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トランジションとコーチング

トランジションとコーチング
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米国のエグゼクティブ・コーチング・ファーム、CoachSource社が2012年に実施した調査があります。(※1)

そのレポートによると、調査に参加した企業の97%が、自社の「リーダー開発」 のために「コーチング」 を活用しています。

さらに、そのうち42%の企業は、「コーチング」を「エグゼクティブのトランジション」=「職位や役割の移行」のために活用しているとしています。

また、新しくCEOに就任した5人に2人が、就任後18ヶ月以内に失敗に終わっているというデータもあります。(※2)そして、その原因は、能力・適性・経験に問題があったわけでありません。その原因の多くは、今の時代に合わなくなったリーダーシップスタイルをとり続けてしまったことにあるといいます。つまり、スムーズな「トランジション」に失敗したことから起こったものと言えます。

「トランジション」に関する著作があるウィリアム・ブリッジスは、「多くの人が、スタートのことばかりに意識が向き、一体何を終わらせるかへの意識が乏しい」と説きます。

その結果、過去に成功した自身のやり方やパターンに拘泥し、「現実」に適応できない結果に陥ってしまっているのです。

世界全体が「トランジション」を迎えている今、企業のかじ取り役であるエグゼクティブが、その「トランジション」をスムーズ、かつ成功のうちに通過できることが、今や企業の存続にとっても重要な課題と言えます。

では、エグゼクティブは、いかにしたらこの「トランジション」を成功に導けるのでしょうか。

それは、「何を終わらせ、何をスタートさせるか」、その「問いかけ」に真摯に応えていくことだと私は思います。

以前コーチングさせていただいたA社長は、大きな「トランジション」の最中にいました。

コーチングを開始したのは、Aさんが持ち前の強いリーダーシップのもと、ある企業を買収した直後。

Aさんは、新たな役員たちと早期に信頼基盤をつくり、会社を融合させ、事業の拡大を図るために、自分の権限を部下である役員たちに移譲し、彼らの力を引き出すことが大切だと考えていました。

しかしながら、実際には、買収前にA社長が描いたようには物事が進まない、そんな中で困難を感じていました。

私は、コーチング開始と同時に、Aさんの関係者である周囲の方々に、インタビューや360度アンケートをとり、そのリーダーシップや現在の組織状態について棚卸ししました。

結果は、
「社長に新しいアイディアを伝えても無関心だ」
「すぐに口を挟んでくるので、信頼されていないような気になる」
「私たちの意見を求めることがほとんどない」
といったフィードバックが多く出てきました。

そうしたフィードバックを前にAさんは、「自分では、もっと、部下に任せたいと思っているんだ」と興奮気味に感想を述べます。

そこで、
「周りのみなさんに意見を求めないことでA社長が手にいれているものは何でしょうか?」
「部下のやり方に口をはさむことで、A社長は自分自身をどう思いたいのでしょうか?」
「新しいアィデアを聞かないことのメリットは?」
など、Aさんご自身が、普段、考えていないであろう問いかけをしていきます。

すると、何度目かのセッションで、Aさんから本音とも思える一言が出てきました。

「自分は、いつも、誰よりも優秀な問題解決者でありたいと思っている」

自分の想いを何度も言語化することで、Aさんの中ではじめて、「いま、何を終わらせるのか」が明確になったようです。

Aさんが終わらせるのは、「優秀な問題解決者ではある」が、「いつも、誰よりもとは限らないこと」。

そして、スタートするのは「部下を信頼し、組織の能力を引き出すこと」

それが明確になり、Aさんは意識的に役員の意見を取り上げるようになり、権限委譲をしていきました。

そして、Aさん自身も、「社長としての次のステージ」である事業拡大に集中できるようになったのです。

トランジションの最中、エグゼクティブは、意識して「何を終わらせ、何を始めるか?」 を自身に問い続けることが大切です。


【参考資料】

(※1) Frank Kalman,2014
"Special Report: Executive Education
The Rise of Executive Coaching,MediaTec Publishing Inc.

(※2)Ray Williams, 2012
"Why Every CEO Needs a Coach."
Wired for Success

William Bridges,
"Transitions:Making Sense of Life's Changes"

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