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「あなたのために何ができますか?」 ~ 部下との関係を変える一言

「あなたのために何ができますか?」 ~ 部下との関係を変える一言
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コーチングの原則のひとつに「個別対応」があります。

目の前の人を育成開発する際に、相手のタイプや状況に合わせて、こちらが臨機応変に対応の仕方を変えていく。相手にフィットした問いを投げ、アクノレッジをし、フィードバックすることができれば、相手が外国人であれ、年齢差のある人であれ、自分と違うジェンダーの人であれ、育成開発は、「きっとうまくいく」のだと思います。

しかし、これが、言うは易し行うは難しで、なかなか実行に移すのは大変です。

「個別対応」を阻むものは何か?

個別対応を阻む障壁は幾つかありますが、そのトップは、何よりもまず、人は自分が育成開発された経験を基にして、相手を開発しようとするところにあると思います。つまり、すごく簡単に言えば、「自分がされたように相手にする」傾向が強い。

一般的には、厳しく育てられた人は、人にも厳しくする傾向が強くなりますし、ほめ伸ばされた実感がある人は、ほめて伸ばす傾向が強くなります。放任されて伸びた人は放任する傾向が強い。 

歴史は繰り返すわけです。

もちろん逆もあって、「自分は厳しく開発されたのが辛かった。だから、人のことはほめ伸ばす」というようなこともあります。ただ、いずれにしても、自分が育成開発された経験を色濃く背負って次の人の開発に着手するということには変わりありません。

ということは、見ているのは自分の「過去」であって、「今」目の前にいる人が一体何を求めているのか、それはあまり見てはいない。というよりも、見えなくなっているというのが正解なのかもしれません。

もうひとつ、個別対応が起こりにくい原因として考えられるのが、個別対応を「相手に合わせる」というイメージで捉えていることがあります。「こちらが折れる」「やり方をやむなく変える」など、「相手に合わせる」という表現が、時にネガティブな印象を放つのかもしれません。

「上司は、部下に合わせてスタンスを変えるべきではない」「上司は、相手がどうであれ、常に軸を持ち、信じる方法を押し通すべきだ」というように。

なぜ、お客様にはできて、部下にはできないのか?

脳には、「一貫性」を保とうとする機能があると言われています。つまり、今日のやり方を明日も変えない。AさんにやっていることをBさんにもやる。会社は変わった方がいいけれど、“自分”に関しては「不変」こそが美徳。

しかし、少し考えると、「不変」を標榜する営業部長も、現場の営業マンだったときには、「相手に合わせる天才」だったはずです。お客様に対して「不変」では、売れるわけがありません。

居並ぶ営業部長の方々に、「お客様には個別対応ができた。だからこそ皆さんは昇進したわけですよね? それなのになぜ、部下には個別対応ができないのでしょう? 人を動かすということを考えれば、お客様も部下も同じではないでしょうか?」と尋ねると、多くの方が、「確かにそうだ」という顔をされます。

脳には「一貫性」を保とうとする一方で、「他者の眼差しを内面化」しようとする機能もある、ということです。つまり、「相手の思いに思いをはせる」ことができる。「一貫性」と「他者の眼差しの内面化」。これが、場面に応じてせめぎ合うわけです。

メジャーリーグ流「自分の経験値」から脱出する方法

「自分の経験値」をベースに生み出した部下への対応方法を、「一貫」して使い続ける。これだけでは、なかなか個別対応を実現することはできません。

では、どうすればいいでしょうか?

その一つのヒントを、雑誌の対談記事に見つけることができました。

数年前の「文藝春秋」に、長年プロ野球の監督、コーチを歴任された権藤博氏と元メジャーリーガーの吉井理人氏の対談が載っていました。その中で、吉井氏は、ニューヨーク・ メッツの最初の投手コーチに、「俺はお前のことは分からない。お前のことを知っているのはお前自身なんだから、お前の方からコーチの俺に教えてくれ」と言われ、面食らったと述べています。

「自分はコーチとしてあなたに個別対応したいから、あなたについて教えろ」というわけです。

「いいか、優れた投手になりたかったら1日300球投げろ!」と選手に言って、「なぜですか?」と問い返されたときに、「俺はそうして成功したんだ!」と答えた、往年の有名投手とは大きな違いです。

また、次のようなケースもありました。

弊社の顧客の、ある食品会社が、アメリカの会社を買収しました。アメリカに乗り込んだ執行役員は、何をしてもうまくいかない。特に、アメリカ側のトップと関係を全く構築することができませんでした。

しびれをきらした社長の依頼でコーチがつくことになりました。トップとの関係構築についてブレインストーミングした結果、執行役員が最終的に決めたのは、「直接相手に“聞いてしまう”」こと。執行役員は、意を決して1通のメールをトップに送りました。

「オレたち、正直、うまくいっていない。自分はどうしていいかわからないところまで来ている。でも、何とかこの状況を変えたい。だから、自分がどう変わる必要があるのか、ストレートに教えてほしい。あなたは、僕に何を求めているのか? 率直に、教えてくれ」

そのメールをきっかけに、執行役員とアメリカ側のトップとの関係は、文字通り、ドラスティックに変わりました。

まずは、どのくらい「自分の経験値」と「一貫性」を部下に適用しているかを振り返ってみてください。

そして、もし気になる部下がいれば、ぜひ聞いてみてください。

「What can I do for you?」と。

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【参考資料】
『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎)
林成之

『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)
池谷裕二

「プロ野球参謀から見た『名将の資格』」 権藤博/吉井理人 
(「文藝春秋」2013年9月特別号)

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