Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
真のリーダーは、フォロワーを創らない
2015年11月11日
「真のリーダーは、フォロワーを創らない。もっと多くのリーダーを創る」という言葉がありますが、デューク大学ビジネススクールの学長Bill Boulding氏は、「リーダーシップ」のあり方が変わりつつあることについて、ワシントン・ポスト紙でのインタビューで次のように話しています。
「伝統的なリーダーシップ・モデルは、『その部屋で、一番頭のいい人間を見つけること』、そして『その人に、みんなに対して、何をすべきかを言ってもらうこと』」 でした。
けれど、それはもはや、世界が求める『イノベーションを生み出す類のリーダーシップ』ではありません。
今日、成功するタイプのリーダーとは、人々を集め、結びつけ、連携(コラボレーション)を通じて、素晴らしいことを起こせる人、です。そして、『連携(コラボレーション)』の鍵は、『違う種類の人々や、違う考え方を集めて結びつける』能力があるかどうかにかかっています」と。(Cunningham, 2015)
オックスフォード・エコノミクスが実施したグローバル人材調査では、タレント人材に必要なトップ・スキルとして挙げられたのは、「共同で創造する(co-create)」ことと「ブレインストーミング」の能力でした。(Moore and Rybeck, 2015)
一方で、企業の職場の実態について、スタンフォード大学ビジネススクールの Pfeffer 教授は、新著『Leadership BS』(2015)の中で気になる調査結果を紹介しています。
・ライトマネジメント社が、2012年にカナダとアメリカで実施した「仕事への満足度」調査では、「自分の仕事に満足している」と回答したのは19%にすぎず、3分の2が「職場に満足していない」と答えた。
・マーサーが、世界中の3万人の会社員にサーベイを実施したところ、28〜56%の会社員が「会社を辞めたい」と考えていることがわかった。
・2012年のギャラップの調査報告書では、「会社に愛着心があり、刺激を受けている」というアメリカの会社員は、たったの30%だった。しかも、20%は、「積極的に関わらないように(actively disengaged)」しており、「会社の廊下で自分の不満を触れ回り、会社をひそかに傷つけようとしている」と回答していたという。
・さらに、ギャラップが142ヶ国で実施した調査では、「会社に愛着心がある(engaged)」のは13%のみで、24%は、「積極的に関わらないように」していた。(Pfeffer, 2015)
これらのデータを見る限り、企業組織に人々が集まり、結びつき、連携し合うことが、現実には、あまりうまくいっているわけではないことが伺えます。
世界中で起こっているさまざまな不祥事は、エグゼクティブ同士の不仲が要因であることも少なくありません。
英エコノミスト誌は、Gillian Tett氏の新著『サイロ効果』の書評で、「なぜ、組織は失敗するのか?」について次のように書いています。
「大抵の場合、会社は成長するにしたがい、元々その会社の成功をつくってきた『イノベーティブな性質』を失ってしまうことが原因だ。『個人』と同じように、『組織』も、『自分らしさ』に『いきづまる(抜け出せなくなる)』ことがある」
「人間には、『カテゴライズ』したり、『細分化』したりする傾向がある。それは、たしかに『効率性』を高める。しかし、皆、次のことを忘れがちだ。自分たちが創り出した『区切り/境界』は、『人工のもの(artificial)』であることを。そして、それゆえに、それを「取り壊す」ことが、 難しくなることもある」と。(Economist, 2015)
つまり、自分(または、自分たち)創り出した境界に閉じ込められるのです。
私たちは、欧米社会から個人主義的な思想を引き継いできたところがありますが、「私」という単位(ユニット)に強くこだわるがあまり、人が、人と人との「間(あいだ)」に存在している、という意識(認識)を失うと、どこかでうまく生きていくことが難しくなるように思います。
ミシガン大学ビジネススクールが、21世紀のリーダーシップの前提として、次のことを挙げていました。
「リーダーが、人々『に対して』何かをすること、ではなく、むしろ、人々『の間で』働くこと」
そして、
「『リーダーシップ』の基本的な状態とは、私たちの誰もが、いつでもリーダーであることを『選び』、リーダーとして『行動する』ことができること」だと。(DeRue, et al., 2013)
そうならば、冒頭の言葉のように、「自分のフォロワー」を増やすことは、もはや組織にとって、価値のあるものとはいえないようです。
それよりも、ひとりでも多くのリーダーを創ること、そして、それらのリーダーとの「共創」によってイノベーションを起こしていくことなのかもしれません。
【参考文献】
Cunningham, L., 2015, How to make a good business leader, The Washington Post
DeRue, D.S. et al., 2013, Developing Adaptive Leaders for Turbulant Times:
The Michigan Model of Leadership, The European Business Review
Economist, 2015, Blighting the horizon, The Economist, Aug 29th 2015
Moore, A. and Rybeck, J., 2015, Coaching for the 21st Century, Korn Ferry feffer, J., 2015, L
Truth at a Time, Jeffrey Pfeffer
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