Coach's VIEW

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グローバルリーダーは、「成功」も「失敗」も成長の機会として捉える

グローバルリーダーは、「成功」も「失敗」も成長の機会として捉える
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中国・上海に一時期赴任していました。日本を離れると、日系企業と欧米を中心とする外資系企業の、外地での戦い方の違いに気づくことが多くありました。

例えば、日系企業は、投資も人も始めから大規模に投入することは少なく、比較的「小さく始める」傾向があります。得意な営業方針、商品開発などを武器に、個々の活動での小さな「成功体験」を積み上げ、徐々に拡大する。売上の飛躍的な伸びは期待できなくても、チャレンジして手痛い失敗するリスクは軽減できるアプローチだと言えます。

一方、外資系企業は、採算が見込めゴーサインが出るや、3年間は年間○千万元の投資をするなど、一気呵成に時間と資金を投入し、現地社員を積極的に大量採用し、現地企業との協業に取り組むなど、大きな勝負にでるアプローチが目立ちました。ただし、期間中に目標達成しなければ、あっという間に撤退勧告ということも少なくありませんでした。

小さな「成功」から成長しようとする日系企業、「失敗」も成長の糧とする欧米企業。両者では、「体験」の捉え方が異なるように思われます。

組織の学習に及ぼす「成功」と「失敗」の影響とは?

「成功体験と失敗体験のどちらが組織の学習に必要なのか」を見極めようとした、ある興味深い研究があります。(*1)

この研究では、宇宙軌道衛星ロケットの打ち上げの成功・失敗が題材に取り上げられ、成功の後、失敗の後、どちらが次の成功確率を上げたかを計測していきました。

以下のような結果が明らかになりました。

1.  過去の失敗体験は、過去の成功体験よりも、将来の失敗の可能性を軽減する
2.  過去の成功体験を通したナレッジは、過去の失敗体験から得たナレッジよりも、早く忘れられる
3. 失敗体験が比較的少ない組織では、過去の成功体験は組織的な失敗の可能性を高める

つまり、成功体験は失敗体験より役に立たないどころか、失敗の可能性を高める場合もある、というのです。

私はこの結果から、成功体験が思いのほか将来の成功に活かされないことを意外に感じると共に、人は失敗しないと本気で学ぼうとしないものだ、ということが大きな学びになりました。

人の「成功」「失敗」とコーチング

日々のビジネスの現場では、宇宙軌道衛星ロケットの打ち上げのように、「成功」「失敗」が明確に結論付けられないことも多々あります。ならば、言い方は極端ですが、人の全ての体験の中には、小さな「成功」と「失敗」が大量に潜んでいるという見方もあるのではないでしょうか。

コーチングは、目標達成のプロセスで自分自身に起こる「全ての体験」から、学び続けるための対話のプロセスです。全ての体験の中に「成功と失敗」があり、それらを将来の成功に活かすことを学ぶ。つまり、「学ぶことを学ぶ」ためのプロセスがコーチングといえます。

「体験からの学び」を学ぶプロセスとは?

国際コーチング連盟(ICF)が定める、コーチの「コア・コンピテンシー」があります。(※2) このコア・コンピテンシーにも、明確に「自ら話したことや体験したことから、クライアントが自ら学び成果を得ること」を促すコーチの「あり方」が明文化されています。

コーチは、クライアントが、ビジネスや日常の生活の中で実際に体験したことを通して、「どんなことに気づいたのか」「何を学んだか」「その体験を、今後どのように活かすか」などについて対話を起こします。クライアントが話す自分自身の話、感情、体験、周囲の人との関係性など、全てが学ぶ材料になるのです。

「学ぶことを学ぶ場」の創造

私は今も、中国を含め海外で活躍されるリーダーの方に、コーチさせて頂いています。「クライアントの方々には、失敗してほしくない」というのが本心ですが、たとえ失敗しても、あるいは、どんなに小さい成功体験であっても、将来の成功につなげてほしい。

そのためにも、成功・失敗を問わず、コーチングの期間中に起こる全てのことを通して、「強烈に学習したい」と思える「学ぶことを学ぶ場」としての対話を共に創り出していきたいと思います。

みなさんは、自分の内なる体験を、最大限活用していますか?

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【参考資料】
※1
Peter M. Madsen and Vinit Desai,
Failing to Learn? The Effects of Failure and Success on Organizational Learning in the Global Orbital Launch Vehicle Industry
Academy of Management Journal

※2
国際コーチ連盟(ICF): コーチング業界とコーチの社会的地位を確立することをミッションとして設立された組織

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