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コミュニケーションの価値
コピーしました コピーに失敗しましたコミュニケーションにはどのくらいの価値があるのでしょうか?
ある経営者と、コーチングについて話をしました。その経営者は、コーチングに興味はあるものの、今一つ理解できていない状態。
私は、次のように説明しました。
コーチングで組織に起こる変化を一言でいうと、「上司が部下の話を聞くようになる」つまり、上司が部下に話させるようになること。
話させることが部下のモチベーションを高め、自発的な行動量を増やす、それが大切な要素の一つであること。
そして、次の二つの研究事例を紹介しました。
まず、「人は他人の話を聞くより、自分のことを話したがる」という研究結果です。(※1)
fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使ったハーバード大学の研究によると、人は自分のことを話しているとき、触れ合い、薬物、食事などの刺激で快感を感じるときと同じ脳の部位が活性化していることが分かった、というものです。
もうひとつは、話を聞いてもらえなかったり、無視されたときの人の感情は、仕事で裏切られたり、正当に評価されなかったときのそれと似ている、また、人が孤立を感じる時、脳内では、殴打によって肉体的な痛みを認識する神経領域とほぼ同じ個所に同様の神経衝撃が起こることが判明した、という研究です。(※2)
これらを聞いた経営者の反応は、 「桜井さん、確かにおもしろい話だけど、話を聞いた方がいいっていうのも、上司が部下の話を聞くというのも、あたりまえのことじゃないの?」 というものでした。
そこで私は、改善活動にコーチングを導入して3ヵ月ほどであるラインの不良率を0.6%から0.3%に引き下げることに成功した、工場の事例を話しました。
そこで起こった改善とは、次のようなものでした。
・不具合が起こるラインの特定箇所の形状を変えた
・会社からコピー配布されていた生産計画表をやめ、自分たちで3週間分の生産計画表を作成し張り出した
・ライン稼働時の巡回回数を増やした
・工具の使用頻度を調べて、頻度順に置き場所を決めた
・製造課の有志が集まり、自主的に製造ラインのチェックリストを作成した
これらの改善は、コーチングによって毎週1回30分間、上司が部下の話を聞く、という取り組みの中から生まれたものでした。
この事例を聞いた経営者の反応は、
「不良率を下げたのは立派だけど、やってることは改善活動としては当たり前のこと。気の利いたマネージャーがいればもっと早くやれたはず」
確かに、そうかもしれません。
しかし、コーチングを実行する以前はこの改善が起こらなかった。それも、事実なのです。
コミュニケーションに関しては、多くの人が抱いている誤解があります。
・コミュニケーションは空気のようなもの、できて当たり前であり、あえてお金をかけるものではない
・そもそも、自分のコミュニケーションに問題はない、自分はできている、と思っている
・コミュニケーションよりも、「技術」や「知識」の方が大切
・組織では、テクノロジーや整備などのハード面に比べ、コミュニケーションはソフトな問題であり、優先順位が低い
・コミュニケーションは個人の問題であり、組織の問題ではない
・コミュニケーションと生産性に直接の関係はない
・コミュニケーションの重視は組織のスピードを遅くする
・コミュニケーションは、時に組織を混乱させる原因となる
・コミュニケーションはコストであり浪費につながる
・コミュニケーションは測れない、測れないものに投資はできない。
・コミュニケーションにお金をかけるなら、その分を設備に投資した方がよい
相手に話させ、話を聞くという、一見すると当たり前のコミュニケーション。そして、そこから生まれる、微細な変化。
コミュニケーションという、目には見えないが、確かに私たちの「間」にあり、私たちに影響を与えているものに対して、どのくらい価値を置くか、ということが問われているのだと思います。
社員の能力を短期間で向上させることは、簡単なことではありません。
特に、マネジメント力、コーチング力などの向上は一朝一夕に進むものではないでしょう。
だからこそ、企業において人材価値を向上させる取組みは、トップがそのことに価値を置き、強い意思とコミットメントをもって、組織的・継続的に実施することが重要なのです。
コミュニケーションに価値を見出し、投資する。
それが、人と組織を動かすことに繋がるのだと思うのです。
【参考資料】
※1
Adrian F. Ward
The Neuroscience of Everybody's Favorite Topic
2013 Scientific American
※2
David Rock,"Managing with the Brain in Mind"
2009 Booz & Company Inc.
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