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ビジョンは『イメージベーストの言葉』で伝える
2015年12月16日
ビジョンを伝える時、皆さんはどのような工夫をされているでしょうか。
大企業のCEOは言うまでもなく、大小を問わず、何らかの組織の長になると、ビジョンをメンバーに伝えなくてはならない場面があります。
ビジョンの定義はさまざまありますが、ここでは、短期間のゴールも10年後の理想像も、「手に入れたい将来像」はすべて「ビジョン」とします。
伝えたいビジョンがちゃんと伝わったかどうかは、その後の組織の動きに大きく影響します。そのため、ビジョンは、エグゼクティブ・コーチングで必ず扱われるテーマのひとつでもあります。
コーチがビジョンについてクライアントに質問をする時には、五感を刺激するような質問を織り交ぜます。
「その時、あなたはどんな表情をしているのですか?」
「その場所ではどんな音が聞こえますか?」
「ビジョンを実現したら、モノの見え方はどのように変化すると思いますか?」
こうした質問を投げかける理由は、クライアントの行動を促進するためです。人は、具体的なイメージが描かれることではじめて、ビジョンに向けた行動を開始するからです。
たとえば、卑近な例ですが、「あの人と食事に行きたい」と思っているだけではそのビジョンは実現しません。どこに行くのか、いつ行くのか、どのようにして誘うのか、その時間でどのような会話をしたいのか...。
具体的なイメージがあってはじめて、「あの人と食事に行く」というビジョンは実現に近づいていくのです。
実はもう1つ、コーチがビジョンに対して五感を刺激するような質問をする大きな理由があります。
それは、クライアントの中で具体的なイメージが生き生きと描かれることで、その人のビジョンが「周囲にも伝わりやすくなる」から、なのです。
ここに興味深い研究があります。
パデュー大学のシンシア・エンリッヒとバトラー大学のホリー・ブラウアーらによるものです。(※)
エンリッヒらは、歴代のアメリカ大統領40人分の就任演説や、就任後に評価の高かった演説を詳細に分析しました。
大統領が使っている「言葉」に注目し、「イメージベーストの言葉(image-based words)」と「コンセプトベーストの言葉(concept-based words)」の2種類に分け、演説の中で登場する数を数えたのです。
「イメージベーストの言葉」とは、「手を差し伸べる」「汗をかく」「耳を貸す」のように、五感を刺激し、具体的な映像が頭に浮かびやすい言葉です。
一方、「コンセプトベーストの言葉」とは「要求する」「努力する」「理解する」「考える」など、概念を伝える言葉です。
分析の結果、歴史的に高い評価を得ている大統領ほど、演説において「イメージベーストの言葉」を多く使う傾向があるということが分かりました。
「イメージベーストの言葉」を使うと五感が直接刺激されるので、「コンセプトベーストの言葉」を使う場合よりも具体的な映像や音、匂いなどを頭の中で想像しやすくなります。それによって、話が「伝わりやすくなる」のだと考えられます。
この結果から、エンリッヒらは「イメージベーストの言葉」を使うことがビジョン浸透につながると考えられる、としています。
そこで、「じゃあ、これからは、自分もイメージベーストの言葉を使ってビジョンを伝えよう」と考えるのは早計かもしれません。
観たことのない映画を生き生きとした表現で伝えようとしても無理があるのと同じで、自分の中にイメージがないものに「イメージベーストの言葉」を当てはめるのは難しいからです。
リーダーにとって、ビジョンを伝えることはとても重要なことです。
だからこそ、組織に自分のビジョンが伝わらない時には「どうして、何度言っても伝わらないんだ」と焦ることもあるのです。
しかし、うまく「伝わらない」のは、もしかすると自分の頭の中でも、ビジョンがまだ具体的なイメージになっていないからかもしれません。
イメージベーストの言葉は、自分自身の中で、ビジョンを五感で表現できるほど具体的で生き生きと描けるようになってはじめて、自然と出てくるようになるのです。
ビジョンを伝えようとする時に最も大切なことは、 まずは自分の頭の中に、ビジョンが実現した時の喜びに満ち溢れたイメージを何度も何度も描くことなのです。
【参考文献】
※Images in Words: Presidential Rhetoric, Charisma, and Greatness
Cynthia G. Emrich, Holly H. Brower, Jack M. Feldman and Howard Garland
Administrative Science Quarterly
Vol. 46, No. 3 (Sep., 2001), pp. 527-557
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