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「立場」の再選択

「立場」の再選択
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コーチングについては、一般的に、次のように説明されてきたのではないでしょうか。

「コーチとクライアントの間で行われるもので、コーチの役割は、クライアントに『質問する』ことであり、クライアントは、質問をきっかけに自由に話しその過程で『気づきを得る』。 

そして、『優れたコーチ』とは、クライアントに『気づきを与える人』であり、そのために『質問する人』である」

「質問する」を議論する

先日、「質問する」という言葉について、同僚のコーチたちと議論をしました。話の焦点は、質問をするときの我々コーチの「立場」に関するものでした。

  • 「質問する」という意識にいる時、我々は、常に「質問する側」に立ち、クライアントを「問われる側」に置いていないだろうか?
  • それは、コーチングという関係性においてコーチが優位な立場に立ち、コーチングの対話の中で恣意的な「方向づけ」をしていないだろうか?

そんな論点でした。

同様に、(誰かを)「コーチする」、(相手に)「気づかせる」という言葉についても議論しました。

「する側」と「される側」といった一方通行的な関係性が背後にないだろうか、場合によっては、コーチが意図せずとも、「上から目線」の立場になるリスクがないだろうか、と。

実際に、コーチング研究所が行ったコーチ力に関する調査からは、経験のあるコーチほど、「クライアントとの間に上下の関係を築かない」ことが分かっています(※1)。

即ち、力のあるコーチほど、相手が何でも話せる環境を創り、アドバイスせず、クライアント自身が意思決定できるように働きかける傾向があります。

逆に、経験の浅いコーチほど、相手を誘導したり、コントロールしたりする傾向があります。

また、国際コーチング連盟が定めるコーチの能力要件(※2)には、熟練したコーチたちは、相手と信頼を保ちながら、進んで自らの脆弱さを示すことで相手がオープンになることを促す能力を備えていることも示されています。
(Coach is willing to be vulnerable with client and have client be vulnerable with coach.)

私は、コーチとクライアントが上下の関係にならないのは、コーチのスキルの話ではなく、あり方の話だと理解しました。

コーチを「する」と「される」の関係はどこから来るのか?

それでは、こうしたものは、どこから来るのか?

それは、私たちが人に対してどんな立場を選択しているのか、そこを追求することで、ヒントが得られるように思います。

コーチの「立場の選択」が、会話のもたらす影響を変える。

私にそれを示してくれたのは、数年前に私のコーチであった、ハーレーン・アンダーソン氏でした(※3)。

彼女のコーチングは印象的でした。彼女と話をすると、自分が価値ある存在であることに気づきました。具体的には、コーチングの最後に、次のような言葉を何度か投げかけられました。

「今日も、私の知らなかったあなたを知ることができて、とても嬉しい」と。

この言葉に、彼女が私以上に、「私について『学ぶ』立場」を取っていることを感じました。

このスタンスがどこから来るのか、それを尋ねたとき、彼女は、下記のことを話してくれました。

  • コーチングにおいては、コーチはクライアントから「クライアントについて学習する」ためにここに居る、そのような立場を取りたい。
  • つまり、クライアントは、コーチにとって「クライアントについての教師」である。
  • 自分は、一方的で優位な立場にある質問者ではない。また、問題を定義し解決するエキスパートでもない。会話のパートナーでありたい。

人や、人との関係性における立場に関する彼女の選択、彼女の言葉を借りれば、「哲学的スタンスの選択」が、会話を方向づけ、影響力となってクライアントである私に伝わったのでしょう。

それに対して、当時の私は、技巧的に優れた質問をするために質問リストを作成したり、印象的な事例を提供するために懸命に本を読んだりしていました。

この背景には、クライアントに「学ばせる」ための何かを手に入れ、相対的に優位な関係を確保したい、という「立場の選択」がありました。

コーチ同士の議論は何を変えたか?

さて、「質問する」という言葉のもつリスクについて、我々コーチたちがどのような議論を辿ったのかを、最後に紹介します。

  • そもそも、質問はコーチからクライアントに投げかけられる必然性はあるのか?
  • 質問を考えるのは、常にコーチである必要性があるのか?

そんな疑問について検討しました。

  • 「質問する」という立場の選択を見直し、一旦、そこから離れてみることはできないだろうか?
  • 具体的には、質問が我々からクライアントに向けられるのではなく、コーチとクライアントでco-create、共創(Think together)できないだろうか?
  • クライアントとコーチが共に考えた質問が、両者の間に置かれ、コーチとクライアントが、共に質問を介して学ぶ立場に立つとどうなるのだろうか?

こうしたアイディアを携えて、私たちは部屋を出て、早速、各々の現場で試してみることにしました。

小さなものでしたが、翌日にはいくつか変化が起こりました。

ある社員から、昨日の議論の参加者の1人が主催する会議が変わったという報告がありました。

「これまでは、質問によってチェックされる会議で、ものが言えませんでした。それが突然、皆で論点を出しあい、話し合う会議に変わり驚きました。皆が活き活きと発言していて、自分もあんなに自由に話せたのは初めてで、とても嬉しい経験でした」

その会議のリーダーが、「自分が質問する」という立場を離れ、人に対して、場に対して、会話に対して、新しい立場を再選択した結果だったのかもしれません。

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【参考資料】
※1 コーチング研究所 調査レポート
コーチングの効果を最大化するコーチの行動・構造とは何か?」(2013)
※2 ICF CORE COMPETENCIES RATING LEVELS / MCC LEVEL 3.Establishing Trust and Intimancy with the Client
※3 ハーレーン・アンダーソン(著)、野村直樹、吉川悟 (翻訳)、青木義子(翻訳)、 『言語・会話、そして可能性』、金剛出版、2001年

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