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組織の神経系にアプローチする

組織の神経系にアプローチする

2000年前後に、個人の能力開発の新しいコンセプト・手法として日本でも広まったコーチングが、その後の研究と応用による進化を遂げ、今や組織変革の一手法に変容してきました。

私たちのチャレンジも、「個人」をいかに有能にするかという焦点から、個を超えた力を持ち、独自の慣性を持つ「組織」に変化をもたらす鍵は何か、そのために、組織内に張り巡らされた個の「つながり」(=組織の「神経系」)にどう働きかけるか、に焦点が移ってきました。

今号では、ビジネスインパクトを生み出した、あるプロジェクトの実例を通し、組織変革について考える1つのヒントをご提供できればと思います。

伝統ある部品メーカーを変えたのは何か? 

歴史ある部品メーカーA社。その将来を担うある事業部は、強いリーダーの下、野心的ビジョンとストレッチ目標が掲げられていました。しかし、現場では、残業、事故、退職などの「トラブル」が発生し、営業、設計、製造の間のミスコミュニケーションは、ものづくりを逆流させていました。

個別の問題解決を重ねても事態は収まらない、組織のシステム全体に、これまでとは違った新しい動きを作りたい、それが、私たちが意見交換をした事業部トップの切実な願いでした。

「組織全体の変革」に取り組むにあたり、我々と同社トップ層は度重なる意見交換を行い、3つの方針を打ち立てました。

【方針1: 組織の目的・目標を基準にする】
組織の変革は、個々のリーダー開発の総和ではないこと、事業部全体として向かいたい「組織目標」を基準に全体設計する

【方針2: 変革プロジェクトには、組織の目標達成の要となる人物が参画する】
「誰が動くと、組織が動くのか?」の基準でプロジェクトの人選をすること、全体変化の「起点」となる人物を「変化の加速」にむけて投入する

【方針3: 変革が組織展開し、浸透しやすい構造を創る】
起点となる人物から、「変革」が伝播・浸透する構造を創ること、その人物を中心に組織内に網のような「つながり」を構築し、新たな対話の連鎖を起こす

これは、従来の「個人の能力開発型コーチング」を複数人に提供する、という発想ではなく、全体変化の「起点」を創り、そこを中心に「つながり」を再構築し、対話を通じて組織に新たな「神経系」を創り出す、つまり、「組織の能力開発」に向けたコーチングへのチャレンジでもありました。

そして、これらの方針を実効化するために、次の3点を施策として導入しました。

(1) 組織トップがイニシアチブを取る
事業部トップがエグゼクティブコーチをつけ、組織のリードの仕方に変革を起こす

(2) トップの成功を支えるミドル20人を参画させる
各々に一対一のコーチをつけ、「自身の変革」と「変革の浸透」の役割を担うようにする

(3) 「組織の変化」を定期的にリサーチし、フィードバックする
トップとミドル全員で、組織変化の進捗を随時確認する施策を取り入れる

他者の領域に"踏み込む"対話のプラットフォームづくりとは?

トップが、この組織で最も生み出したかったのは、「他者の領域に"踏み込む"対話」でした。 互いの領域を超えること、互いの本質に迫ること、互いに踏み込み合いながら成果につながる連携を生み出すこと。

我々は、互いが踏み込み合い、その結果、組織に変化がもたらされる具体的な「仕掛け」を検討しました。

まず、変化の起点となる20名各人が「踏み込んで」欲しい5名を選定し、100組の「つながり」をセットしました。この「つながり」上に、「踏み込む対話」とそれによる「連携に向けた対話」が起こり続け、業務成果に変化が生まれることを狙いました。

「起点」の20人全員にはコーチがつき、100組のつながりの間で定期的に行われる双方向の対話のためのトレーニングと、その変化の進捗を定量的にモニタリングしました。こうして新たにセットされた100の「つながり」が、後に「全体変化」の神経系となり、組織全体を新たな形で活性化させるプラットフォームとなっていきました。

100の新しい「つながり」を、組織の動きを変える新たな神経系にするという、このコンセプトの前提には、人のつながりという社会的ネットワークに関する興味深い知見の数々が存在しています。

例えば、私たちは、直接つながりのある人に影響を受けやすい傾向があると言われます。実際、勉強熱心なルームメイトと同室の学生は、その人を「真似て」よく勉強するようになるそうです(※1)。そして、最新の社会的ネットワーク研究では、こうした「真似る」という作用は、3次の隔たりまで伝染することが確認されています。

自分が幸福ならば、自分と直接つながっている人、そしてその先の人まで、幸福は伝染するのです(※2)。

その意味では、今回、意図的にセットされた100の「つながり」の間でなされた「対話の経験・実感」は、神経系のその先の人たちにも伝染・模倣される可能性があるわけです。その結果として、組織に起こった現象が下記のものでした。

「つながり」から生まれた組織の変化とは?

まずは、20名のその先の人たちから、下記の様な変化が起こるようになりました。

・自ら関わっていない隣のチームの課題の議論にも参加するようになってきた
・会議が報告型なものから、議題を持ち寄って議論する形になってきた
・他部門との協調、全体業務に、各人が積極的に関わるようになってきた

こうした小さな日常の業務行動の変化から、次第に次のようなビジネス指標の変化も生まれ始めました。

・工程の戻りの減少
・受注精度の向上
・月間残業時間の激減

100の「つながり」で起きた変化が、組織全体の一定規模に達し、「つながり」の全体が新しい知性を備え始めたことによる作用であると考えられました(※3)。

組織の「神経系」にアプローチするポイントとは?

組織全体の変革を生み出すためにコーチングを活用する。今号では、このアイディアを具現化し得るコンセプト・方法論の1つをご紹介しました。

組織変革は、単純に個人へのコーチングを増やすことで実現できるものではなく、組織の「神経系」にアプローチする具体的な方法が必要となると考えます。

その鍵は、トップのリードの下、組織内にいくつもの新たな「つながり」を創り出すこと、その「つながり」=「組織変革の神経系」を、クリティカルマスを超える規模で確保すること。そして、「つながり」の上に、生きた「変革の対話」を注入し続けることではないかと。

その結果、訪れる組織全体の変化は、ある意味、組織文化の変化と言えますが、これこそ、多くのリーダーが手にしたい変化ではないでしょうか。

組織文化は、個々の構成員よりも長寿であり、長期の業績を支える、強力なアセットと考えられるからです。

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【参考資料】
※1 『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』
ニコラス・A・クリスタキス (著)、ジェイムズ・H・ファウラー (著)、鬼澤 忍 (翻訳) p.36

※2 同上 p.70

※3 同上 p.41

研究者達は、社会的にネットワークには創発性があるという言い方をする。創発性とは、部分が相互に作用し合い、つながり合うことによって、全体が獲得する新しい特質のことを言う。

鳥や魚の群れは、中央のコントロールがない中で、全体が目的に向け調和した動きを示す。群れ自体が、こうした一種の集団的知性を備えており、こうした群れの集団的選択は、個々の鳥や魚の選択よりも優れていると言われる。

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