Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
イノベーションを生み出し続ける組織のリーダーとは
2015年11月04日
日本は、創業100年超の「長寿企業」が多い国だと言われています。
その理由はさまざまあると思いますが、企業が存続する、すなわち、より良い価値を提供し続けるには、事業や組織を継続的に成長させる「イノベーションを起こす環境」が不可欠です。
では、そうした組織をつくるために、組織のトップリーダーである社長は何をすることができるのでしょうか?
ある企業の社長Aさんは、創業以来、持ち前の強いリーダーシップを発揮し、組織を成長、牽引してきました。自身の革新的なアイディアで事業を開発し、マーケットを開拓。業界トップレベルの地位を確立しました。
しかし、事業環境が大きく変化するなか、ビジネスモデルの転換、新事業の創造、新たな差別化など、事業を変革していくことが重要なテーマとなっていました。
「今の組織に、イノベーションを起こせる力はあるのか?」
エグゼクティブ・コーチングのスタート時、Aさんがお話しされた組織の状態は次のようなものでした。
・事業の変革に何が必要なのか、どの資源が活用できるかなどについて、社員たちが考えていない。
・部署を越えたコミュニケーションが少なく、協力体制が築かれていない。
・現場の若い社員が受身である。
・上司が、部下を成長させる関わりをしていない。
・各事業の部門長は、管掌の事業・組織のみに意識を集中し、全社視点での議論や取り組みが起きていない。
これまで、この会社の成長を支えてきたのは、Aさんの革新的なアイディア、強いリーダーシップ、そして、それらを早いスピードで確実に形にする優秀な社員たちでした。
しかし、その環境に慣れきってしまった社員たちは、自分で考えないどころか、失敗を恐れて保守的になっており、将来の生き残りに必要なイノベーションにつながる新しい事業の創出やアイディアの提案も期待できない。それが、Aさんの最大の懸念事項でした。
組織の状態を懸念すると同時に、Aさんは「はたして、自分も今のままでいいのか?」ということを自問していました。あらゆることを自分で考え決断し、組織を引っ張っていく自身の「リーダーシップ・スタイル」に限界を感じ始めていたのです。
そんなAさんに、私はさまざまなデータをお見せしました。その中で、Aさんの目にとまったのが、「組織活性度には、社長の『事業の専門知識』よりも『役員への関わり』の方が強く影響する」ことを示す、次のデータでした。(※1)
Aさんのこれまでの「リーダーシップ・スタイル」の特徴は、自身の専門知識と過去の成功経験を武器に、自分一人で決めたことを指示するスタイルでした。
「自分の"役員への関わり方"を変えることが、突破口になるかもしれない」
このデータを見ながら、Aさんはそう感じたそうです。
Aさんの「新しいリーダーシップ・スタイルの開発」への挑戦が始まりました。直属の部下であり、組織の変化の要でもある各事業部門長たちとの「関わり」を変える決意をしたのです。
Aさんは次のことに着手しました。
・各事業部門長と「1対1」で定期的に対話する時間を確保する。
・それぞれの事業部門長の強みや得意分野を活かしながら、事業変革の実行に必要なリーダーシップを高める関わりをする。
・会議などの場では、部下の育成や部門間の連携の重要性について自分の考えを伝えるだけでなく、事業部門長にも考えさせ発言させる。
・イノベーションを起こすために、会社全体で取り組む内容を事業部門長たちに共同で考えさせ、具体的なプランを提案させる。
こうしたプロセスを経て、事業部門長たちの意識に少しずつ変化が見られるようになり、
「自分で考え、提案する」
「経営者視点で会社全体の事業変革について考える」
「部門を越えてお互いに協力し合う」
「自分の部下を成長させるために関わる」
といった行動が生まれるようになりました。
現在は、事業部門長一人ひとりにもエグゼクティブコーチがつき、事業の変革に向けた組織全体の取り組みを加速させています。
長期間経営をされている創業社長やオーナー社長の方々へのエグゼクティブ・コーチングを通じて言えることは、「長きにわたり高いパフォーマンスを出し続けている社長は、自身のリーダーシップを"変え続けている"」ということです。
『超訳 君主論』では、マキャベリは、「トップリーダーがリーダーシップ・スタイルを変化させる」ことの本質について次のように述べている、としています。(※2)
「何事にも慎重な態度で臨む君主は、そのスタイルに合った時代を生きていれば成功するはずだ。しかし、時代状況がそのスタイルと合わなければ、彼は自分の行動方式を変えなければ失敗してしまう。(中略)先天的な気質もあって変えられないのかもしれないし、そのやり方で、ずっと成功してきたから今更変えられないのかもしれない。しかし、もし時代状況が要求する通り、自分の気質を変化させることができれば、その人は常に成功し続けるだろう。結論として、運命が一つに決まっているから失敗を防げないのではなく、運命の変化に人間が付いて来られないから失敗するのである」と。
イノベーションを生み出し続ける組織力をつくるために、あなたは、自身のリーダーシップ・スタイルをどのように変化させていきますか?
【参考資料】
※1 「社長の『事業の専門知識』と『役員への関わり』別にみた組織活性度」、コーチング研究所調査、2015年
※2 『超訳 君主論 ーマキャベリに学ぶ帝王学ー』(彩図社)許成準(著)
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。