Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
コーチングの有効活用に向けたガイド
コピーしました コピーに失敗しましたエグゼクティブコーチをさせて頂いている中で、「コーチングの効果を最大限のものにするには?」と、クライアントの方から聞かれることがあります。
今回は、その視点とポイントをご紹介し、みなさんの「部下をコーチする」「自らがコーチを受ける」「組織にコーチングを導入する」といった場面でご参考頂ければと思います。
■コーチングの「取扱」を説明をする
コーチングの『使い方』をクライアントに教える。
実は、これは、経験あるコーチが、コーチングの最初に必ず取り組むことです。
- 過去のクライアント事例を紹介する(成功例・失敗例)
- コーチングで実施するプロセスを説明する
- コーチングでの対話の進め方を共有する
- コーチングの有効性や限界を伝える
- コーチングにおける約束事を確認する
これから始まるコーチングについて、コーチとクライアント間の情報レベルをなるべく合わせておくこと、そして、「コーチ=知っている人」、「クライアント=知らない人」ではなく、コーチとクライアントが「対等な関係」で、コーチングが進む状況を創ること。
そこがポイントです。
クライアントが、自分の成功のために、より早期にコーチングを「使える状態」になることを目指します。クライアントがコーチングの場を「コントロールする」ようになることが、コーチングの成功に直結するからです。
そのため、経験豊富なコーチは、コーチングがスタートする段階で、「クライアント本人が、コーチングの使い方を、どれだけイメージできているのか?」という点を、慎重に確認しようとします。
■クライアントの「主役感」=「選択権・決定権」がエンジンになる
これまで、コーチングが成果をもたらさないケースも数々見てきました。
それは、クライアントが「コーチングをどう使えばよいか分からない」状態のとき、あるいは、「やらされている感」を持っているときに起こりがちです。
コーチングのエンジンとなるのは、クライアントの「主役感」です。
即ち、コーチングの進め方に対して、クライアント側が「選択・決定」できること、それだけ十分にコーチングに関する知識があり、目的意識が形成されていること。
それがあって初めて、力強い行動や成果への前進が生まれるのです。
この「選択権・決定権」こそが、人の行動と成果を生み出す上で、極めて重要で強力なファクターになります。
つい先ごろ、コーチングとは別の場で、「選択権・決定権」が人の原動力になることを目の当たりにしました。知人の女性が、難病を罹ったのです。
その際、主治医は、淡々と知人に次のようなことを話しました。
- 難治とされる病でも、完治する人はいること。
- 完治する人に特徴があること。それは、自分の病気について、詳しく知ろうとする人であり、納得できるまで調べ、質問し、要求する人。そして、治療の主導権を最後まで手放さない人。
本人は、私たちよりも冷静に、その話を受け止めていたように見えました。そして、瞬く間に、自分の病気に関する情報を調べ上げ、周囲にも情報提供者や意見交換者を持ち始めました。
しばらくして、本人が、病気と治療方法については、大分、理解ができたこと、自分で治療方法も決めたことを口にし、その上で、「完治させ、あと10年は生きることを決めた」と言い切りました。
治療がはじまると共に、病状が少しずつ良くなる様子に、周囲も担当医も驚いていました。
「健康や幸福感などの人の精神的・肉体的状態を左右するもの、それは、『実際にその人の持つ自己決定権の大きさ』ではなく、『自分に決定権があると認識していること』である」(※1)
これは、著書『選択の科学』で有名なシーナ・アイエンガー氏の指摘です。
もちろん、病気が良くなった要因は、他にもあると思いますが、病を克服した知人から学んだこと、それは、「自己選択・自己決定」のもつ力強さでした。
■コーチの役割
私自身、12年前から、コーチングの「クライアント」として、コーチングを活用し続けています。その中で、自分なりの「取扱説明書」を更新し続けています。
例えば、
- クライアントである自分が主導権を握り、コーチングのテーマである「目標」を持ち込むこと
- コーチングの進め方は、自分からリクエストし、コントロールすること
- セッションの時間をどう使いたいか、毎回、コーチに要求すること
などを念頭に置いてコーチとのセッションに臨みます。
そして、経験豊富なコーチほど、上記をクライアントである私に要求してきます。要は、クライアントに、「あなた次第だ、あなたが決めなさい」と意思決定を委ねるのです。
コーチング研究所実施のコーチングにおける「決定権」に関する調査
実は、コーチング研究所が実施したコーチングにおける「決定権」に関する調査でも、次のような結果が示されています(※2)。
- 経験を重ねたコーチほど、意思決定を相手に委ねる傾向がある
- 新人コーチほど、アドバイスや意見の押しつけにより、相手をコントロールする傾向がある
具体的には、下記の項目において、新人コーチとベテランコーチの間でスキルの優位差が確認されています。
- 上の立場からの指示やアドバイスはしない
- 考えを押し付けず、クライアントの視野が広がる提案をする
- セッションの始めに、クライアント自身がセッションの目的を明確するよう導く
- セッションの終わりに、クライアント自身が次回までの行動を明確にできるよう導く
経験豊富なコーチほど、コーチングの過程で起こる、様々な決定・選択の「権限」を、クライアントに「委譲」するのです。
クライアント自身が、「コーチを受ける」感覚から「コーチを使う」感覚に移行した時、コーチングも、クライアントも一層パワフルになり、成果の可能性が拓かれる、そう考えます。
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