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対話の場をどう使うか
コピーしました コピーに失敗しました企業経営者とお話しをする中で、「組織変革には『対話』が必要」という言葉を耳にする機会が増えてきた実感があります。
しかも、「対話は重要」、「対話が足りない」など、対話の必要性についての議論が多いようです。
そこで、なぜ対話が必要なのかをお聞きするようにしています。
多くの方のお答えが、「そもそも今、組織内にコミュニケーションが足りないので、とにかく話してもらうところから始めたいんです。まずは、何でもいいから対話さえしてくれれば、と思っています」
本当に、対話があれば、それでいいのでしょうか。
もちろん、これまでコミュニケーションが希薄だった組織に、「対話する場」ができるわけですから、その影響は何かしら生まれるだろうと思います。
ただ、コーチング研究所が 、上司289人とその部下1,968人を対象に行った調査(※1)で、「コミュニケーションのスキルが低い」上司145人を「部下と週に10分以上まとまって話す時間を設けている」上司と、「そうではない」上司の2つに分けて「組織活性度」を比較したところ、「ほとんど変わらない」という結果になりました。
つまり、ただ単に、コミュニケーション量や機会を増やせば組織活性化につながるのかというと、そうでもないようです。
そこで、私は、「対話の場をどう使うか」によって、その場がもっと大きなことを成し遂げる強力なツールになりうる可能性を持っていると思うのです。
ここである事例をご紹介します。社員の意識改革にむけて「対話」を採用された、従業員数約1,000名の精密機械メーカーの事例です。
組織内のいたるところで対話が行われる仕組みをつくり、全社員の「顧客志向」の意識を高めようという取り組みです。
具体的には、1,000名の中から1年目と2年目に各60名の「対話の担い手」を選出し、その120名が自分の選んだ5名の「対話の相手」と3週間に一度対話をする、という設計です。
3年目の現在も、50名の「対話の担い手」を選出中ですが、3年間で1,000名全員が、「対話の担い手」か「対話の相手」のいずれかになることを意図しました。
プロジェクトの開始から、2年経ったところで全社員の意識調査を行ったところ、面白い結果が見えてきました。
プロジェクトのオーナーである社長が、特に期待している項目として選んだ3問について、1年間の意識の変化は下記のとおりです。(「7:とてもよくあてはまる」から「1:全くあてはまらない」の7段階の選択肢から回答)
1. 私は、顧客満足を高めるために、自分に何ができるかを常に考えている
対話の担い手:+0.4
対話の相手:+0.1
プロジェクト未参加者:+0.1
2. 私は、顧客満足を高めるために、部門を越えてコミュニケーションをとっている
対話の担い手:+0.2
対話の相手:+0.3
プロジェクト未参加者:0.0
3. 私は、顧客満足を高めるために、周囲の人を巻き込みながら仕事をしている
対話の担い手:+0.3
対話の相手:+0.4
プロジェクト未参加者:0.0
この結果を見る限り、対話を定期的に行った「対話の担い手」120名と「対話の相手」600名には、意図した意識変化と行動変容が見られました。
では、この違いを生み出した要因は何だったのでしょうか?
『ダイアローグ対話する組織』(※2)という本には、「対話」の定義がこのように書かれています。
1. 共有可能なゆるやかなテーマのもとで
2. 聞き手と話し手で担われる
3. 創造的なコミュニケーション行為
です。
中でも、私は特に「1.」がとても重要だと思っています。
ここでは、「テーマ」をあえて、「問い」という言葉に置き換えますが、対話をする2人が、どのような「問い」を共有するかで、「対話の場」から得られる結果は異なると思うのです。
例えば、「顧客に喜んでもらうために、何ができるだろうか?」という問いを共有している組と、「顧客からのクレームがないようにするために、何ができるだろうか?」という問いを共有している組では、対話後の行動にどのような違いが生まれるでしょうか?
ちなみに、先の精密機械メーカーが共有した問いは、「"本当に"お客さまに提供したい価値は何か?」「その実現のために、誰と一緒に仕事をすると良いか?」の2つ。
これは、社長が自ら、エグゼクティブ・コーチングを受けながら作り、「対話の担い手」と「対話の相手」で構築した対話のインフラを通じて浸透させた結果、上記のような結果につながりました。
対話が生まれる「場」を組織内に作り、そこに「共有する問い」をおいて、組織全体に一つの方向性を持ち込むことで意識改革に取り組んだのです。
あなたが「対話」の中で「共有したい問い」は何ですか?
【参考資料】
※1 コーチング研究所調査「時間をとることと組織活性度の関係」
調査期間:2012年11月~2013年6月
調査対象:66社、上司 289人の部下1,968人の回答
調査年月:2013年7月
※2 『ダイアローグ対話する組織』(ダイヤモンド社)
中原淳、長岡健著
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