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どうしてあなたに情報が集まらないのか

どうしてあなたに情報が集まらないのか
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「フランス人は、飛行機をハイジャックしてエッフェル塔に突入するというテロリストの計画を未然に防いだ。そして、同様のテロ計画は早晩米国にも向けられるだろうとFBIに警告した」

これは『名経営者が、なぜ失敗するのか?』にある一文です。

この数週間後、ニューヨークで9.11が起きました。

同書には、組織の中で重要な情報が伝達されなかったことで「失敗」した事例がいくつか紹介されています。

たとえば、真珠湾攻撃の最初の兆候は、基地司令官に伝わらなかったそうです。理由のひとつは、周囲から過剰反応とされるのを恐れて報告されなかったというものでした。

また、上意下達が徹底されたかつてのGMでは、問題を指摘すると査定が下がるため、出世するにはすべてにイエスと言わなければならなかった、という幹部の話が紹介されています。

あなたの元に、必要な情報はどれくらい届いているか?

どんな組織でも、程度の差こそあれ、情報がどこかで滞るリスクを抱えているものです。では、あなたの元には、必要な情報はどれくらい届いているでしょうか?

私がかつてコーチをしていたAさんは、組織から情報を集めることに大きな課題を感じていました。

Aさんは100人を束ねる経営企画部のトップで、常に緻密な戦略を示すことで結果を出し、そのポジションに昇進した方です。部のトップとなったAさんの懸念は、部下から発言が出てこないことでした。

日常業務に必要な最低限の情報は定例会議で報告されており、仕事が進まなくなる状況ではありませんでした。しかしAさんは、部下に見えている視点でのアイディアやリスクこそが組織の成長に重要だと考えていました。

そこでAさんは、部下たちの話をいつでも聞ける仕組みをつくろうと、自室の扉を開けて誰でも話をしに来てもいい時間をつくったのです。しかし、部屋に訪れる部下は少なく、来たとしても「Aさんからアドバイスが欲しい」という話ばかりでした。

この状況を打破するべく、Aさんは直属の部下と定期的に1on1で話をする機会を設けることにしました。当初は、部下たちも当たり障りのないことしか言わなかったそうです。しかし、数ヶ月続けているうちにだんだんと口数が増えてきました。そして、定例会議の議題にはならなくとも、貴重な情報も聞けるようになっていきました。

半年後には、

「Aさんは前よりも話しやすいし、相談しやすくなった」
「『これは言うべきではないかもしれない』と遠慮することがなくなった」
「『この情報をAさんに伝えたい』と思うことが増えた」

といった声が聞かれるようになりました。

私はAさんに、部下たちの変化が起きた理由は何かを尋ねました。

Aさんは少し考えた後、「私自身が肩の力を抜いて、相手を言い含めるのをやめたのが良かったんじゃないですかね...」と、振り返りながら仰いました。

もともとのAさんは、完璧な戦略を示し相手の意見を論破する姿勢で部下に接していました。部下はそれを感じて「常に正しいことを言わなければならない」と意識していたのではないかと思います。

1on1の時間を重ねるうちに、「肩の力を抜いたAさん」に論破されるリスクを感じなくなったのでしょう。

最後にAさんは「みんなが思いついたアイディアや現場で気づいた改善点を話してくれるようになりました。これまで死角に入っていたことが、たくさん見えてきました」と笑顔で話をされました。

「情報が集まる人」の特徴とは?

先日、Aさんの変化を別の視点から考えさせられる機会がありました。

それは、出版不況の中でも世間が注目する「スクープ」で販売部数を伸ばしている「週刊文春」の編集長、新谷学氏の講演でした。

会場からの「有力情報を入手する記者の条件は何か?」という質問に対し、新谷氏は次のように答えていました。

記者にとって一番大事な資質は「愛嬌」。人間として「可愛げ」があるか。それに勝る武器はない。情報はすぐに古くなる。新しい情報を一早く入手するのが、優秀な記者だと思う。システムで情報を共有しても、形だけの共有にしかならない、と。

相手から、「こいつには伝えてもいい、伝えたい」と思ってもらえるような「愛嬌」があることが、情報が集まってくる条件ということなのでしょう。

「愛嬌」とは何なのか、さまざまな解釈があるかと思います。

私が考える愛嬌がある人の特徴は、「正しさにこだわらない」というものです。

正しさにこだわって人と接すると、自分か相手のどちらかが間違っているという結論になりがちです。愛嬌のある人は、自分と異なる意見が出てきても、話をしながらさらに考えを広げていく「大らかさ」をもっているように思います。

記者と組織のリーダーでは仕事の中身も必要な情報も異なりますが、「情報が必要だ」という点は通じるものがあると感じました。

「肩の力を抜いたAさん」は、自分の正しさを少し手放し、以前より「愛嬌」が増したのではないかと思ったのです。

情報を集めるためにレポートラインを整備したり、定例会議を組んだりと、仕組みを作ることは大切です。加えて、さらに情報が集まってくるために、「愛嬌」を高めてみるのはいかがでしょうか。

「愛嬌」によって、あなたの元に特ダネが舞い込んでくるかもしれません。

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【参考資料】
・シドニー・フィンケルシュタイン(著)、橋口 寛(監訳)、酒井 泰介(翻訳)、『名経営者が、なぜ失敗するのか?』、日経BP社、2004年
・新谷学、『「週刊文春」編集長の仕事術』、ダイヤモンド社、2017年

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