Coach's VIEW

Coach's VIEW は、最新のコーチング情報やリサーチ結果、海外文献の紹介を通じて、組織改革や人材開発、リーダー開発グローバルビジネスを加速させていくヒントを提供するコラムです。


現地化

タイにオフィスをオープンし、1年がたちました。

今年の5月からは、日本語や英語に加えて、
タイ語での説明会やコーチトレーニングを開始しています。

この1年間で説明会に参加くださったのは、
日系企業約700社、約1,000人もの方々。

これらの企業の共通点は、「現地化」を進めようとしていること、
そして、「現地化」を進めるために「コーチング」に注目している、という点です。

***

2010年に刊行された、スイスIMD教授のJ. Stewart Blackらによる著書
"Sunset in the Land of the Rising Sun"には、
直近の15年間で、日本企業のシェアが新興国企業に奪われ始め、
日本企業が一人負け状態になっており、その背景は現地化が進んでいないことにある、
ということが書かれています。

そして、現地化が進まない原因として、

・日本本社の企業理念に固執している
・現地法人のマネジメントに、日本人か日本人化した現地人しか
 雇用してこなかったために、権限委譲ができていない
・本社組織のダイバーシティ度が低いだけでなく、経営トップ層のダイバーシティ度も低いため、
 海外現地法人の運営方法が分かっていない

などの理由をあげています。

海外に進出している日系企業において、
「現地化」は緊急かつ重要課題であることは言うまでもありません。

その差し迫った理由は、

・日本人駐在員にかかるコスト削減
・ナショナルスタッフのアカウンタビリティ向上、生産性向上

この2点に集約することができるでしょう。

「日本人がマネジメントをし、ナショナルスタッフを労働力として使う」

これは、これまでの日系企業の「典型的な」マネジメントスタイルといえます。

ところが、近年は、現地の最低賃金が上昇し、
人件費におけるメリットが薄れはじめ、その中で
さらに給与の高い日本人マネジャーを置き続けることが
難しい状態になってきています。

そこで、日本人駐在員を減らし、
マネジメントを現地化することで、人件費率を下げたい。

ある試算によると、日本人の給与、海外赴任手当て、
住居費、渡航費などを考慮すると、
日本人一人分で、現地スタッフを最低でも3人、
国によっては30人以上を雇用することができるそうです。

さらに、ナショナルスタッフをマネジャーにすることで、
当事者意識やアカウンタビリティを高め、生産性を上げたい。

多くの日系企業が、こうした理由からマネジメントの「現地化」を
早急に推進しようと取り組みを始めています。

しかし、「現地化」の必要性を認識しているにもかかわらず、
必ずしも現地化が進んでいるとは言えないのです。

・これまでの長い歴史の中で、
 「日本人が決め、現地スタッフ人は言われたことをやる」
 という受身の風土ができあがってしまい、そこからなかなか抜け出せない。

・そもそも、これまでは現地のマネジャーを育てようとしてこなかったので、
 どのように教育したらよいのかわからない。

・付け焼刃的にマネジメント研修をしても効果が上がらない。

・高いお金を出して海外のビジネススクールに行かせても、
 帰ってきてすぐにマネジメントができるわけはない。

このような中で、「現地化」、つまり、現地人マネジャーを
どのように育成するかについて、多くの企業が模索しているのだと思います。

***

昨年の12月から、タイの工業団地にある
日系自動車部品メーカーの日本人社長にエグゼクティブ・コーチングをしています。

コーチングのゴールは、まさに「現地化」。
その最終的なゴールは、「タイ人が社長を務める」こと。

その社長は、コーチングの中で次のように話しています。

「自分が社長を退くときに、新しい日本人が社長になるのでは意味がない。
 3年、5年、もっと長くかかるかもしれないが、
 自分が退いた後は、タイ人を社長にしたい。

 この先1年間のゴールは、会社全体が『能動的な組織』になること。
 タイ人スタッフ、タイ人マネジャーの、自発的、自律的な行動をもっと増やしたい。

 そのバロメーターは、改善提案の数。
 もし、1年間で改善提案の数が増えれば、組織が変わったといえる。

 現状は、提案の数が非常に少ない。
 その理由は、社長の私が指示を出しすぎているからだと思う。

 細かいこと、些細なことまで、私に聞いてくる。
 そして、私も、指示を出してしまう。それが『組織の当たり前』になってしまっている。

 問いかけて、考えさせて、話させて、実行させて、振り返る。

 この、コーチングのプロセスを知って、可能性を感じた。
 組織を変えるには、まずは私から、自分の関わりを変える必要があると思った」

私とのコーチングは、月に2回。
すでに半年が経過しました。

先日、社長の右腕であるタイ人マネジャーとお会いする機会があり、
部下の立場から見て、社長にどのような変化があるのかを
直接お聞きすることができました。

「この半年で社長は大きく変化しました。
 以前は、会議で社長が一方的に話をしていましたが、
 今は、社長がみんなの意見を聞くようになりました。
 みんながアイディアを出すブレーンストーミングのミーティングが増えました。

 そして、一番の変化は、社長が、自分たちのことを信頼してくれるようになった、
 と実感できること。
 具体的には、自分のアイディアを聞いてくれた上で、
 仕事を任せてくれるようになりました。

 社長に影響されて、自分も部下の話を聞くようになりました。
 会社を辞めそうな部下がいたが、こちらから話を聞いてみたら、
 辞めたいどころか、実はもっといろいろな仕事をしたい、と
 思っていることがわかったんです。
 以前だったら、私からその話を聞くことはありませんでした」

この半年の社長の試みによって、
組織全体のマネジメントに変化が起こっているのです。

海外日系企業における「現地化」を目的としたコーチングは、
まだまだ始まったばかりです。

しかし、十数年前に日本でコーチングを始めた時に感じた以上の
手ごたえを感じています。

現地化のためのコーチングは、
私たちの想像を超える成果を生み出す可能性を
秘めているといえるでしょう。

【参考資料】

J. Stewart Black, Allen J. Morrison
"Sunset in the Land of the Rising Sun:
Why Japanese Multinational Corporations Will Struggle in the Global Future"
(2010, Insead Business Press)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

関連記事