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「自ら考え、行動する人材を増やす」
「ダイバーシティーが加速する中、組織をひとつに束ねる」
「優秀な現地社員を確保する」

経営者の多くは、大なり小なり、さまざまな理由で「ビジョンの浸透」に高い関心をもって取り組まれています。実際、ビジョンや企業理念について社員と共有する時間を確保している、という方も多くいるでしょう。

では、社員とのビジョンの共有を「目指している」経営者と、ビジョンの「共有ができている」経営者の違いは何なのでしょうか。


「ビジョン浸透」を測るアセスメント結果に、よくみられる現象があります。それは、「ビジョンを知っている」という項目は高得点なのに、「自分の業務と組織のビジョンに関連性がある」は低い、というものです。

このような企業のリーダーは、おそらく、度々熱心にビジョンを「語って」いるのでしょう。ですから社員は、「ビジョンの存在」を認識しているし、その言葉も記憶している。でも、それを「自分事」として行動に紐づけるほどには、理解も腹落ちもしていない。つまり、「受け取っていない」のです。どうしてこのような結果になるのでしょうか。

脳神経科学者の研究や、認知神経科学の考えに、「私たちは、相手の話をそのままには受け取らない」というものがあります。(※)

話の一部を聞いた時点で、素早く全体の内容を判断してわかったつもりになり、それ以上のことを聞かない。自分が受け入れやすいところだけを選択して聞き、それ以外は聞かない。

これは、脳は「一方通行」の状態で情報を受け取ると受け身になり、「聞く」行為を省略化しようとするからだそうです。ですから、脳を「受け身」にしないためには、脳を「発信側」にするしかありません。伝えたい相手を「話し手」にする、つまり、「伝えたいときほど、話してもらう」ということです。

数年前、チームのメンバーに、「この組織には、ビジョンがない」と言われたことがありました。組織をまとめる立場として、ショックな出来事でした。

そこで、私は自分のコーチとのセッションで、このテーマについて扱うことにしました。現状を把握した後、コーチは私に聞きました。

「ビジョンは誰のものですか?」

「ビジョンはみんなのものです」と私は答えました。

「では、ビジョンを作るのは誰ですか?」

この質問で、私は気づきました。「ビジョンがない」と言われてしまったことに反応し、自分が、より一方的に説明していたことに。「みんなのもの」と言いながら、みんなに意見を聞いたこともなかったことに。

セッションが終了してすぐ、メンバーに聞きました。

「この会社のビジョンが、もし明確にあったとしたら、それは何だと思う?」

一人ひとりが、それぞれの言葉で、思い思いに自分の思う会社のビジョンを話してくれました。

30分程自由に話して、全員が気づいたことがありました。それぞれの話には、共通の方向性があった、ということです。

合致しない点も多々ありました。けれど、最大公約数的な共通のイメージは発見され、共有されました。

それ以降、メンバーが「ビジョンがない」と言うことはなくなりました。

私たちは、「話す側」に回ってはじめて、思考を深め、自分の意図や解釈を掘り起して再構築し、顕在的に「理解」します。その「理解」へのプロセスこそが、物事を自分事として捉え、同じ目的に参画しようと思う機会となるのではないでしょうか。

ビジョンは、リーダーが発信するところがスタートです。しかし、時には伝えることを手放して、相手に語ってもらう。国籍や価値観が違う相手であればあるほど、参画してほしい相手であればあるほど。

こちらの意図しない理解・解釈が飛び出してくることもあるでしょう。けれど、同時にこちらの想像をはるかに越えるような、ビジョンへの参画の仕方を、自ら見つけてくれるかもしれません。

【参考資料】

※ The Science of Listening 2013 Korn/Ferry International
http://www.kornferryinstitute.com/briefings-magazine/winter-2013/science-listening

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