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攻めのガバナンスとエグゼグティブ・コーチング
コピーしました コピーに失敗しました今年の6月より、「コーポレートガバナンス・コード」が施行されました。
このコードが異例のスピードでまとめ上げられた背景の一つに、 日本企業の経営効率の低さがあると言われています。
日本企業のROEは、総体として欧米に比べて何年も見劣りしており(※1)「ガバナンスの強化」によって、投下した資本に対する収益性を高めること、日本経済の活性化につながると、時の政権は読んでいるようです。
「ガバナンス」というと、不正をチェックするという意味合いで語られることが多く、コンプライアンス(法令順守)とほぼ同義で理解されている方も少なからずいるようです。そのように捉えている方にとっては、「なぜガバナンスが収益性を高めるのか?」と思うかもしれません。「独立社外取締役を2名以上選出する」という点も、企業が法令順守できているかをチェックするためのもの、と認識されている向きがあります。
しかし、ガバナンスにはそもそも2つの側面があり、それが、「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」です。
ガバナンスはラテン語の「Gubernare」を語源とし、元々の意味は、船を操舵することです。操舵というのは、ただ舵を取って船を前に進めるのではなく、船の構造や性質、乗組員の状態、積んでいる荷物が何か、そうした全てに意識を配り、気象を読み、海図を読み取り、安全に航行し、目的地まで到着することを意味しています。
これを企業経営に置き換えれば、会社のリソースである人、物、金、情報を、めまぐるしく変化する環境の中で、どこにどう投下していくのかという戦略を打ち立て、ビジョンの実現に向かって走るということになります。
つまり、ガバナンスの語源を辿れば、会社の発展のために現状を明らかにし、戦略を打ち立て、ビジョンの実現を近づけること、すなわち、「持続的な成長と中長期的な企業価値向上」にむけた活動がまさにガバナンスを強化するということになります。
これがいわゆる「攻めのガバナンス」で、社内の取締役だけでなく、外部の眼も入れ、より環境変化に対応できる戦略を打ち立てることを意味するわけです。
一方、「守りのガバナンス」は、会社として法令違反や理念に反した振舞いがないようにチェック機能を働かすことで、ガバナンスの一側面でしかありません。
先日、「スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」のメンバーである田中正明氏から、日本企業は「戦略についてのディスカッションが少ない」という見方が強い、というお話を伺いました。
田中氏によると、多くの日本企業の取締役会では、目の前の業績をどうするか、どういう施策を打つかという議論が多く、中長期の大局的な戦略に割く時間が少ない、とのことです。
しかし、コーポレートガバナンス・コードに基づいた最低2名の社外取締役を含めた取締役会が、「企業価値を向上させる」という目的を共有し、チームとして「攻めのガバナンス」を意識して動き始める企業もあります。
私がエグゼグティブ・コーチングをさせていただいている、ある大手小売業の常務も、コーチングをスタートした今年初めは、
「業績が上向かないこともあって、経営会議で話すのは、数字合わせの話ばかり。本来は中期的な戦略を話すべきだと思うのですが、計画の実現が最優先されて、議論がそこに及びません」
と疲れた声でおっしゃっていました。
日本人の気質もあるかもしれません。立てた計画をとにかくきっちりやろうとする。ステークホルダーに対する対面を保とうとする。が故に、一歩離れて、会社を俯瞰し、環境変化をにらみ、戦略についてなかなかディスカッションできない。
この常務には、1年かけてセッションの度に質問をさせていただきました。
「環境変化に対応する戦略はなんですか?」
「何を止めて、何を始めますか?」
「戦略構築のために誰と話しますか?」
近々、常務の発案で、この会社のボードメンバー4人のミーティングに同席させていただくことになりました。
「外部の人から問われることの重要性を感じたので、他の取締役にもそれを体感して欲しい」と。
「攻めのガバナンス」が動き始めたようです。
【参考文献】
※吉田信之「日本企業にROE経営を定着させるために」(大和総研)
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