Coach's VIEW

Coach's VIEW は、最新のコーチング情報やリサーチ結果、海外文献の紹介を通じて、組織改革や人材開発、リーダー開発グローバルビジネスを加速させていくヒントを提供するコラムです。


後継者を怖れる経営者と、後継者に未来を託す経営者

後継者を怖れる経営者と、後継者に未来を託す経営者

「オイディプス王」の舞台を観る機会がありました。

フロイトの「エディプス・コンプレックス」の語源ともなったギリシャ悲劇です。

劇の冒頭、テバイの王ライオスは、「将来、実の息子オイディプスが、自分を超える実力を持つ」という神の予言を恐れ、その命を奪おうとします。

わたしは舞台を観ながら、ある大手企業でCEOをされていたAさんの言葉を思い出していました。

「CEO時代の後半、私は自分の能力を超える部下の存在が怖かったのだと思います。無意識に、時間をかけて、自分を超えそうな部下を排除していったのかもしれません」

世代交代の裏に潜むものは何か?

大企業での突然の経営者交代劇や、前社長が返り咲くニュースは、よくマスコミなどで取り上げられます。また、後になって歴代の社長交代の評価が問われることも多々あります。

Aさんは、自分の次のCEO、そして会社にプラスになる形で道を譲ることができなかったことを、自ら認めていました。

エグゼクティブコーチの仕事をしていて感じることのひとつに、どんなリーダーも、やがて交代の局面を迎えることを分かりながらも、上手に対処できる人は少ない、ということです。

では、どうしたら、CEOが品位と誇りを保ちながら、自らの地位を次の世代に譲ることができるのでしょうか。その肝は何なのでしょうか。

話しは少しとびますが、私はこの5年、ある大学のバスケットボール部のメンタルコーチをしてきました。

チームが強くなるほど、ヘッドコーチは紅白戦で1軍と2軍が直接戦うことのないよう、1軍対3軍、2軍対4軍などの組み合わせにします。熾烈なスタメン争いは、選手同士のケガにつながることもあるからです。

ですから、それを考慮した上での組み合わせは、ある意味、健全で活性化している状態だからこそできる、とも言えます。

同じようなことは、ビジネスの世界でも起こります。

Pete Hammett 氏は、CCL(Center for Creative Leadership)の35年間にわたる世界中の幹部(エグゼクティブ・リーダー)との仕事を通じて得た見識に基づき、次のように言及しています。(※1)

「多くの人事部長と話してわかったことは、幹部の多くは組織の次世代リーダーの特定や育成にほとんど、あるいは、まったく関与していないことだ。なぜ幹部は後継者育成から遠いところにいるのか、ある人事部長に聞いてみたところ、『わが社の幹部は、後継者育成は自分の葬式プランを立てることよりも嫌なことだ。自分亡き後、家族写真の自分の場所を他の誰かにのっとられるようなものだ』と話してくれた」と。

激しいサバイバル競争を勝ち抜いてきたトップエグゼクティブほどこの傾向は強い。多くのクライアントをとおして、私はそう実感しています。

相手が肉親であろうとも、自分こそが活躍したい、賞賛されたい。

その欲望は、人を向上させもしますが、ギリシャ悲劇が書かれた2500年前から今日まで変わることのない「人の性」とも言えるでしょう。

「人の性」を超える関わりとは?

経済産業省が上場企業に実施した『「経営人材育成」に関する調査』があります。(※2)

これによると、経営人材育成に関し成果を上げている企業は、

  • 現経営トップが次期経営人材に積極的に関与している
  • 次期経営人材に周囲が積極的にフィードバックできる環境を整えている

ということが読み取れます。

これは、エグゼクティブ・コーチングでの私の実感値とも一致します。経営トップが次期後継者に関わらず、周囲の関わりも変化がない場合、世代交代は、確かにうまくいかないようです。

しかし、経営トップが積極的に関わったからといってうまくいくわけでもありません。トップが「どのように」次期後継者に関与するのか、その仕方に、成功の肝はあるように私は思います。

現経営トップが自らの内にある「人の性」を乗り越えたとき、トップ交代は成功にぐっと近づく実感があります。

では「人の性」を乗り越えた関わりとは、いったいどんな関わりなのでしょうか。

次の後継者へバトンを渡しきった元経営者Bさんの話を伺うことができました。Bさんがにこやかに私に語ってくださったことは、

  • 自分の後継者を、心から信頼すると決める
  • 「私」から学ばせるのではなく、この後継者にとってこれから重要となる「未来の関係者」から学ばせるようにする
  • 「私」に感謝させるのでなく、これから共に成果をもたらしてくれるであろう、「未来の関係者」に感謝させる

この3点でした。

「この歳になって、ようやく、トップ交代の成否は私が決めることではない、ということが分かりました。

「私が会社を離れたあと、彼(後継者)と共に組織を創りあげる『未来の彼と関わりを持つ人たち』なんですよね」

とも仰っていました。

Bさんがどうやってこの境地にたどり着いたのか、私はその肝を尋ねました。

Bさんはしばらく黙った後、つぶやきました。

「自分がコーチだったらどうするかな、と考えただけですよ」と。

私は思わず、膝を叩きました。

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

【参考資料】
※1 Pete Hammett, (2008) "The paradox of gifted leadership: developing the generation of leaders", Industrial and Commercial Training, Vol. 40 Iss: 1, pp.3 - 9
経営幹部による従業員の育成方法

※2 経営人材育成に向けた研究会 報告書について(METI/経済産業省)

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

上司部下 目標達成 育成/成長

関連記事