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感情を「書き出す」ことで得られる効果

感情を「書き出す」ことで得られる効果
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不思議な感覚を味わう出来事がありました。

学生時代から苦手意識を持ちながら、ずっと忘れられない先輩がいます。その先輩が大病を患ったと聞き、励ましのメッセージを送ろうと思ったのがきっかけでした。

先輩とバスケットボールで汗を流したことに触れながら、30年前の正直な気持ちを書き始めました。

「僕に対する先輩の厳しい振る舞いは圧迫感があり、苦しい感じがして嫌いだった」

「嫌いだった」を書いて、何を得たのか?

正直な気持ちを書き始めると、色々なことが頭の中に渦巻いてきました。

  • 先輩の「手取り足取り教える」スタイルに反発していたこと
  • でもそれは、先輩なりに私をうまくしてやろう、と思っての関わりだったのではないか? ということ
  • 嫌ではあったけれど、先輩から大きな影響も受けていたこと
  • 苦手だったのは、先輩に自分と似たものを感じていたからかもしれない、という気づき

次から次に、さまざまな思いが巡ってきました。

そして、先輩に抱いていた反発心や苦手意識、嫌な感情が次第に薄まり、代わりに「バスケがうまくなりたい」「もっと上達して、成長したい」という、当時の自分の「本当の思い」に再会したような、不思議な感覚を覚えたのです。

その後、脳科学者の茂木健一郎氏の著書に、次の一文を見つけました。

「時間が経ち冷静になった時に、改めて当時の感情と向き合うことで、その体験の自分なりの意味を整理することができます」(※1)

「感情」を書いてみる

エグゼクティブ・コーチングを行うときにも、「書く」という手段を使うことがあります。

自分のマネジメントにモヤモヤしたものがあり、不安でうまくいっていないと感じ、仕事がなかなか手につかないAさん。次のセッションまでに、A4の紙1枚に、その状況を書き出してくることを提案しました。

  • 「一人ひとりが自主性を発揮して、メンバー同士が影響しあうチームを作りたい」と思っていること
  • 部下に仕事を任せるために、口出しを控えていること
  • 現状の会社の業績は芳しくないこと
  • 目標を達成するために、手段を選ばないことがあること
  • チーム内に自分のマネジメントについて相談できるメンバーはいないこと
  • 時として、部下に高圧的な態度をとってしまうこと

Aさんが目指す理想像や、チームに起きている現象などがびっしり書かれていました。しかし、Aさんが何を感じているのか、それはどこにも見当たりません。

そこで、実際に部下と関わっている場面を思い起こしてもらい、その時の「感情」も書き出し欲しいとリクエストしました。

Aさんは、「え? 感情ですか?」と戸惑いながらも、ゆっくりと書き始めました。

  • 自分が部下に影響を与えられていないと感じると、不安になる
  • 部下に任せた後、イライラするときがある
  • 部下と距離を感じるときは寂しい
  • 部下に叱った後は、憂鬱で体がだるくなる

書き終わると、表情を少し緩ませながら、

「感情を書くのは、非常に苦痛な作業ですね。でも、書き進むにつれて自分の感情が整理されて、すっきりしてきたように思います」と語ってくれました。

そして、

「書きながら発見したのは、自分に『本当の欲求』があったことです。それは、人とうまく繋がりたい。人とつながりを持ちたい、という純粋な思いです」と。

「感情を表現する」ことのススメ

ドレイク・ベアー氏のコラムに、こんな一説があります。

「『感情を表現する』という目的のもとで行う『書く』行為がなぜこんなにも健康にいいのか。その最も大きな理由は『開示する』ことにある。不快感を避けたり、考えていることを抑圧することは、人の身体を緊張させ、気分をネガティブにし、認知能力を低下させる。このことについては、心理学者はみな基本的に一致している』(※2)

仕事をしていると、モヤモヤしていること、うまくいっていないこと、不安なことがいくつもあり、やるべきことがなかなか手に付かない、別の仕事をやっていても「あれは大丈夫かな」と気になって効率を落とすことがあります。

そんな時は、自分が「どう考えているか」に加えて「どのように感じているか」も一緒に書き出してみてはどうでしょうか。

自分が考えることを外に吐き出すことを、心理学用語で「思考の外在化」といいます。「書く」ことは、まさに思考を外在化させることであり、自分が抱えている問題や欲求など、「本当の思い」に距離を置いて客観視することができます。

自分の内面に感じていることを整理して、言葉を当てはめて紙に書き出せば、そこに滞っていた感情が自由になるはずです。すると、ベイヤー氏が言う「健康にいい」、つまり自分を解放し、心を安定させることができて「本当の思い」に気づく準備ができるのです。

「本当の思い」を知ることができれば、自分が望んでいないことを繰り返したり、自分を息苦しい型にはめたりしていることから抜け出すことができるのではないでしょうか。

そして、「本当にやるべきこと」がはっきり見えてくるようになると思うのです。

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【参考資料】
※1 茂木健一郎(著)、『忘れるだけでうまくいく脳と心の整理術』、PHP文庫、2014年
※2  Drake Baer, 'Expressive Writing' Is A Super Easy Way To Become Way Happier
May 23, 2014,Business Insider

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