Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


部下との共感を生む「リーダーとしての物語」

部下との共感を生む「リーダーとしての物語」
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

オーナー企業創業者から、直にバトンを受け継いだAさんとのエグゼクティブ・コーチングが、2年ほど前に始まりました。自他共に認める頭脳派で、戦略企画の経験が豊富なAさんは、目的志向が強く、社長としてのビジョンや経営戦略については最初からおっしゃることが明確でした。

一方で、「名実共に“トップになる”ということが具体的にはどういうことなのか、実はピンと来ていません。経営チームが一丸となり、社員みんなが動く組織にしたい。そういう想いはあるのですが......」と、本音を吐露してくれました。

アンケートから見えてきたAさんのリーダーシップとは?

Aさんと私は、さっそく経営チームメンバーに、Aさん自身のリーダーシップに関するアンケートやインタビューを開始しました。その結果、

・経営チームの「会社へのエンゲージメント」は、思いのほか低い
・Aさんのリーダーシップについては、次の項目が低い
 1. 役員の成功や成長を支援している
 2. 役員をやる気にさせる提案や要望をしている
 3. 会社のビジョンを周囲に魅力的に語っている

ということがわかりました。


コーチング研究所の調査では、役員の「会社へのエンゲージメント」のスコアと、経営者のリーダーシップ要素である「成長促進」「方向性の提示」には関係があることが分かっています。(※1)

これらの結果を基に話し合う中で、Aさんは素直にこんなことを言われました。

「『やる気にさせる』や『魅力的に語る』が具体的にはどういうことなのか、分からない。でも、みんなが動いてくれるために必要なことであることは分かりました」

エグゼクティブ・コーチングでは何が行われているのか?

エグゼクティブ・コーチングでは、クライアントがリーダーとしてここまで歩んできたヒストリーを、丹念に紐解いていくことがあります。

「あなたがこの会社を選んだのは、どんな体験があったからですか?」
「そのとき、あなた自身は何を感じ、あなたの何が突き動かされたのですか?」
「あなたが、今もこの会社を、そして社長というポジションを、選び続けているのは......?」

具体的なイメージがいきいきと描かれるまで、セッションを重ねながら何度も繰り返し聞いていきます。

Aさんとも、これを行いました。

「尊敬する創業者からのラブコールは、素直に嬉しく、心が震えました」
「大きな組織で自分の力が試せると、気持ちが高ぶりました」
「みんなが思った以上に温かく迎えてくれ、ここが自分の居場所だと、確信しました」
「業界最大手を見学したとき、これに匹敵する会社に絶対なりたい!という気持ちが沸き起こり、なれる! とも思いました」

論理的な言葉をふんだんに使うAさんからは想像できない、意外な言葉がたくさん出てきました。

エグゼクティブコーチが「大切」にしていることとは?

クライアントのヒストリーを紐解くプロセスで、コーチとして大切にしていることがあります。

それは、クライアントが言葉をつむぐ際に、彼ら自身が「正直」である、すなわち「あるがまま」の等身大でいる、ということです。突出した有能であったからこそ、ここまでのポジションに上り詰めたトップに、“まとった鎧”を脱いで「正直であれ」というのは、なぜでしょうか。

次の調査は、世界中の 75,000 人のマネージャーを対象に行われた、「優れたリーダーの特徴」という、アンケートの上位3項目です。(※2)

正直である  ...85%
前向きである ...70%
人を鼓舞する ...69%

正直である(=あるがままでいる)ことは、周囲に何かを伝え、動かそうとする際、思考や戦略だけでなく、自分自身の感覚や感情、ひいてはリーダー自身を等身大で丸ごと相手に伝えていく、ということです。

そこには、生の一人の人間としての、その人だけの「物語」があります。
 
「このリーダーは、どこから来て、いまどこに居て、どこに行こうとしているのか、私たちをどんな未来に一緒に連れて行こうとしているのか・・・?」

その「物語」の中にいざなわれ、入り込んだと感じたとき、私たちはこれを共感と呼び、このリーダーについていこう、という感覚を覚えるのではないでしょうか。

Aさんとの未来に向けた「物語」づくりは、今、始まったところです。はてさて、どんな物語になるのか、その話は、「つづく」です。

あなたはリーダーとして、部下にどんな「物語」を、どんな言葉で、どんな表情や声色で語りますか。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
※1
コーチング研究所調査 「役員のエンゲージメントを高める経営者のリーダーシップ」 (2016年)

※2
Kouzes, J.M., Posner, B.Z., 2011,
Credibility: How Leaders Gain and Lose It, Why People Demand It, Jossey-Bass

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

エグゼクティブ・コーチング ビジョン/理念 ラーニング/学習 ロールマッチング 経営者/エグゼクティブ/取締役

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事