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弱みを活かす
コピーしました コピーに失敗しましたリーダーが「有能」であることは、人を率いる上で必ず求められるものだと思います。しかし、「周囲を活かす」ことを考えた場合、その有能さは、「諸刃の剣」にもなりかねないようです。
大手金融サービス企業のエグゼクティブA氏は、誰もが認める「超」優秀なリーダー。リーダーシップに関するアセスメントでも、周囲の人たちからの回答結果は非の打ちどころのないものでした。
現場の人たちへのインタビューでも、
・周囲はA氏のパフォーマンスを信頼し尊敬している
・A氏の戦略や判断は極めて的確で頼りになる
といったことが口々に語られていました。
しかし、インタビューを進めていく過程で、私の中で微妙な違和感が生まれてきました。
A氏について語る人たちの表情が「活き活き」していない。決して暗くはないものの、笑みや声にも抑揚がなく、常に冷静、客観的なのです。
ある方にインタビューした際、このことを率直に伝えてみると、 次のようなコメントが返ってきました。
「わかりますよ、それ。Aさんは、ある種の天才です。私たちには『遠い』存在なんですよ。Aさんに言われると、自分はダメなんだな、と思わざるを得ない。言われた人は、自分の存在価値を感じられなくなるのでは? 君たちには無理、と言われるのは分かっていても...本当は、もっと任せてほしいのだと思いますよ」
ただ、一度だけ、A氏を「身近」に感じたことがあったそうです。
A氏が、どうしても事態打開の方策が見つからず悩み込んだことがあり、会議中に、珍しく本気で弱音を吐いたそうです。
「どうしたらいいか...わからない。すまん、誰か助けてくれないか...」
耳を疑う言葉だったようです。A氏には、いつものオーラはなかった。
「一瞬、ショックでした。でも、咄嗟に『この人を助けなければ』と思いましたよ」
そう語る表情は、心なしか嬉しそうでした。
コーチング研究所では、リーダーのどのような行動が部下のどの行動と関連性が高いのかを、膨大なデータから割り出そうとしています。
「私はいい仕事をしていく自信がある」と答える部下の状態と関連性が高いリーダーの行動は、「ビジョンを魅力的に語っている」や「部下の強みや得意分野を引き出し、伸ばしている」という行動であることが見えてきています。
一方で、周囲からあまりにも有能だと思われているリーダーの下では、周囲の人の「強みや得意分野」が引き出されていないケースに遭遇することがあります。
勿論、誰もが自分のリーダーには、「有能さ」を期待したいものでしょう。とはいえ、それによって自分の「存在価値」を打ち消されたいわけではない。
部下には、リーダーに対してこのような言葉にしづらい「微妙な期待」が存在することを、次に紹介する運輸業界の現場トップを務めるB氏は十分に分かっていたのかもしれません。
B氏も、先のA氏と同様、周囲から尊敬を集めるリーダーでした。現場経験の長さと技能に絶対の自信を持つ、誇り高いリーダーでした。
インタビューでは、B氏について周囲が語るコメントは概ね好意的でしたが、B氏の弱みについて、皆が「同じように語る」点が、特に印象的でした。
「Bさんは、人前で話すのが得意ではない。本人も言ってますが、口下手です。しかし、その点は、彼の右腕である〇〇さんが補佐していますから、問題はありませんよ」
「Bさんは、計数管理には弱いんですよね。本人も頑張って勉強しているみたいですが、まぁそこは、経営企画の〇〇さんが、がっちりサポートしていますけどね」
B氏の弱みが、既に皆に「共有」されていること、その弱みを、「誰かが補う」ように動いていること、周りがB氏を「助けたがっている」こと、そういう雰囲気が伝わってきました。
リーダーの弱みが皆に知られ、助ける人が集まり、チームとして結束している。B氏の周りでは、そんなことが起こっていそうでした。
ふと、B氏が単なる「有能」なリーダーを超える、「ある有能さ」を持つことに気づきました。それは、有能でありながら、自分の弱みをも周りに開示してしまう演出力。結果、気づかぬ間に、周囲が「主役」になっている。自らの有能さを磨き、主役として人々をリードする。リーダーである以上、そこは、周囲から求められ続けることだと思います。
反面、リーダーの輝きは、傍のメンバーの存在を陰らせてしまうリスクを持つ。
リーダーには、その「微妙なさじ加減」を扱える「有能さ」が更に要求されているのかもしれません。
有能なリーダーとして尊敬を集めながら、致命的にはならない自分の「弱み」を使い、「君が必要なんだよ」ということをメンバーにさりげなく伝える。
「なぜ、私がリーダーになれるのか? そうだね...それは、周りを『主役』にできるからだよ」
B氏の巧みな「演出」は、背景にある「強い信念」に裏打ちされているのだと思いました。
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