Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


「人を動かす」対話のはじめかた

「人を動かす」対話のはじめかた
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

「対話があれば、互いの価値観がわかり、誤解が解消し、信頼関係が生まれ、一体感ある組織が創れる」

「対話をすれば、アイディアの融合で、新しい価値の創出や問題解決のスピードが上がり、業績目標にインパクトを与えられる」

多くのリーダーは、「対話」が組織にもたらす効果を十分理解し、実践しようとされています。しかし一方で、口にはしないものの、

「現実にはそんなに簡単なことではない」
「何を話せばいいのかわからない」
「どんなふうに話しかければいいのかわからない」

と、二の足を踏まれている印象もあります。

それは、組織の上司と部下の間のことだけでなく、経営トップ層の間でも起きている現象です。相手との感情的な衝突を恐れるあまり、苦手な相手や、自分を苦手としていそうな相手との対話を、意図的あるいは無意識に敬遠しているようなのです。

「相手が納得するように論理的に話す自信がない」
「自分と異なる意見は聞きたくない」
「耳障りな話をされるといやになる」

互いに向き合い、「対話をはじめる」ことは、そう簡単ではない、ということでしょう。

「対話」をスタートさせる心がけとは?

世界20カ国でベストセラーとなった『リーダーシップとニューサイエンス』の著者、マーガレット・J・ウィートリーは、『「対話」がはじまるとき』で次のように言っています。

「対話というのは、変化を生むための土壌づくりとして実践されてきた、もっとも古くてもっとも簡単な方法です。(中略)私たちが何を見、何を感じているかを伝え、相手が何を見て、何を感じているかに耳を傾けるのです」と。

また、ダボス会議のメンバーや内閣官房参与を務め、コーチングにも深い洞察をお持ちの田坂広志氏は、著書『仕事の技法』の中で、仕事力の根幹は「“言葉”のメッセージ」を交わす「“表層”対話力」と、「“言葉以外”のメッセージ」を交わす「“深層”対話力」の二つがあること、そして、「一流のプロフェッショナルは、必ず『深層対話力』を身につけている」と述べています。

「深層対話力」について同氏は、以下のように説明しています。

・相手の無言の声に耳を傾ける力
・相手の沈黙や一瞬の間から心の動きを感じ取る力
・相手の言葉の奥にある感情や心境を感じ取る力
・相手の表情や仕草から心の変化を感じ取る力
・相手の言葉のニュアンスから細やかな思いを感じ取る力
・相手の置かれた状況や立場から、その考えを想像する力

対話をスタートさせるきっかけは、相手から「何かを感じ取る」ところに生まれる、ということでしょうか。

店舗統括者が実践する、スタッフとの「距離の縮め方」

昨年、私はクライアントだったA氏から、コーチングのセッションの中で対話のきっかけをどのように持つかについて学びました。A氏は、約3,000名の社員で7店舗を抱える小売業の店舗統括を担っていました。

お客様は常に、新しいこと、わくわくすること、楽しいことなど、変化を求めて店舗にいらっしゃいます。その変化を生み出すために、A氏は社員一人ひとりと「対話」する時間を持ち、そこからちょっとした工夫やアイディアを引き出そうと考えました。

社員と「対話を生み出す」ためにどんな工夫をしてきたかを聞いてみたところ、自信を持ってこう答えてくれました。

「スタッフの表情を、毎日よく観察するんです。ほんの少しでも、『いつもと違うな』と感じたら、すぐそのスタッフのところに行って、『何かあった?』『浮かない顔しているように見えるけど困ったことはない?』と、さりげなく聞くのです。

こちらから話しかけるのは、いくつになっても勇気がいるものですが、自分が感じたありのままを伝えて、一人ひとりが何を感じているのかを理解しようとすれば、互いの距離は自然と縮まり、結果的に売り場でのちょっとした工夫についても話せるようになるんですよ」

対話をはじめる、シンプルな方法

大きな組織を、リーダーひとりで動かすことなどできません。対話を通じて人を動かすことが必要です。そして、人を動かすことができる人は、勇気をもって“自分から”対話をはじめることの出来る人です。

いつでも、自分から相手に対話をもちかけ、相手が感じていることに真摯に耳を傾ける。A氏の話からは、その大切さを確信することができました。

先にご紹介した『「対話」がはじまるとき』にも、対話をはじめるきっかけが示されています。

「(対話をスタートさせる)もっともシンプルな方法は、自分にとって気がかりな問題を話しはじめることです」

もし、あなたが対話をはじめることに臆病になっているとしたら、その理由は何でしょうか。

手はじめに、自分が見たこと、感じたこと、自分の思いを伝えるとともに、相手の見たこと、感じたこと、相手の思いに耳を傾けることからはじめてみませんか。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
『仕事の技法』(講談社現代新書)
田坂広志

『「対話」がはじまるとき』(英治出版)
マーガレット・J・ウィートリー(著)、浦谷計子(訳)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

上司/部下 信頼関係/関係構築 対話/コミュニケーション

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事