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リーダーを想像体験する

リーダーを想像体験する
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ポジションが変わり、役割が変化した時、新任リーダーは、数多くのチャレンジに直面します。

ある調査では、こうした職務の移行(トランジション)は、「マネージャーのプロフェッショナル人生の中で最もチャレンジングな時」であり、「トランジション期の成否が、その後すべての成否に関係してくる」と指摘しています。(※)

こうしたトランジションにおいては、新任のリーダーが"breakeven point"(採算)に達するまでに、平均で約6.2カ月かかるという調査結果もあります(※)。

もし、こうしたトランジションの期間を「短縮」することができれば、リーダー個人、そして組織にも大きな価値となるでしょう。

では、トランジションに成功し、いち早くトップパフォーマンスに達する人は、何が違うのでしょうか?


先日、大手・機械メーカーで、「トランジションに成功するのは、こういう人なのだろう」そう思わせる人に出会いました。

あるクライアントのリーダーシップについて、部下の方数名にインタビューした時のことです。

「上司のリーダーシップ」については、誰もが戸惑うことなく、考えを表現してくれました。

しかし、「このリーダーの成功に向けて、あなたが貢献できることは何か?」と質問すると、流暢だった皆の口調が、一気に淀み始めたのです。

「それは、新しい視点ですね。考えたことがありませんでした...」
「私は部下ですので。上司への貢献と言われても...」

曖昧な回答が多い中、ただひとり、明確な回答をした人がいました。

「大事なのは、組織の成功です。組織の成功は、上司であるリーダーの成功。リーダーの成功とは、直属のわれわれが成果を上げることでしょう」

迷いのない口調、シンプルな言葉で、さらに続けました。

「自分たちが成果を上げる、それは最低ラインの話。われわれが、上司の課題感を想像して、先読みして、組織のために提案すること、それが、上司への本当の貢献でしょう」

上司の立場を「想像体験」し、先回りして付加価値のある提案をする。

言われてみれば、もっともです。しかし、なかなかそう思えるものでもない。私は、彼がどうしてそう考え始めたのか気になり、聞きました。

彼は、駆け出しの頃、社長秘書のキャリアを経験したそうです。

ある時、先輩社員から「社長秘書って何をすることか分かってる?」と問われ、目の前に列挙された作業項目を答え始めたところ、先輩は苦笑し、話を遮られたとのこと。

そして、一言、
「いいか、社長をハイ・パフォーマンスにすること、それだけを考えろ」
そう指摘されたそうです。

それからというもの、社長のハイ・パフォーマンスとは何か、それを引き出すために自分は何をしたらいいのか、その問いが未解決のまま、頭に残り続けたとのこと。

以来、社長の動きや考えを観察・把握し、社長や組織にこれから起こるだろうことをシミュレーションし続けたそうです。翻って、そのプロセスが、彼の成長機会になった、と。

部下でありながら、上司の世界を生きる。来るリアルな体験に先立ち、豊富な「想像体験」を経る。

この過程こそが、自らが「トランジション」に直面した時のパフォーマンスに少なからず影響を与えるのではないでしょうか。


この話を聞いたとき、巨人入団直後から類まれな才能を発揮した、長嶋茂雄氏のエピソードを思い出しました。

六大学野球で活躍した長嶋氏。大学時代に頻繁に訪れた神宮球場でのプロの試合で、打球がサードに向かう度に、三塁手の守備をじっくり眺めながら、「自分なら、もっとこうするのだが...」と想像体験を繰り返し、イメージの中で「自分の理想の守備スタイル」を構築し続けたそうです。

プロ入団時には、既に守備のイメージが完成しており、想像体験をリアルなパフォーマンスに表現することに、そう多くの時間はかからなかったとのこと。

リアルな体験に先立つ想像体験。

それは、トランジションの「Day 1」を変えるのではないでしょうか。

トランジションを控えたリーダー候補たち、彼らがいち早く変化に適応できるために、「上司のハイ・パフォーマンスを引き出すために、今、何ができるのか?」を問うてみる。

この質問から始まる彼・彼女の想像体験とその蓄積は、トランジションに向き合ったとき、"breakeven point"(採算)に達するまでの期間を、大きく短縮させるトリガーになるかもしれません。


【参考資料】
Michael Watkins and Doug Soo Hoo,
"Beyond Sink or Swim:The Case for Accelerating Leadership Transitions",
Genesis Advisers

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

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