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成功するチームに必要なもの

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「完璧なチームはいったい何が違うのか?」についてGoogleが社内調査した結果が2016年2月のThe New York Timesに掲載されました。(※1)

Googleは、どんな取り組みをもデータで検証することで有名です。Googleの人事施策について書かれて話題となった書籍『WORK RULES !』にもその一端が垣間見え、読まれた方も多いのではないでしょうか。

記事を担当したCharles Duhigg記者によると、Googleの取り組みは、180ものチームを分析し、成功しているチームのパターンを調べたもので、以下のような、いく通りの観点から調べても、当初は成功パターンが見つからなかったそうです。

・チームのメンバーが同じ趣味を持っているかどうか
・オフィス外でどれくらい交流しているか
・友達のような仲なのか、ビジネス上の関係なのか

そして、Googleが試行錯誤の末にたどり着いたのは、「心理的な安心感:psychological safety」という概念だったそうです。

さらに、記事ではチームに関するほかの研究にも触れています。その研究とは、Carnegie Mellon大学のAnita Woolleyらが実施した「グループ成果につながる集団的知性を検証する」というもので、この研究結果からは、「良いチームに見られる習性」として、次の2点が紹介されています。

1. チームの一人ひとりがおおよそ「同じくらいの量」の発言をしていること
2. 他人の気持ちを察する社交的な感度(social sensitivity)のチーム平均値が高いこと

記事では、これらの行動は「心理的な安心感」と関連づけて述べられています。

■グーグル流「完璧なチーム」がもつ「心理的な安心感」とは?

「心理的な安心感」はなぜ、チームを成功に導くのでしょうか。「心理的な安心感」についてもう少し考察を深めてみたいと思います。

「心理的な安心感」とは、個人間の信頼と相互尊重があること、つまり、自分がチームに受け入れられており、安心して話すことができる感覚を意味します。例えば、「的外れな意見を言って恥をかくのは嫌だ」「未完全なアイデアだと揚げ足をとられて責められるかもしれない」といった思いがあって発言をしない人がいる場合、「心理的な安心感」が不十分な組織であると言えるでしょう。

「心理的な安心感」を醸成するには、お互いが相手の気持ちを察して話しやすい雰囲気をつくることが必要となります。とりわけ、チームへの影響力が高い組織の役職者には、この点に関する感度が高いことが求められる、ということが言えそうです。

同じ趣味をもつ人が集まる同好会のように、上下関係が薄く、楽しむために集まる集団であれば安心感は醸成されやすいでしょう。一方、社会で戦う企業では、厳しい批判や社内競争があるのが実情です。摩擦を恐れて意見を言わず、ぬるま湯につかったような状態で成果を出すのは不可能ではないかと思います。

「率直に発言しても大丈夫だ」という「安心感」と、伝え難いことを言わないで得られる一時的な「平穏」は、似ているようでまったく異なる状態だといえそうです。

ここでの「安心感」は、言葉から連想される「平穏」の状態でなく、個人の抑制になっている「恐怖感」を取り除き、エネルギーを開放するような役割だということでしょう。

多様な考えをもつ者同士がぶつかり、融合されることで成果物の質が向上する、という考え方が浸透している今のビジネス環境においては、「安心感」は成果を出すチームに必要不可欠だということも頷けます。

■「安心感」を高める、ピクサーの方法とは?

「みなが発言している状態」は「安心感」のひとつの表れといえますが、それに関するコーチング研究所の調査結果があります。

この調査では、上司と部下が会話において「どちらがどれくらい話しているか」を15カ国比較しました。その結果、「上司と部下が同じ量を話す」割合は、日本は14位と芳しくなく、話す割合として上司の方が多いということが分かりました。(※2)

この結果の背景には、日本は世界の中で比較的、階層主義的で権力や肩書きを重視する文化を持っていることが一因として考えられます。(※3)

目上の人に失礼があってはいけない、無礼な奴だと思われないようにしようと部下が発言を控えていることもあるでしょう。また、上司の側が、部下から意見されないよう無意識に威圧しながら、その影響力に気づいていないのかもしれません。

では、企業において安心感を高めるにはどうしたらいいのか。アニメーション映画会社のピクサーの取り組みがヒントになると思いご紹介します。(※4)

ピクサーには、「社員がアイデアや意見、批評を気兼ねなく交換できるのが、健全な創造的文化の証だ」という信念があり、それを制度化した「ブレイントラスト会議」があります。

「ブレイントラスト会議」は定期的に開催され、主に次のようなルールで運営されているそうです。

・全員が率直に意見を伝える。
・会議の場はみな平等であり、権限がなく、提案や助言に従う必要はない。
・批判されているのは、アイデアであって自分自身ではないと解釈する。
・意見が言いにくいと感じたら少人数でミニ・ブレイントラスト会議を開く。

「ブレイントラスト会議」を経ると、「つくり始めは目も当てられないほどの『駄作』」が面白い作品に変わっていくそうです。

また取り組みにしては、こんな記述もあります。

「つまらないことを言ってばつが悪くなる不安、相手の気分を害して萎縮する不安、やり返したりやり返されたりする不安は、どれも一度は払拭できたと思っても、必ず何かの拍子にまた頭はもたげる。そういうときは、正面から向き合うしかないのだ」

安心感は常に崩れてしまう脆さをもっており、日々、手をかけて築き続ける必要があるようです。

あなたの職場では、安心感はどれくらいあるでしょうか。

組織で成果を出すスピードをあげたいと思うとき、安心感をつくりだすという手段もぜひ選択肢として活用してみてください。

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【参考資料】
※1
Charles Duhigg, 2016, What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team, The New York Times

※2
コーチング研究所調査 「何が良好な上司と部下の関係をつくるのか」(2015年)

※3
『異文化理解力 ―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』(英治出版)
エリン・メイヤー(著)、 田岡恵 (監修)、樋口武志 (翻訳)

※4
『ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』(ダイヤモンド社)
エド・キャットムル、エイミー・ワラス(著)、石原薫 訳 (翻訳)

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