Coach's VIEW

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リーダーは『乗っている絨毯』を引く

今年のワールドカップでも、ハードに走り続ける
一流のサッカー選手の姿を、90分間観戦できることと思います。

過去、W杯や欧州選手権でオランダや韓国、
ロシアなどの代表チームを上位に導いたコンディショニングコーチの
レイモンド・フェルハイエン氏。

同氏によれば、選手の身体に、意図的に
過負荷=「オーバーロード」をかけることで、
試合終了まで、爆発的なアクションができる身体を
開発することが可能になると言います。

ビジネスの世界でも同様に、「意図的」に負荷を課すことで、
人や組織を成長させ、その創造性を引き出すリーダーがいます。

本田宗一郎氏は、時に、あえてプロジェクト終了間近になって、
締切りを短縮するようなことがあったといいます。
社員はそれまでに持っていた方法やイメージが壊されることで、
新たな解決方法やプロセスを考え出さざるを得ないような状況に直面します。

「二階に上げて梯子を外す」というホンダの人材育成方法も、
過去の成功事例やマニュアルも通用しないような類いの仕事を任せることで、
より創造的な人材を育成してきたといいます。

DeNA創業者の南場智子氏は、CEO時代、変化の激しいネット業界の中で、
その状況に機敏に対応するために頻繁に人事異動を行っていたそうです。

そのやり方は、チームメンバーが頼りにしている
大黒柱のリーダーを、躊躇なく引き抜くこと。

すると、残されたメンバーたちは最初はその変化に戸惑い、
プレッシャーを感じますが、しだいにその穴を埋めようと必死で仕事をし、
次のリーダーが誕生したそうです。

リーダー不在という負荷を「あえて」起こすことで、
新たなリーダーをスピード感をもって開発したということでしょう。

私自身の経験ですが、以前、ある大型プロジェクトに
アサインされたことがあります。

そのプロジェクトのリーダーは、プロジェクトの基盤となる、
重要なツール開発を私にアサインしました。

通常、その種の開発には、6ヶ月から1年もの期間が
優にかかると言われています。

私自身も、そのような「通常の」スピード感でプランを企画し、
チームメンバーとも調整していました。

ところが、そのリーダーは、ツール開発の期限を
3ヶ月後に定めたばかりでなく、対外的にも、
そのことを発表してしまったのです。

それは、私にとっては、自分が立っていた「絨毯」を、
「いきなり、引かれる」ような体験でした。

そのリーダーの行動や姿勢に、戸惑いや抵抗感を覚えましたが、
一方で、リーダーのあまりにもきっぱりとしたその姿勢に、
腹をくくるしかない、と覚悟ができました。

それからは、ツール開発に必要と思われる社内外の人に、
押しかけるように会いにいき、アイディアをもらったり、
他部署の人たちを巻き込んだりしてツール開発に邁進しました。

結果、リーダーに決められた約束の3ヶ月後に、
無事完成することができました。

それは、少なくとも6ヶ月はかかると思っていた私にとっては
驚きの体験でした。

あの3ヶ月は、私にとって、それ以前とは違う、
スピード感や人の巻き込みを可能にさせた、濃密な3ヶ月間でした。
その体験は、確実に私と組織の成長を促しました。

後に、その時のリーダーから、こんな話を聞きました。

「もともと、人は、『機が熟していないから』とか、
 『前例がないから』と、とかく理由をつけ、
 自身の70-80%の力で仕事を回してしまう事がよくある。

 そうしていく中で、しだいに、自身の能力はこの程度のもの、
 と思ってしまう。

 だから、自分は、100%以上のリクエストを
 自分にも仲間にもしていきたい」

リーダーが、どのタイミングで、どれぐらいのスピードで、
どれぐらいの勢いで「絨毯を引く」かは、重要なポイントだと思います。

あまりに乱暴すぎると、メンバーに過大な負荷を与え、
逆に部下の能力を活かしきれない可能性もあります。

先の、レイモンド・フェルハイエン氏によれば、
一人ひとりの選手のレベルに合った負荷を探るところからスタートし、
段階的に負荷を高めていくといいます。

また、負荷からの回復時間も重要なポイントで、
回復時間もトレーニングの時間と同じぐらい必要なのだそうです。

以前、あるリーダーの方とのコーチングの中で、
「部下に負荷をかける」時のポイントについて対話することがありました。

そのリーダーがおっしゃるには、フェルハイエン氏と同様に、
常日頃から、メンバーが、どのような負荷に対して、
どのぐらいの耐性があるのか、スキルのレベルや能力はどうなのか、
などをよく観察し、そして、負荷をかけた後も、
注意深く、見続けるスタンスは忘れてはならない、ということでした。

時に、リーダーは、メンバーの創造性や成長を促進させるために
「梯子」を外したり、「乗っている絨毯」を引いたりするような関わりが
効果的なことがあります。

【参考資料】
『ホンダ式 一点バカ 強い人材のつくり方』(朝日新書)
 片山修 (著)

『アンシンク UNThink 眠れる創造力を生かす、考えない働き方』(講談社)
 エリック・ウォール (著), 住友 進 (翻訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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