国以上のマルチなロケーションで仕事をする。
2)仕事を通じて2つ以上の専門領域を経験する。
3)グローバルに横の連携ができるような社内ネットワークを形成する。
4)不振な事業部門、子会社のターンアラウンド(事業再生)、あるいは買収した会社でのPMI責任者を経験する。

最初の3点は、なんとなくわかる気がします。幹部社員である以上、マルチな職種経験があればあるほど、幅広い経営視点を持つことが容易になります。また、他地域、他国のリーダーと連携をとったり、ナレッジシェアをしたりする関係を構築することで、部分最適ではなく組織視点で全体最適を考えられるようになる、ということでした。

多くのグローバル企業では、世界を4~5つのリージョン(地域)に分けて定期的に幹部社員を集め、合宿形式でリーダーシップ開発を行うようです。

ここでは、課題に取り組むことはもちろん、「ネットワーキング」のためのメニューが必ず取り入れられ、各国、地域のリーダー達が連携し、切磋琢磨するようになっているのです。

さて、気になる最後の4つ目の条件。これは何なのでしょう?

実は、PMIのカンファレンスで、思いがけず、この4つ目の条件に関連する議論の場に出会いました。

そこでは、「企業のターンアラウンド(事業再生)やPMIこそ、総合的なリーダーシップを求められるリーダー開発の重要な機会だ」という点で参加者がディスカッションしていたのです。

ターンアラウンドやPMIは、短期間に成果を出すことが求められる、ある意味、関わる人にとって「修羅場」となる環境です。

そういう「修羅場」では、

・情熱
・異文化適応力
・ビジョンを描き、それをチームに共有し、徹底させる力
・チームビルディング力
・新たなリーダーを発掘する力
・異なる利害を調整し物事を決めていく力
・メンタルタフネス

などの7つの力が求められること、そして、その修羅場で結果を出したリーダーは、将来、間違いなくグローバルなビジネスシーンでも指導的ポジションにふさわしいバランスを備えた人になる、ということでした。

一方で、期待をこめて送り込んだエースがうまく機能しないケースも数多くレポートされていました。

「自社での成功体験を買収先に強引に持ち込んだ」
「"こっちが買った側だ"という意識が被買収企業に伝わり反発を買った」
「コストシナジーやリストラから進めたところ、営業部隊がモチベーションを失い、結果的に市場でのシェアを失った」

など、原因は様々です。

先に紹介した7つに共通するスキルを参加者たちが抽出していったところ、「リーダーのインターパーソナルスキル」、つまり「1対1での対話力」の有無が大きく関係しており、失敗例ではそれが低いか、欠如していたことが浮き彫りになりました。

インターパーソナルスキルが高ければ、

・「新しい環境」はどういう環境であるのか?
・そこにいる人たちがどういう人でどんな関心を持っているのか? 
・自分はその環境でどういう期待を持たれているのか?

といったことについて「取材力」や「状況を把握する力」が自ずと高くなります。

言い換えると、「新たな環境に的確に対応する力」が高まり、その後、どんな環境に遭遇しても、独善的に過去の成功体験を振り回すような失敗がなくなります。

また、インターパーソナルスキルが高いと、相手を知った上で、その人を通してその状況下における自分の立ち位置をも知ることにつながります。

異なる文化的背景や利害をもつ集団を調整しながら、共通した一つのゴールに向かわせたり、次のリーダー候補を見出し、育てることでチーム全体のモチベーションを高く維持したりする際に必要なスキルといえます。

では、ターンアラウンドやPMIの場のような「修羅場」でないと、グローバルで活躍するリーダーを育てることはできないのでしょうか?

もちろん、そんなことはありません。P&G社の最初のポイントに戻ってみましょう。

国や地域など、働く場所や専門外の環境で仕事をする場面も、まさに「新たな環境にアジャストして結果を出す」ことが求められる環境だと思います。

人は、同質の価値観や環境の中に長年いると、勝手知ったるルールと人脈の中で、深く対話せずとも、なんとなくコミュニケーションが成立してしまうようになります。

「○○さん、また例の感じでよろしくね」の一言で重要な申し送りを済ませてしまう。そんなシーンにお心当たりはないでしょうか?

リーダー育成に必要なことは、リーダー候補をそうしたぬるま湯につかった状態(コンフォートゾーン)に安住させるのでなく、常に対話し続けないといけないような環境に置き、どんな環境にあっても「周囲との関わりの中で結果を出し続ける力」、まさにインターパーソナルスキルをアップデートし続けることが大事だということなのでしょう。

ターンアラウンドやPMIは、ある意味、そうしたスキルが最大限求められる極限状態とも言えます。

しかし、そこまでいかなくても、通常の人事異動にそうしたコンフォートゾーンを外していく観点があれば、インターパーソナルスキルを磨く機会はいくらでも創出できるのではないでしょうか。

事業部横断のCFT(クロスファンクショナルチーム)でのプロジェクト活動なども、異なる価値観のなかで対話力を磨くという意味で「一皮むける」機会といえるのではないでしょうか。

皆さんの会社では、インターパーソナルスキル開発をグローバルリーダー育成にどの程度採用できているでしょうか?

今回はふたつの異なる会議参加から学んだ、興味深い意見をご紹介いたしました。

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