Coach's VIEW

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価値観の違いを知るということ

情報共有は積極的に行っているのに、
ミスや事故の発生率が改善せず、「いざ」という時に
チームとしてのパフォーマンスを発揮しきれない――

そんな思いを抱いている方は、少なくないのではないでしょうか。

・異なる意見でも相手の話を聞くこと
・違う部署を超えて協力すること
・自分が得た情報や経験を積極的に共有すること

確かに、こうした組織や役職の枠を越えた情報共有は
リスク管理において非常に重要です。

しかし、実態は、思うように実践できなかったり、
実践できても継続できなかったり、
効果をあげることができないケースもあるかと思います。

その状況を打破するヒントを
医療現場でのエピソードを元に、ご紹介したいと思います。

医療の現場では、異なる専門性を持った医療関係者が集まり、
チームとして動きます。

しかも、そのチームは緊急性や患者さんの状況などによって
急きょ編成されることも日常茶飯事です。
にも関わらず、ひとつのミスが人の命を左右しかねないという
厳しいリスクを背負い、それをチームとして回避していかなければなりません。

つまり、「いざ」という時のチーム力が問われる"究極"の場のひとつが、
医療現場と言えるのではないでしょうか。

そこには、
組織がチームとして力を発揮するためのヒントが、数多くあります。

私が、そのひとつを実感したのは、
コーチングセッションでの、ある一言がきっかけでした。

* * *

「Aさんとは何かとズレるんです」

ある産婦人科医の方とのコーチングセッションは
そんな言葉から始まりました。
一緒に働いている助産師のAさんとそりが合わない――
具体的には、妊婦さんへの問診やアドバイス、関わり方などが、
自分とは何かとズレており、いくら注意しても治らない、と言うのです。

「Aさんは、とても頑固で、
医学的な知識を無視して妊婦さんに接してしまうんです!」

と相当怒り心頭のご様子でした。
しかし、しばらく間を置いたセッションのある日、

「怒っているうちに、彼女の行動に対して"なぜ"と思うようになり、
違和感を感じる度に
『なぜ、そうしたのか?』とAさんに直接問いかけ続けました。
その過程で、気づいたことがあります」

少し弾んだ声で、話してくれました。

「お産に臨む時の根本的な価値観が違ったんです。
Aさんが大切にしているのは、
『妊婦さんの心の安心に寄り添うこと』。

一方、私は医療の専門的な見地から、
『母子の命を最優先に守ること』を一義的な目的としています。
お互いに、無事にお産を成功させるという共通の目的を持っていても、
瞬間的に選択する動作は、それぞれの価値観に沿っているのかもしれません」

お互いが大切にしている「価値」を知ること、
つまり「相互理解」を深めることが、
お互いが持つ情報や行動への理解を促進し、
連携向上へとつなげていける、そう確信したセッションでした。

* * *

人間には、「選択的知覚」というものがあり
自分が関心ある情報だけに注意を向けたり、
自分の経験や感覚に合うように解釈したりする傾向があるそうです。

自分自身の価値観を通じて物事を判断し、
無意識のうちに行動へ反映され、
しかも、緊急事態などの有事の際には、
その価値観が顕著に行動に表れると言われています。

そうした人間の特性を踏まえているのか、
アメリカでは、医療や原子力、航空界といった
非常に厳しいリスク管理を求められる業界に対して
国を挙げて、「ミスを起こさない組織」の研究が
行われているようです。(※1、※2)

たとえば、国防省のAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality;
医療品質研究調査機構)では、
「ミスを起こさない高信頼性組織 (High-Reliability-Organization)」について、
30年以上にわたって研究を積み重ねています。(※3)

その研究の中では、
チームのパフォーマンスを改善し、
より安全なケアを提供する組織文化を創るために
必要な要素のひとつとして、
「相互理解」が挙げられています。

つまり、チームメンバー同士が、
価値観、宗教観、労働観などの背景を理解し合うことで、
チームのパフォーマンス向上と、
ミスを起こさない組織づくりに貢献できることを示唆しています。

では、価値観の違いを知り、
互いの価値観を理解し合うにはどうすればいいでしょうか。

それは、日頃からコミュニケーションの中で
行動の背景にある「意図」を探る習慣をつけることなのではないでしょうか。

「なぜその行動をとったか」
「何を意図していたか」
「何に意識しながらその作業をしたか」

対話を絶えず交わすことで、
相手の価値観を知ることだけでなく、
意識できなかった自分自身の見方や考え方、
緊急時の行動を生み出す判断基準が見つかる可能性もあるのです。

さらに、こうした「相互理解」が、どのような効果を与えるかを
伺い知ることができるデータもあります。

ある病院の職員を対象とした調査では、
「上司は自分が大切にしている価値を理解してくれている」
と部下が感じている部署は、医療安全指数が高い、
つまり、ミスやミスにつながりかねないケースが少ない
という結果が出たのです。

この結果から見ても
リスク管理のベースには、より高いチーム力が求められ、
そして、そのチーム力を高めるには、
「相手の大切にしている価値を知る」という
深い「相互理解」が有効なのではないでしょうか。

これは、厳しいリスク管理が求められる医療の現場はもちろん、
さまざまなリスクと向き合う、その他の組織においても
同様のことが言えると思います。

みなさんは、
上司・同僚・部下の皆さんが「大切にしている価値」について
日頃、どのくらい対話しているでしょうか。

【脚注・参考資料】

※1 Kohn LT, Corrigan JM, Donaldson MS, editors.
   To Err Is Human: Building a Safer Health System.
   Washington, DC: National Academy Press; 1999.

※2 International Nuclear Safety Advisory Group:
   Safety Culture, Safety Series No. 75-INSAG-4. Vienna: IAEA, 1991.

※3 Roberts KH. Some characteristics of one type of high reliability organization.
   Organization Sci 1990

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